第二十三話 新聞記者と幽霊
道楽者ダーヴィスの宝探しの報酬を手に入れた数日後、僕達は冒険者ギルドで仕事を探していた。
大金を手に入れてゆっくりしていたが……日本の娯楽に慣れた精神だとこの世界での休日の過ごし方が暇で仕方ない。
セブンブリッジ内もある程度観光したし、今上演している演目もほぼ全部見終えてしまったのでやることがない。
暇を持て余すぐらいなら冒険者ギルドで仕事を探した方がいいと思い、依頼掲示板を見て回る。
「お? これは……面白そうだね」
何か変わった依頼がないかと見ていると、一つの護衛依頼が目に付く。
内容はブラックホースジャーナルという新聞社のジャーナリストの護衛。
何でもここから二日離れた場所の村で幽霊騒動があり、それを記事にするから護衛してほしいとの事。
「この仕事を受けるワンニャン? 依頼人に連絡するから待ってほしいワンニャン」
「んじゃあ、あっちの酒場で待機しています」
受付嬢のベスティアに新聞記者の護衛の仕事を受けるというと、すぐに連絡するからギルド内で待っていてほしいと言われる。
僕達はギルド内にある酒場で待機していると伝えて酒場エリアへと向かい、いくつか新聞を購入して紅茶を注文すると依頼人が来るのを待つ。
「へぇ、錬金術を用いた長距離通信に成功か」
いくつか新聞を読んでいると、錬金術による長距離通信の成功を祝う記事が掲載されていた。
記事の内容を見ていると、どうやらモールス信号に近い技術で約五十キロ離れた距離との通信に成功したとの事。長距離通信に成功した錬金術師は今後はさらに距離を伸ばしていきたいとインタビューに答え、スポンサーを募っているという。
大衆新聞では著名人のインタビュー記事やスキャンダル、店の宣伝や物の売買など雑多な記事が掲載されている。
「家売りますかあ……ドラゴン金貨三千枚って高いのかな?」
「市民権と家の規模にもよりますね。市民権もついて三千枚なら破格というか……安すぎて怪しいです」
大衆新聞の記事の一つにセブンブリッジの西町の家を売る記事を見てシュヴァルツに声をかけると、あからさまに値段が安すぎて怪しいと言ってくる。
「そういえば市民権って、セブンブリッジに入るときにも言ってたけど何?」
「一言で言えば納税の義務が発生する代わりに王国の法に守られるということです。市民権がない我々は一種の長期滞在旅行者か外国人みたいな立ち位置です」
紅茶を飲みながら僕はシュヴァルツに市民権について質問すると、シュヴァルツは市民権に関して噛み砕いて答えてくれる。
「貴方が私の護衛? 騎士とリピリーって変な組み合わせね」
紅茶を飲みながら他にもいくつか目についた記事についてシュヴァルツと意見を交換しながら依頼人を待っていると、不意に声をかけてくる女性がいた。
声がした方向を見ると革製の乗馬服に膝下までのブーツとその足元にはボストンバック、首からはボックスタイプの上からファインダーをのぞくタイプのカメラをぶら下げ、立派な羽飾りのついたボンネットを被った赤毛の気の強そうな女性がいた。
「初めまして、ブラックホースジャーナル所属のジャーナリスト。アリッサよ」
女性はアリッサと名乗ると名刺なようなものを渡してくる。
「初めまして、ルーシェスです。人間の魔法使いです」
「私はルーシェス様の護衛のシュヴァルツと申します」
「魔法使いっ!? 貴方貴族出身なの?」
自己紹介すると、冒険者の中では稀有な存在に近い魔法使いということに驚かれる。
「ええっと、今は貴族じゃないです」
「ふーん……仕事に支障がないならいいわ」
貴族ではないと答えると、アリッサは僕とシュヴァルツを交互に見て何か一人で納得する。
「今回の依頼の話だけど、ここセブンブリッジからテイラス河を徒歩で北に二日ほど行った場所にある漁村で幽霊の目撃騒ぎがあるの。私はその幽霊騒ぎを記事にしたくてね。取材の間護衛してほしいのよ」
アリッサはテーブルにセブンブリッジ近辺の地図を取り出し、目的地の場所を伝えてくる。
