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一時転生先で冒険者スローライフ  作者: パクリ田盗作
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第十六話 レストランでの食事と図書館での出会い


 サイハの庭園を後にした僕たちは巡回馬車に乗って東町の飲食店エリアへと向かう。


「ガイドに載るだけあって建物も立派だね」


 廃坑のゴブリン退治の報酬で手に入ったお金で少し贅沢してみようと思い、観光ガイドで紹介されている高級レストランをチョイスしてみた。

 目的のレストランはフェデラル様式の建物で、壁には趣を醸し出すために蔦が這わせてあり、海側の窓からは、海岸から港を一望出来るように、全ての部屋の間取りが計算されている。


「いらっしゃいませ、ご予約の方でしょうか?」


 レストランの受付ではタキシード姿の中年男性のコンシェルジュが笑みを浮かべてお辞儀をして迎えてくれる。


「予約していませんがいけますか? 彼は護衛で食事はしないんですが大丈夫ですか?」

「はい大丈夫でございます。すぐにお部屋にご案内させていただきます」


 僕が予約をしていないことと、シュヴァルツが護衛で食事をしないことを伝えると中年のコンシェルジュは笑みを絶やすことなく案内すると言って手を叩く。

 するとコンシェルジュの背後から二名のメイドが現れて深々とお辞儀をする。


「ご案内いたします」


 メイドの一人に案内されて席に向かう途中、レストランの内装を見る。

 大理石の柱や高そうな壺、花や蝶の絵画など高級そうな調度品が程よく展示されている。


「こちらになります」


 先導したメイドが両開きのドアを開けて案内してくれた部屋は窓から海が見える個室。

 年季の入ったアンティーク調のマホガニーダイニングテーブルと椅子。

 シルクのテーブルクロスに磁器と思われる水差しが飾られている。

 その部屋にあるすべてが計算された芸術品のようだった。


「これはスフィアパイク作の調度品ですね」

「スフィアパイク?」

「はい、今から大体二百年ほど前に活躍したドワーフの家具職人で、王侯貴族なら彼が作成した家具を持っているのが一種のステイタスと言われています」


 室内にある家具を見たシュヴァルツがそのブランドデザイナーの名前を教えてくれる。

 そのスフィアパイクという高名な職人が作った椅子に座り、シュヴァルツは護衛として背後に立つ。


 メイドの一人が料理をお運びしますと言って退室し、もう一人のメイドは客の要望に応えられるように待機する。


「お待たせしました」


 しばらくして退室したメイドが高級ホテルのルームサービスとかで見る支給台車を押して戻ってくる。支給台車の上にはこのレストランをモチーフにしたハウスティーポットと細かい絵付けがされたティーカップ、そしてスープが乗っていた。


