第十八話 海上戦
ダーヴィスの依頼を受けて三日後、僕とシュヴァルツはモヒーカーンのチームに声をかけて西町にある新港にきていた。
港湾には荷下ろし用の水圧式のクレーンがせわしなく稼働しており、荷馬車や港湾労働者が朝早くから出入りしている。
ダーヴィスに指定された桟橋へ向かうと四本マストのスクーナーと呼ばれる帆船が停泊しており、船の昇降口近くにダーヴィスがいた。
「お待ちしておりました。そちらの方々が追加のメンバーですかな?」
「はい、アイアンランクのモヒーカーンさんです」
「よろしくお願いしますヒャ……ゴホン」
ダーヴィスにモヒーカーン達を紹介する。
モヒーカーンもセブンブリッジの著名人であるダーヴィスにはいつも口調ではなく、敬語で喋ろうと努力している。
「こちらがこの船コーラル号の船長、スパイク船長です」
「おう、よろしくな! 船の上では俺の言うことは聞けよ」
モヒーカーンのチームが自己紹介を終えると、ダーヴィスはスクーナー船の船長を紹介する。
スパイク船長は大航海時代の提督服に似た服装で、銅鑼のような大声で挨拶してくる。
「島の近くまではこの船で、上陸は小舟だ。浜辺にベースキャンプを作る。タイムリミットの四日を過ぎたら嵐とか特別な理由がない限りは、船はお前らが船に戻っていなくてもセブンブリッジに戻る。島に取り残されたくなかったらリミットは守れよ。準備ができたなら船に乗れ、直ぐに出港だ!」
「吉報お待ちしております」
スパイク船長は僕達に向かってタイムリミットを守れと釘を刺し、ダーヴィスは笑みを浮かべて就航を見送ろうとする。
「それじゃあ、僕達も行きましょうか」
「いいけど、シュヴァルツさんの装備それでいいの? 海に落ちたらシャレにならないよ?」
「さすがに船の上で金属鎧は色々と不利じゃないっすか? 革鎧とかに着替えたほうがいいっすよ」
僕達も船に乗ろうとすると、ルビィがシュヴァルツを指さす。
マガミも全身鎧のシュヴァルツを心配して革鎧に着替えてはと提案してくる。
「宗教上の関係で肌を晒すわけにはいきませんので。落ちたら落ちたで自己責任ですよ」
「最悪僕が魔法で何とかするから」
「はぁ~……便利っすね」
シュヴァルツは宗教上の理由と言って着替えを断り、シュヴァルツが万が一海に落ちても僕がフォローするように魔法で何とかすると伝えると、マガミが感嘆の声を漏らしセガールが無言でうんうんとマガミに同意するように頷く。
「出港!!」
僕達が乗船するとコーラル号は帆を張り、錨を巻き上げて出港を知らせる鐘を何度も鳴らして出港する。
「風任せだが、半日もあれば目的の島に到着する。それまでは船内で待機していてくれ。何か質問は?」
「海にはモンスターはいるの? もし遭遇した場合は僕たちどうしたらいい?」
風を受けて走り出す船の上で船長から目的地の島への到着予定時間と船内で待機していろと言われる。
スパイク船長に何か質問はあるかと言われたので、海のモンスターや戦闘について質問してみる。
「基本は回避だ。コーラル号は船足が速いからよほどのことがない限りは逃げ切れるはずだ。万が一戦闘になったとしても部下に任せろ、お前ら全員船の上での戦闘なんて経験ないだろ? 特にあんたは海に落ちたらお陀仏だ」
スパイク船長は不敵に笑いながら僕の質問に答えて、シュヴァルツを指さす。
話が聞こえていた船員たちが力こぶを作ったりして紅一点のルビィにアピールしている。
「それじゃあ僕達は邪魔にならないように船内にいようか」
「そうだな、ヒャッハー!」
甲板にいてもやれることはないので、他の船員の邪魔にならないように船倉へと向かう。
「前方に巨大な影が見えます!」
「戦闘は避けろ! 取り舵いっぱい!!」
僕達が船倉へ向かおうとすると、マストの上の見張り台にいた船員が影が見えると叫び、スパイク船長が操舵士に向かって取り舵と命令する。
「!? 左からシーライオンに乗ったサバキンが浮上! 罠です!!」
「ちっ! 逃げれるか?」
「旋回中で無理ですっ!!」
前方の影を回避しようとしたら、それは罠だったようで、水中に潜んでいたモンスター達が姿を現す。
海面から浮上したのはシーライオンという緑色の鱗で覆われた上半身がライオン、下半身が魚の水生モンスター。