「幽霊騒ぎってどんな内容なんです?」
「騒ぎと言っても夜中になると川岸に幽霊が現れてある方向を一定時間指さして消えるだけ。地元の人たちは気味悪がって騒いでるけど、具体的な被害は今の所聞いてないわ」
「ふむ、何かを伝えようとしているという所ですかね」
「それを調べたいけど、私はそこまで強くないし、万が一悪霊だったら手も足も出ないから依頼したのよ。でもまさか魔法使いが受けてくれるとは思わなかったわ」
僕が幽霊騒ぎの内容を聞くと、アリッサは件の漁村に幽霊が現れてとある方向を指さすだけだという。
アリッサからある程度聞きたいことを聞いた僕達は依頼を引き受けて件の幽霊騒ぎが起きている漁村を目指す。
「途中までは河川船を使うわ」
アリッサと僕達はテイラス河の河川船が停泊している港へと向かう。
河川船は全体的に貨物船が多く、テイラス河を利用してナブー王国北部の川沿いの村や集積所に貿易品などを運び、セブンブリッジへは石炭や木材、食料品や綿花を運んでいた。
「外輪船もあるんだ」
この世界は蒸気機関が発明されているのか、ボイラーで動く外輪船もあり、独特の駆動音と煙突からモクモクと黒煙を吐き出して運航している。
帆船も多く、割合としては帆船が六、外輪船が四といったところだろうか。
アリッサが船長と交渉して一隻の外輪船に乗せてもらうことになった。
出航前にアリッサは外輪船を前に船員と僕達の写真を撮る。
どうやら記事にすることで運賃をまけてもらったらしい。
梱包された荷物を載せて外輪船が出航する。今回乗船したのは両サイドに外輪があるサイドホイーラー式でそこそこの速度を出した。
テイラス河では輸送船だけではなく、漁業用の小舟もちらほらとみえ、投網で魚を獲っている漁師たちの姿も見えた。
漁師の中にはリザートマンという二足歩行するワニのような種族もいて、彼らは銛を片手に素潜りして巨大な川魚を獲っていた。
目的の漁村までは河を利用しても時間がかかる場所で、船の上で一泊することになった。元々乗船した外輪船は客船でもないので僕達が寝泊まりできるような部屋はなく、甲板で過ごす。
毛布にくるまり、保存食を食べながら夜を過ごし、テイラス河にもモンスターが生息しており、河賊というならず者もいるので船員と交代で見張りをしながら一夜を過ごす。
幸い今回は何の問題もなく夜が明け、目的の漁村近くの集積場で下船する。
船員たちは記事になったら知らせてくれとアリッサに別れを告げて荷下ろしの作業に入り、僕達は目的地へと向かう。
目的地の漁村は今いる集積所から徒歩で数時間ほどらしく、アリッサと僕達は地図を片手に踏み固められただけの街道を進んでいく。
この辺りは農村が多いのか、街道脇には畑が多く農作業をしている人たちが目立つ。
太陽がそろそろ夕日に変わるころに件の漁村に到着する。
畑仕事や漁の帰りの村人たちがいて、アリッサが聞き込みを開始する。
漁村の村人たちはアリッサに好意的というか、幽霊をどうにかしてほしいと思っていたらしく協力的だ。
幽霊自体が現れるようになったのは数か月ほど前で、何かを訴えるように一定の方向を指さす。
村人たちは迷信深いようで話しかけたり指さす方向に行ったら呪われると思っていたらしく特に調べたりしていないようだ。
「とりあえず、村長さんの家で寝泊まりさせてもらえることになったから、休憩したら幽霊を探すわよ」
村人たちは怯えて村長もどうにかしないとと思っていたらしく、僕達が件の幽霊を調べに来たというと諸手を上げて喜んでくれた。
冒険者ギルドに依頼したら手続きやら依頼料とか用意しないといけなかったのだが、アリッサの交渉で幽霊を調べる代わりに村長宅を宿代わりに、食事を提供してもらえることになった。
夕食は今日漁で獲れた川魚の塩焼きと魚のスープだった。
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