第十九話 ジャングルの戦闘
「マスター、島に到着したようです」
シュヴァルツに起こされ、目的の島に到着したこと知らされる。
「気分はどうだ? いけるか? ヒャッハー?」
「まだ本調子じゃないなら上陸は後にできるっすよ?」
「うん? 全然大丈夫だよ?」
起き上がるとなぜかモヒーカーンとマガミに体調を心配される。
ルビィやセガールも心配そうに顔を覗き込んでくる。
「どうやらすぐに仮眠を取ったことで、あの戦闘でマスターが無理して魔法を使ったと勘違いしているようです。彼ら基準では海をも凍らす魔法は上位魔法のようで」
なんでみんなが心配しているのか首をかしげていると、シュヴァルツがこっそり耳打ちしてくれる。
「皆心配してくれてありがとう。寝たらすっきりしたから」
「おう、海の上じゃ手も足も出せなかったが……島に上陸したら俺様たちに任せろよヒャッハー!」
「そうっすよ。ジャングルでの移動や遺跡のトラップとかあったら任せるっす」
「僕も頑張るから」
心配してくれることが嬉しくて、自分は元気だとアピールするとモヒーカーン達が頭を撫でて船内から出ていく。
「あれが目的の島?」
「ああ、これ以上はこの船じゃ近寄れないから、ここからは小舟に乗っていくぞ」
甲板に出ると右手に島が見える。
太陽の日差しに目を細めながら島を見ているとスパイク船長がやってきて小舟に乗り換えることを知らせてくれる。
「船長はあの島について何か知ってる?」
「普段の貿易航路から外れているから詳しくは知らない。軽く地元の漁師にも聞いてみたが、休憩に浜辺に上陸するぐらいで、内部までは足を踏み入れない。モンスターもいるしな」
小舟に乗って島に向かう途中スパイク船長に上陸予定の島について聞いてみるが、ほとんど人が寄らない島ということしかわからなかった。
浜辺につくと、船員たちが資材で簡易の馬防柵を作り、テントを組み立てていく。
「なるべく肌は露出しないようにしてくれっす。毒虫にかまれたり、触れるだけでかぶれる毒草とかもあるっす。暑くても我慢してほしいっす」
マガミは小さなテントを組み立てながら全員に長袖長ズボンを着用して肌を露出させないように注意する。
「さ、虫よけの煙を焚いたっす。けむたいっすが我慢して煙を全身に染みこませるっすよ」
マガミは組み立てた小さなテントの中で虫除けの薬草を燃やして煙を充満させると一人一人中に入るように指示してくる。
煙が充満するテントに入ると皆ゲホゲホ言いながら煙を服に染みこませていく。
「げほっ……俺様ベーコンになってないよな? ヒャッハー」
「体臭が煙くさぁい……」
テントから出てきたモヒーカーンがそんなジョークを言い、ルビィが染みついた虫除けの匂いに文句を言う。
「目的地はあのジャングルの奥地のようですね」
メモリーストーンから書き写した地図をシュヴァルツが確認して、向かう場所を指さす。
「ルーシェス、隊列どうするんだヒャッハー?」
「え? 僕が決めるの!?」
「何言ってるんだ? これはお前が受けた依頼だろ? お前が今回の依頼チームのリーダーなの当たり前だろヒャッハー!」
モヒーカーンから急に隊列をどうするか言われて驚いた僕は思わず聞き返す。
モヒーカーンは呆れた顔でダーヴィスから宝探しの依頼を受けたのはお前だろと言われ、改めて僕がリーダーだと釘を刺される。
「今回みたいに依頼内容に合わせて別のチームと合同で仕事をするかもしれない。大体意思決定権を持つチームリーダーってのは仕事を持ってきたチームの代表がやるのが通例だぜヒャッハー!」
モヒーカーンは先輩冒険者としてアドバイスするように、合同チームを組む際は仕事を持ってきたチームリーダーが全体のリーダーになると教えてくれる。
「ええっと……それじゃあ……シュヴァルツとマガミが先頭で。シュヴァルツは地図を確認しながら先導、マガミは斥候をお願いします」
「承りしました」
「任せるっす」
しばし考えてまずはシュヴァルツとマガミを前衛に配置する。
シュヴァルツは騎士礼をし手了承し、マガミも胸を叩いて前衛を引き受ける。
「中列は僕とセガール。セガールは戦闘に応じてマガミと入れ替わってくれる」
「わかった」
中列に僕とセガールを配置する。セガールも配置に文句がないのか短く頷く。
「モヒーカーンとルビィは後列。ルビィは後方を警戒してほしい。モヒーカーンはルビィの護衛で」
「オッケー、任せて!」
「やればできるじゃねえか、ヒャッハー!」
最後にルビィとモヒーカーンを配置すると、ルビィはガッツポーズをして承諾し、モヒーカーンは僕の頭を撫でながら褒めてくれる。
隊列を決めると僕達は地図に記された×マークを目指してジャングルを進んでいく。