「本日のスープはかぼちゃのポタージュでございます」


 メイドが料理名を伝えてテーブルに配膳していく。一口飲めばかぼちゃの甘みとスープの温かさが体に染みこんでいく。


「本日漁港で水揚げされた白身魚のポワソンでございます」


 次に運ばれてくるのはポワソンの白身魚のフリット。レモンとマスタードのソースで酸味と辛みで食欲が刺激される。


「子牛のヴィアントとマッシュポテトのガルニチュールでございます」


 口の中をリセットするためにオリーブオイルをかけたバケットを食べていると、メインディッシュともいえる肉料理が運ばれてくる。

 綺麗な黒の皿に盛られた一口サイズに切り分けられたレアステーキ、ステーキソースはなくクレソンと西洋わさびと岩塩が添えられている。

 焼き加減はブルーに近く嚙むというよりとけるような食感。マッシュポテトも好みの味付けでちょっとご飯が欲しくなる。


「フロマージュでございます」


 次に運ばれてくるのはティースタンドに数種類の一口サイズのチーズ。

 牛や羊に山羊のチーズの中からいくつか選んで食べる。山羊のチーズは少々癖が強くて好みが分かれそうな味だった。


「デセールとカフェでございます」


 次に運ばれてきたのはりんごのアーモンドクラフティとアルコール度数の低いマスカットワイン。

 リンゴは少し酸味がきついが、マスカットワインの甘さがよりはっきりする。


「ごちそうさまでした。よい時間を提供してくれた皆さんへの感謝です」

「心遣いありがとうございます」


 ゆったりとした時間で海の景色を見ながらのコース料理を堪能し、チップを添えてドラゴン金貨三枚ほど支払う。

 チップが効いたのか、入り口で対応したコンシェルジュは店の外まで見送りに来てくれる。


「次はどこへ行かれますか?」

「図書館へ行ってみようと思うんだけど、ここからだと遠いね」

「でしたら辻馬車を利用しましょう」


 僕が図書館に行きたいというと、シュヴァルツはレストラン向かいの街道に止まっている馬車を指さす。

 その馬車は二人乗りの一頭馬車で、御者が後方の高い所にある座席に腰かけている。


「いらっしゃい。鎧の人も乗るなら追加料金貰うよ」


 辻馬車の一つに近づくとパイプで煙草を嗜んでいた中年の御者がシュヴァルツの姿を見て追加料金を提示してくる。


「シュヴァルツも載せて公共図書館まではいくらですか?」

「公共図書館までかい? 先払いでシャード銀貨三枚は欲しいね。急ぎならシャード銀貨五枚で飛ばすよ」


 御者に目的地までの料金を訪ねると、通常速度と特急の二種類の料金が提示される。


「急ぎじゃないし通常で」

「それじゃあ、乗ってくれ」


 代金を支払うと、御者はパイプを口に咥えたまま馬車を出発させる。

 辻馬車は乗合馬車より早く、時折同業者同士がすれ違いざまや交通監視員の手旗信号で停車中に手を挙げたりして挨拶している。


「お客さん、ついたよ」


 セブンブリッジの公共図書館はまるでアメリカのニューヨーク公共図書館のような巨大な建造物で入り口には青銅製のライオンの像が鎮座している。

 この図書館はセブンブリッジの領主と各神殿が共同運営しており、入場料としてニブ銅貨五枚払うことになっている。


 地下含めて五階建てで、中に入ると魔法の照明で図書館内は明るい。

 元々はどこかの教団の神殿だったのを再利用した建物で、あちこちに宗教画や神々の彫像などが祭られている。


 僕たち一般人が入れるのは一階と二階のみで、二階が回覧室になっている。

 受付で入場料を払うと口頭で注意事項や利用方法を教えてくれるが、飲食禁止や騒ぐななど日本の図書館とほぼ同じマナーだった。


 読む本は歴史に学術書など。

 歴史の本はかなり著者の主観や自国の正当性を主張するものが多く、セブンブリッジで起きた十五年前の戦争でも双方の街出身と思われる著者が相手側が悪い、こんな非道を行ったなど誹謗中傷合戦している本もあった。


 モンスターに関する書物ではイラスト付きの物や中には解剖図まで載せた本格的なものがあり、薬草などに関するものも生息地や効能、保存方法などなかなか勉強になる。


「すいません、書物は借りれませんか?」

「申し訳ございませんが貸し出しは行われていません。写本は認められていますので、一階でペンとインクと紙を購入してください」


 司書さんに貸し出しは出来ないかと聞くと断られ、館内で販売している筆記用具でのみ写本が認められていると教えてくれる。


「随分と熱心に資料に当たっていたが目的のものは見つかったかね?」


 一階でペンなど筆記用具を購入していると、不意に声をかけられる。

 振り返るとカラスの濡れ尾羽のような艶のあるロングストレートの黒髪、パンスネと言われる鼻をはさむタイプの眼鏡をした理知的な女性が笑みを浮かべて話しかけてきた。


「見ない顔だね。旅行者かな? 知識を蓄えるのは良いことだね。うむうむ、とても素晴らしい」

「は、はぁ……」


 男装の麗人という言葉が似合うような赤いネクタイに白のシャツに黒のベストとスラックス姿で、ハスキーボイスだった。

 一人納得するような口調に何となく調子を狂わされてしまう。


「私の名前はレイル・モーラディン。よろしければお二人の名前を教えてくれないか?」

「僕はルーシェス、彼はシュヴァルツと言います。ブロンズランクの冒険者です」

「なんと冒険者だったのか。どこかの学者か貴族だと思ったよ」


 冒険者ギルドのプレートを見せながら名乗るとレイルと名乗った女性は驚く。


「よければ中庭で私と学問について語り合わないか? 私はセブンブリッジで学者を名乗っている。冒険譚とか聞かせてもらえないだろうか?」

「えーっと……僕でよければ」


 レイルはそう言って図書館の中庭に続く道を指さす。

 女性に誘われて断るのも失礼だと思って僕とシュヴァルツは中庭へと向かう。


 公共図書館の中庭も庭園風になっており、所々で図書館の利用者がグループを作って議論などをしている。


「ここは議論の園ともいわれて、お互いに議論し合ったりする場所なんだ。さあ、語り合おう」

「ええっと……」


 レイルの距離感とテンションに戸惑いながらも、僕はこれまでの冒険の話をするが……気が付けば僕の冒険譚などそっちのけで、例えるならオタクが推しアニメの布教をハイテンション早口で布教する様に、レイルは持論を語る。

 どうやらレイルは考古学を専攻する学者で、セブンブリッジ近隣や近海諸島の歴史の研究や調査をしているそうだ。


 ただ……一言で言うと前提知識を持ってる体で話を進めてくるのでちんぷんかんぷんだ。

 とりあえず日本にいた時代酒に酔うと自慢話をする上司をあしらう為に身に着けたさしすそ(さ=さすがですね、し=知りませんでした、す=すごいですね、そ=そうなんですか)を繰り返して話を聞いてるふりをする。

 レイルは僕が相槌を打って話を聞いてくれることにテンションが上がったのか、上機嫌で持論を披露していく。


「お嬢様! また他人を巻き込んで!」


 空が夕焼けに染まり始めてもレイルは語り続けていると、老齢の男性が怒ったように声をかけてくる。


「む? キルスではないか、どうした?」

「どうしたじゃありませんよ! もうすぐ晩餐の時間だというのにお戻りにならないからお迎えに来たのです!」

「おや、もうそんな時間か? まだまだ語り足りないが今日はここまでとしよう」

「あははは……(あれだけ語ってまだ足りないんだ)」


 キルスと呼ばれた使用人に言われて、初めてレイルは夕刻だということに気づいたようで腰を上げる。

 下手に何か言うと再点火してまた語りだしそうな気がしたので、僕は愛想笑いしながらレイルを見送る。

 

「何方か存じませんが貴重なお時間をお嬢様に割いていただきありがとうございます。こちらは迷惑料と言いますか、保育料と言いますか……お受け取りください」

「あ……」


 キルスは僕に申し訳なさそうに謝ると入場料二人分の銅貨を渡して去っていく。

 キルスの慣れた仕草から、あのレイルという女性は図書館を利用する人とかに話しかけてそういった迷惑をかけているのかもしれない。


「えーっと……疲れたし帰ろうか」

「はいわかりました」


 レイルが立ち去ったのを確認してから僕とシュヴァルツは宿に帰った。

 最後までお読みいただきありがとうございます。


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