第二話 オークの襲撃
「セブンブリッジに向かう前に、能力を把握しないとな。シュヴァルツ、この世界の魔法って詠唱とかする?」
「基本的に詠唱しますが、詠唱内容は人によって違います。詠唱はあくまで魔法行使するための集中力を高める為の補助。ジャンプする前に助走つけるようなものです。あまり目立ちたくないのでしたらそれっぽい詠唱を呟けばよろしいかと」
ゲームキャラの能力を手に入れたとしても使い方を知らなければ意味がない。
シュヴァルツにこの世界の詠唱について質問すると、集中力を高めるための物だという。
「一度魔法を試してみるか……っと、その前に装備とかはどこに?」
「マスターのその指輪がアイテムボックスの機能を持っています。指輪に反対側の手を添えると収納されている内容物一覧が思い浮かぶはずです。そこから取り出したいものをイメージすれば取り出せます。指輪の宝石部分に押し付ければ収納できます」
「こうかな? うわっ!?」
ゲームで使っていたアイテムも引き継がれていると聞いてどこにあるか聞くと、シュヴァルツは指輪を指さして取り出し方法を教えてくれる。
試しに指輪に反対の手を添えると、視界に収納されているアイテム一覧がSFチックな半透明のウィンド画面として表示される。
指輪に触れたまま顔を左右に向けると、視界に浮かぶアイテムウィンドも追従するように移動し、指輪から手を離すとアイテムウィンドも消える。
「お~、こんな風に取り出せるんだ」
魔法使いの杖を取り出したいとイメージすると、まるで「かかって来いよ、物理法則なんて捨てちまってよ!」的に宝石部分から杖がにゅるんと出てくる。同じように杖を指輪の宝石部分に押し付けると凄い吸引力で吸い込まれたようにしゅぽんっと杖が収納されていく。
「よし、それじゃあ魔法の実験をしてみよう。万物の根源たるマナよ 矢となりて 我が敵を撃て! 魔法の矢!」
再度指輪から杖を取り出して、昔見たアニメの詠唱を真似て魔法の矢を撃ち出す魔法を唱える。
するとエネルギー状の矢のようなものが僕の周囲に十本近く現れ、近くの木に向かって飛んだかと思うと、轟音を立てて粉塵を上げる。
「うわぁ……威力強すぎないかな、これ」
粉塵が晴れると、マジックアローが命中した部分が抉り取られるように穴が開いており、自重に耐えれなくなった木が豪快な音を立てて倒れ、驚いた鳥たちが飛んで逃げていった。
魔法の矢は僕がプレイしていたゲームの最初に覚える魔法で、MODの効果でレベルアップすると魔法の矢の本数が最大十本まで増えていく。
「お見事です、マスター」
シュヴァルツは倒れた木を見て、僕を褒め称えるように拍手する。
初歩的な攻撃時魔法でもある魔法の矢でこの威力だと、究極魔法なんて言われているゲーム終盤で習得できるメテオストライクやインフェルノストームとか使ったら天変地異か何かが起きる気がする。
可能な限り攻撃は初級魔法をメインにして、クラウドコントロールという味方の補助や敵の妨害をメインにしたスタイルでやっていくのが無難かもしれない。
「それじゃそろそろセブンブリッジに行こうか。シュヴァルツ、案内してくれる?」
「了解しました、セブンブリッジはこちらです」
僕はシュヴァルツについていくように森の中を歩く。
シュヴァルツは両手剣で通行の邪魔になりそうな枝や藪を切り裂き進んでいく。
「意外と動物とかいるね」
「ここまで人はめったに来ませんから」
観光気分で周囲を見回せば日本の都会では見ることのない動植物を見かける。
と言っても、動物たちは僕たちの姿を見ると即座に逃げていき姿を消す。
「マスター、この近くに川があるようです。今日はそこで野営をしましょう」
「わかった。キャンプ道具があるから設置できる広い場所がないか、一緒に探してくれる?」
「了解しました」
しばらく森の中を歩いていると、シュヴァルツが振り返り野営を提案してくる。
まだまだ歩ける体力はあったが、シュヴァルツの指示に従ってキャンプに適した場所を探す。
「川の透明度が凄いな」
軽く川を覗くと自分の姿がはっきり映るほど綺麗な川だった。
(これがこの世界の僕かぁ……)
川面に映る自分の姿は、銀髪のネコ毛質で色白の肌、前髪で片目隠れの金眼タレ目のおっとりした雰囲気の美ショタと自画自賛したくなるほどの美少年だ。
「マスター、この辺が地面も平らでよろしいかと」
「あ、じゃあテントだすね」
僕が川に映る自分の姿に見とれていると、シュヴァルツがキャンプを設置するのに適した場所を見つける。
我に返った僕は見とれていたことを誤魔化すようにアイテムボックス機能のある指輪からテントを取り出す。
「おお~、すごい」
ゲームではボタンを押したら自動的にテントが設置されていた。この世界では指輪から取り出すと自立装置でもついているのか勝手に組みあがり、数分でテントが完成する。
「シュヴァルツは何か食べれないものはある?」
「私はサーヴァントなのでマスターから供給される魔力だけで生きていけます」
アイテムボックスから食料を取り出し、シュヴァルツにアレルギーがないか聞くと、魔力だけで生きていけると伝えてくる。
