第十五話 セブンブリッジの休日の過ごし方
モヒーカーンと受付嬢のベスティアを残して僕たちは冒険者ギルドの外に出る。
「さてと、休むにしても何しよう? ねえ、冒険者の人達って休みとかどうしてるの?」
「休みっすか? 基本装備のメンテや消耗品の補充っすね」
ダーヴィス側からの面会が来るまで休むことにしたが、この世界での休日の過ごし方がわからず、マガミ達に聞いてみる。
「他には?」
「腕がなまらないように鍛錬」
「そうっすね~……金があれば昼間から酒を飲むか、娼館にあいでええええ!!!」
他に過ごし方ないか聞くとセガールは自己鍛錬といい、マガミが飲むか娼館に行くと言いかけたところで急に悲鳴を上げて飛び上がる。
「何するっすか!!」
「ルーシェス君はまだ子供なんだからそんな悪所通い教えない!」
マガミはお尻を抑えて涙目でルビィを睨み、ルビィはツーンとそっぽを向いて、僕の教育に悪いと抗議する。
「あはは……ルビィさんは休みとか何してます?」
「僕? うーんと、セブンブリッジなら東町にある大劇場とか……サイハの庭園という自然公園の噴水も見どころだよ」
僕がルビィに休日の過ごし方を聞くと、ルビィは顎に指をあてて考え込みながら、このセブンブリッジの観光名所を教えてくれる。
「観光名所とか気になるなら旅行ガイドとか買うと良いぞ、雑貨屋で売っているはずだ。他にも新聞を読むのもいいぞ」
「そんなのもあるんだ……」
セガールが補足する様に観光ガイドや新聞があると教えてくれる。
「ちょっと買ってきて観光してくるよ」
「俺達は青い八面体って名前の宿に泊まってるっす。手が要るなら宿か冒険者ギルドに伝言してほしいっす!」
マガミ達と冒険者ギルドで別れて僕は観光ガイドを買いに雑貨屋へ向かう。
「へー、貿易都市だけあって見所いっぱいだねえ」
「どこか見に行くのでしたら、辻馬車か巡回馬車を利用するとよろしいですよ」
近くの雑貨屋でセブンブリッジの観光ガイドといくつかの新聞社の新聞を購入して、観光名所などを調べていると、シュヴァルツが馬車を利用することを提案してくる。
「辻馬車に巡回馬車って?」
「主要な大通りで利用できる交通機関です。巡回馬車は二階建ての四頭馬車で固定ルートを巡回しています。メリットは利用料が安いことですが、一定区画ごとに定められた停車位置にしか止まらないことと、移動中も乗り込めるように低速なのがデメリットですかね。辻馬車は比較的乗り心地が良く行き先が決めれますが、料金は御者によって違います」
シュヴァルツは巡回馬車と辻馬車について説明してくれる。この世界のバスとタクシーみたいなイメージだ。
「ん-……ゆっくり見て回りたいから巡回馬車に乗ろうか」
「では一旦大通りへ出ましょう」
シュヴァルツとともに大通りに出ると、ちょうど巡回馬車が駅に停車していた。
巡回馬車は車体の長いガラス窓の付いた馬車で四頭の輓馬みたいな大型の馬がけん引している。
車体の外側にはどこかの店舗の看板みたいなのが張り付けており、馬車後部にはステップと二階へ上る螺旋階段が付いている。
「すいません、乗りまーす」
「乗車賃は一人ニブ銅貨二枚だ」
ステップには赤色の革鎧にベレー帽を被ったドワーフがいて、運賃を回収する。
一階部分は混んでいたので二階の吹きさらしのベンチに座る。
ステップにいたドワーフが出発しまーすと威勢よく叫ぶと巡回馬車が走り出すが……人が歩くより早い程度のスピードしか出さない。
「この巡回馬車はサルサ大通りを往復するようですね」
「サルサ大通りだと……サイハの庭園が近いね」
シュヴァルツが道路標識を確認して巡回馬車がどこに向かっているか教えてくれる。通りの名前を聞いて僕は最も近い名所を観光ガイドで検索する。
巡回馬車はガラガラと車輪の音を響かせながら大通りを進んでいく。時折小走りで巡回馬車に飛び乗る人もいて、馬車が徐々に混みだす。