「川っすね……」
「地図に記されている川なら、この川を上っていくと目的地に近づきますね」
しばらくジャングルを進んでいると、川に出る。
シュヴァルツが地図を確認しながら上流へ向かうようにと伝え、僕達は川に沿って上流へと移動していく。
「止まるっす!」
斥候として先頭を歩いていたマガミが足を止めて、後ろのメンバーに向かって止まるように合図する。
「どうした?」
「場所まではわからないけど、何かいるっす」
セガールが声をかけるとマガミは声を潜めて周囲を伺う。
「マガミさん、あそこに複数のモンスターが潜んでいます!」
シュヴァルツが進行方向の倒木を両手剣で指してモンスターの存在を知らせる。
「シュヴァルツとセガールは倒木に潜んでいるモンスターの対処を!」
「了解しました」
「任せろ!」
シュヴァルツとセガールが倒木に向かうと、倒木の裏に潜んでいたモンスターが姿を現す。
現れたのは黒光りする甲羅を持つ巨大な蟹。穴を掘って潜んでいたのか、起き上がるときに体のあちこちから土が零れ落ちている。
「ブラックキャンサーです! 獰猛な肉食の蟹です! 背中の甲羅は固いので腹を狙ってください!!」
シュヴァルツが巨大蟹の正体と弱点を叫ぶ。不意打ちが失敗したブラックキャンサーは倒木を踏み越え、セガールたちに襲い掛かる。
ブラックキャンサーはその鋏を振り下ろすと、シュヴァルツとセガールは横に飛びのいて鋏の攻撃を回避する。
「残りのモンスターはどこだっ!?」
「木の上っす!!」
「ギャガッ!?」
モヒーカーンがハンドアックス二刀流で構えて周囲を警戒する。
マガミがまだ姿の見えないモンスターの気配を読み取ったのか、クロスボウを放つと何もない空間にボルトが刺さり、姿が見えなかったモンスターが姿を現す。
「テスフラです! 姿を消されると厄介ですよっ!!」
木の上から僕達を押そうとしていたのは巨大なカメレオン。シュヴァルツが巨大カメレオンの正体を叫ぶと同時にお返しとばかりにマガミに向かって舌を打ち出すように伸ばす。
「うわっ!?」
「させっかヒャッハー!!」
マガミが飛びのいて避けようとする前にモヒーカーンがハンドアックスを振り下ろし、伸びてきた舌を切断する。
「このっ!!」
モヒーカーンの攻撃に連携する様にルビィが矢を放ち、テスフラの脳天に命中する。
脳天に矢を受けたテスフラはその一撃で絶命したのか木から転落して動かなくなる。
ブラックキャンサーの方はシュヴァルツが両手剣で鋏の攻撃を弾き返し、セガールが腹部や長い脚の節を攻撃する。
「万物の根源たるマナよ 鋭き歯となりて 我が敵を噛み砕けっ! 鮫口!!」
僕が鮫口の呪文を唱えると二匹のエネルギー状の鮫が現れ、杖を振り下ろすと同時に空中を泳いでブラックキャンサーの両脚を噛み砕く。
足を噛み砕かれたブラックキャンサーはあおむけに倒れ、泡を吹きあげて身を護ろうとするが……
「好機!!」
シュヴァルツとセガールが腹部に剣を突き刺し、手首を捻って内臓をかき回す。
それが止めとなったのか、ブラックキャンサーはぐったりとして動かなくなった。
「ふう、こんなモンスターもいるんだなヒャッハー」
「ルーシェス、モンスターの回収お願いするっす」
戦闘を終えるとモヒーカーンが一仕事終えたように額の汗を拭い、マガミが僕に回収をお願いしてくる。
指輪をモンスターの死骸に触れさせるとシュポっと掃除機がごみを吸うようにモンスター達を回収していく。
「マジックバッグ便利だよねえ~。僕も欲しいなあ~」
「一番小さい奴でドラゴン金貨二千枚はする」
ルビィが僕の指輪を見ながらしみじみとマジックバックというアイテムボックス機能を持った魔法のカバンを欲しがり、剣についたモンスターの体液を拭きとっていたセガールがぼそりと値段を呟く。
「一番小さいのでそんなにするんですかっ!?」
「性能もそうだけどよ、やっぱサイズに関係なく収納できるってのは需要が高いし、危険物を楽々持ち運べるからな。ちょっと税金やらなんやらでそういう値段なんだぜヒャハー!」
あの廃坑にいたゴブリン達の所で見つけたマジックアイテムですらドラゴン金貨百枚前後の価値しかなかったのに、マジックバックの値段が十倍以上の値段にびっくりする。
モヒーカーンが補足する様にマジックバッグがなぜ高いか教えてくれる。
「戦闘音やモンスターの血に集まってくる可能性がありますから、そろそろ移動しましょう」
シュヴァルツがそう言って、僕達は探索を再開した。
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