「街についたら食事しないと怪しまれない?」
「飲食は可能です。ただ、今は摂取する必要はございません」
「そう? 何か食べたいものがあったら遠慮なくいってよ」
「ありがとうございます」
飲食自体はできるようなので、人里に行っても大丈夫そうだ。
生前プレイしていたゲームではサバイバルモードというのがあり、飢えと渇きがあった。
なのでアイテムボックスには大量の料理や飲み物が入っており、それを取り出して焚火に当たりながら食事をする。
「なんだかソロキャンしてる気分だな」
夜の森は静かで、空を見上げれば木々の間から月が覗いている。
その月は僕の知ってる月とは少し違った。日本で見る月よりも大きく、土星のようなリングがあった。
シュヴァルツは無言で焚火の番をしており、焚火の火に照らされた漆黒の鎧がとても幻想的にも見えた。
「そろそろ寝るね」
「ゆっくりお休みください。私は睡眠不要なのでこのまま夜通し火の番をさせてもらいます」
そろそろ寝ようかと思っているとガサガサと藪を突っ切って、何かがこっちに来る音がする。
「マスター、私の後ろにいてください」
シュヴァルツが両手剣を抜いて、音がする方を警戒していると森の暗闇の中から何かが風切り音とともに飛んでくる。
「マスターには指一本触れさせませんっ!」
シュヴァルツは森の暗闇の中から飛んできたものを両手剣で叩き落とす。
「槍?」
飛んできたのは尖った黒曜石の穂先の付いた粗悪な作りの槍。最初の一本目を皮切りに次々と槍が投げ込まれるが、全部シュヴァルツが打ち払っていく。
投げ槍ではらちが明かないと思ったのか、襲撃者たちが森の奥から姿を現す。
森の奥から現れたのは灰色の肌に豚の鼻、猪のような下牙の生えた原始人顔の人型生物の集団。その手には原始的な石斧や槍で武装している。
「原始人?」
「オークです。この世界ではモンスターに分類される人食い人種です」
シュヴァルツは相手の姿を見てオークだと教えてくれる。
オーク達は僕たちの姿を見て獲物が見つかったと笑みを浮かべ、武器を振りかざして襲ってくる。
「マスターに害なす者に鉄槌をっ!!」
シュヴァルツがそう叫ぶと、オークの集団に突っ込む。
上段に振り上げた両手剣で先頭にいたオークを頭頂部から唐竹割に真っ二つに切り裂く。
一撃で両断されたオークの体は血と臓物をまき散らしながら左右に分かれ、絶命する。一瞬森に静寂が訪れ、仲間を殺されたことに怒るオークの雄たけびが夜の森に響き渡り、仲間の仇を取ろうとシュヴァルツに群がる。
シュヴァルツの鎧はかなり頑丈なのかこん棒で叩かれようが、槍で突かれ様が傷ひとつ負うことなく、逆にオーク達の武器が鎧によって破壊され、シュヴァルツの両手剣の餌食となってオーク達は切り裂かれていく。
シュヴァルツは手に負えないと思った一部のオークが僕に向かってくる。
「万物の根源たるマナよ 矢となりて 我が敵を撃て! 魔法の矢!!」
オークが襲ってきたというのに、僕には恐怖心はなく、呪文を唱えて魔法の矢を生み出し、オークに向けて次々と魔法の矢を射出していく。
僕が子供だと侮っていたオーク達は驚愕した表情のまま魔法の矢の餌食となり、命中した箇所が爆ぜて絶命していく。
シュヴァルツの暴風ともいえる剣技と、僕の魔法によって次々と数を減らしていくオーク達。
後方にいたオークが角笛を鳴らしたかと思うと、壊走する様にオーク達が這う這うの体で逃げていく。
「ふう……何とかなった」
オーク達が全部逃げたことを確認すると、どっと疲れが出たのかその場に座り込む。
「マスター、オークの死骸はどうしましょうか?」
「この世界ではオークとかモンスターの死骸はどうしているの?」
座り込んで一息ついていると、シュヴァルツがオークの死体の処理について聞いてくるので、この世界ではどうしているか質問してみる。
「解体して売れる部位は売却しています。売れない部位は土に埋めたり焼いたりしていますね」
「オークはどの部位が売れるの?」
「肉は食料になりますし、骨や牙に内臓は錬金術の材料。皮はなめして革製品に、魔石が一番高く売れます」
「うえっ……肉食の人型生物の肉とかよく食べれるね」
オークはどこが売れるか聞いて、肉が食料になっていると言われて気分が悪くなる。とりあえずこの世界の料理は元が何か確認してから食べるようにした方がよさそうだ。
「解体したいけど解体方法なんて知らないし、この数はしんどいよね。どうしようか?」
「でしたら指輪に収納してはいかがですか? 手数料は取られますが、冒険者ギルドにはモンスターの解体業者が常住しています。そちらでオークの解体と売却手続きをしてもらえます」
「じゃあそれで」
街につけば解体業者がいるとシュヴァルツが言うので、そっちに任せることにすることにしてオークの死体を回収していく。
周辺が血生臭いし、血の匂いに誘われた野生動物やオークがお礼参りに来るかもしれないので川を更に下流へ下ってキャンプ地を移すとシュヴァルツに見張りを任せて僕は眠った。
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