しばらくするとホイッスルの音が聞こえてきて、何事かと音がした方向を見ると、緑色の服を着た人物が見張り台みたいな建物の上で青と赤の旗を振ったり、ホイッスルを鳴らしたりしている。
「シュヴァルツ、あれは?」
「交通監視員ですね。交通量の多いエリアや楕円形の混雑するエリアで交通整理をする人たちです。カッパーランクの依頼書に補助要員の募集がありましたよ」
シュヴァルツに聞けばあそこにいるのは交通監視員だという。
旗信号で交通整理を行い、補助員と思われる人が右折優先ですと叫んだりしている。
運悪く混雑時に巡回馬車に乗り込んでしまったのか、馬車の渋滞に巻き込まれ、御者が交通監視員にヤジを飛ばしたりしている。
動くまでもうしばらくかかりそうなので僕は雑貨屋で購入した新聞を見る。
新聞と言っても日本の新聞のようなものではなく、号外紙のような両面記事の一ページ新聞だった。
新聞社によって取り扱っている情報に違いがあるようで、経済紙のような事業や投資記事の新聞、だいぶ記者の主観が入っている政治批判の新聞、スキャンダルや三面記事をメインにした大衆新聞などがあった。
特に気になったのが大衆紙の市民の伝言板という記事で、【キツネ狩り終わる、舞踏会の靴を履いて、踊れないやつは出ていけ】なんてどう見ても暗号としか思えない伝言が掲載されていた。
新聞を読み終えるころには目的地のサイハの庭園と呼ばれる公園に到着する。
観光ガイドによると、サイハとはリピリーと呼ばれる種族を生み出した風の神で、公園の中心地にサイハの姿を模した彫刻噴水があり、コインを投げて手のひらに収まると幸運が授けられると言われている。
「子供が多いね」
「マスター、あれは子供ではなくリピリーと呼ばれる種族の立派な大人です」
「マジでっ!? どう見ても子供にしか見えないよ」
「それがリピリーの種族特徴なんです」
自然公園とあって子供が多いなと思っていたら、シュヴァルツからリピリーと呼ばれる種族の大人だとこっそり教えてくれる。
「合法ロリショタかあ」
どう見ても小学校低学年にしか見えないその姿に驚きながらも庭園を歩いていく。
サイハの庭園は小高い丘になっており、青々と草が茂っており、ラーメイ山脈から海へと吹き降ろす風の通り道となっており、風が吹くたびに草の揺れる音が自然の音楽を奏でる。
「これが風の神サイハ?」
「はい」
庭園の中心部に行くと大きな噴水があり、噴水の中心部に胸と腰部分に布を巻きつけただけの格好をした少女の像がある。その顔は幼いが何となくおてんばなイメージを連想させる。
海を指さすようにピンと突き刺した右手には硬貨がそこそこ乗っており、今も幸運を求めて銅貨を投げている人がいる。投げている人たちを見ていると皆一回だけしか挑戦していない。
「皆一回しか投げないね?」
「観光客かい? 何度もやるとサイハ様が怒って逆に不運にするって信じられてるのさ。実際俺も何度もやった時は酷い目にあったからあながち嘘じゃないと思うぜ」
僕が疑問を口にすると、硬貨を投げて失敗したリピリーの男性がなぜ一回しかやらないか教えてくれる。
「そうなんだ」
「あんたも挑戦するのか? サイハの幸運が訪れると良いな」
リピリーの男性はそういうと手を振って去っていく。
「それじゃあせっかく来たんだし、僕達も運試ししていこうか。ね、シュヴァルツ」
「はい、そうしましょう」
僕はニブ銅貨を取り出すとシュヴァルツと一緒にサイハの像に向かって銅貨を投げる。
シュヴァルツの銅貨は風にあおられて噴水の水の中に落ちて沈んでいく。
僕の銅貨は一度はサイハの手に乗ったが、バランスが悪かったのか零れ落ちてしまった。
「あら~……惜しかった」
「残念でしたね」
二人してコイン乗せに失敗して笑いながらお互いを慰める。
「お腹空いてきたし、何か食べに行きたいな」
「通りに戻って屋台でも探しますか」
僕たちはサイハの庭園を後にして大通りへと戻った。
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