その背中にまたがるのは半魚人という言葉が似合う半人半魚のぎょろっとした大きな黒目が特徴のサバキンというモンスターがトライデントという三又の槍や漁業用の投網を振り回して襲い掛かってくる。
「やつら船の横っ腹に突撃して穴をあける気です!」
「クロスボウや銛で迎撃しろっ! 穴開けられたら俺達はおしまいだぞ!!」
甲板は戦場になって、操舵に必要な最低人員以外の船員が思い思いに武器を取って迎撃態勢に入っていく。
船員たちがクロスボウを持ち出して迎撃に当たるが、シーライオンは蛇行してボルトを回避し、距離を詰めていく。
「うわっ!?」
「えいっ!!」
遠距離攻撃を持つマガミとルビィも迎撃に参加するが、波の揺れのせいで狙いが定まらないのか、外したり、転倒しそうになる。
逆に近づいてきたサバキン達が投網を投げて、船員の何名かが巻き込まれて抜け出そうと藻掻く。
「マガミ、ルビィ、下がれ! 不慣れな海上戦じゃ俺達は足手まといでしかねえぜヒャッハー!」
甲板の荷物や手すりなどにしがみ付きながらモヒーカーンが二人に戻るように叫ぶ。セガールも二人に戻るように手招きをする。
「万物の根源たるマナよ 絶対零度の息吹となりて 我が敵を包め! 氷結の嵐!!」
僕はマガミとルビィの二人と入れ替わるように甲板の端に飛び出すと、海に向かって氷結の嵐の呪文を唱える。すると唐突に空が曇り、魔法効果範囲内でのみ猛吹雪が発生して早送り映像の様に海が凍り付いていく。
凍り付いていく範囲は一気に広がっていき、モンスター達が逃げようとするが間に合わず、巻き込まれて海と一緒に氷の中に閉じ込められてその命を失っていく。
範囲外のモンスター達も魔法で海の温度が一気に下がったせいか、動きが鈍くなる。
「すっ……すげぇ……」
船員と混じってクロスボウで迎撃していたスパイク船長は凍り付いたモンスター達を見て唖然とする。
「いっ……今のうちに戦域から離れるぞっ!!」
唖然としていたのも束の間で、スパイク船長は我に返ると、僕の魔法で敵が浮足立っている間に戦域を離れようと船員たちに檄を飛ばす。
風を受けたコーラル号はその速度を増して戦線から離れていき、凍り付いたモンスター達が水平線の彼方へと消えていく。
「あ……あんた本当に魔法使いだったんだな……感謝する。あんたのおかげで船も船員も無事だ」
「どういたしまして」
襲ってきたモンスター達の姿が見えなくなったところでスパイク船長が僕にお礼を言ってくる。
ダーヴィスから僕が魔法使いであることは聞いていたが、外見から侮っていたようだ。
「しっかし、海の上だと俺達ほとんど手が出せないっすねえ」
「あんなに揺れたら狙えないね」
「島に上陸したら気合入れろよ! このままじゃ先輩の沽券にかかわるぞヒャッハー!!」
海上戦が初めてだったマガミとルビィは落ち込み、モヒーカーンが上陸後は頑張るぞと二人に発破をかける。セガールもモヒーカーンの言葉に頷きながら僕に向かって盾を掲げてアピールする。
「あとは俺達に任せて、あんた達は船倉で休んでくれ。後で食事を運ばせる」
「今度こそ休ませてもらうよ」
そういって僕達は船内へと入る。船内は狭く天井も低いが、スカイライトと呼ばれる天窓のおかげで船内は意外と明るい。
「航海中なので保存食になります。先ほどはありがとうございました! 俺魔法初めて見ました!!」
船内で休んでいると、キャビンボーイが食事を持ってくる。
棒状の固いパンと銅製のマグカップに酸っぱいワインが注がれている。
食事を受け取ると、キャビンボーイは僕に向かって目を輝かせて初めて魔法を見たと興奮気味に話しかけてくる。
「おいっ! さぼってんじゃねーぞっ!!」
「はいぃっ! す、すいませええん!!」
キャビンボーイは先ほどの戦闘での僕の活躍を褒め称えていたが、スカイライト越しに船員が怒鳴り、飛び上がるように甲板に戻っていった。
「少し仮眠を取るから、島に着くか何かあったら起こしてね」
「了解しました」
僕は波に揺られながら横になると仮眠を取った。
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