第十四話 ベスティアとモヒーカーンの密談
今回は幕間的お話です
「それで……ルーシェスとシュヴァルツの印象はどうだったワンニャン?」
「そうだな……ルーシェスは俺からすると、世間知らずのお坊ちゃんだな。ただ魔法の実力は魔術師ギルドの上位魔術師レベルだなありゃ、ヒャッハー!」
ルーシェスたちが解散した後の会議室で冒険者ギルドの受付嬢ベスティアとアイアンランクの冒険者モヒーカーンが残って話をしている。
今回モヒーカーンがルーシェス達をゴブリン退治に誘ったのは、裏でベスティアから二人の様子を探ってほしいと依頼されたからだった。
ベスティアがモヒーカーンにルーシェスの様子を聞くと、モヒーカーンは実力はあるが少々世間知らずのお貴族魔法使いと評価する。
「まだ子供なのにワンニャン!?」
「今回お前に頼まれてルーシェスを誘ってゴブリン退治に出向いてみたが……あいつは道中で最低でも十回近くは魔法を行使した。俺が今までであった魔法使いは休憩込みで五回も使えば疲労困憊か意識朦朧だったぞ。だがルーシェスは見たこともない魔法を連続で行使して、疲労すら見えなかったぜヒャッハー」
「じゅっ……十回近く行使して疲労も何もなしっ!? 嘘だワンニャン!!」
モヒーカーンからの報告を聞いてベスティアは絶句する。
彼女たちの常識では魔法使いが魔法を行使できる一日の回数は限られており、連続で五回も魔法行使を行えることが出来ればベテランと言われてもおかしくない水準だった。
「ここで嘘ついてどうする? 姿を見えにくくしたり、見えない盾で守ったり……ああ、あと杖からなんか光の線みたいなの矢みたいに打ち出してゴブリン倒したぞ。とりあえず俺様から見てルーシェスはダントーイン帝国のスパイの可能性は低いぜヒャッハー!」
「そう言い切れる根拠はワンニャン?」
「勘。……おいおい、そう睨むなって。あいつは少々世間知らずすぎるし、公衆浴場で出会ったときも平気で脱いだし、服も一緒の篭に入れたぞ。仮に貴族だとしても、ありゃ当主としての教育とかは受けてなさそうだなヒャッハー!」
ベスティアがモヒーカーンにルーシェスたちの監視を依頼した理由は、ルーシェスたちがダントーイン帝国のスパイではないかと疑惑を持ったからだ。
セブンブリッジがあるナブー王国とダントーイン帝国は不凍港や穀倉地帯を巡り何度も争っており、度々ダントーイン側からスパイと思われる冒険者などが流れ込んでいた。
その為、ベスティアはルーシェスとシュヴァルツもダントーイン帝国が送り込んだスパイか、協力者の類ではないかと怪しみ、モヒーカーンに極秘の依頼をしていた。
依頼を受けたモヒーカーンはあれこれ世話を焼きながらも、貴族なら嫌がる行動などをルーシェスに試していた。
だがルーシェスは嫌な顔一つせずに、純粋にモヒーカーンの好意だと思って受け入れていた。
「それに浴場であいつの背中洗ってやったけどあんまり筋肉ねえし、普通に背中預けるし、なんつーか貴族っぽくなかったなヒャッハー」
「うーん……でもあんなフルプレートの護衛連れていて魔法も使える子供なんて貴族以外にいないワンニャン」
モヒーカーンは公衆浴場でのルーシェスの様子から貴族っぽくないと答える。
ベスティアはルーシェスが魔法を使えることと、ルーシェスの護衛でもある金属の全身鎧で身を固めたシュヴァルツがいることから貴族で間違いないと思い込んでいる。
「そこがちぐはぐなんだよなあ~……あのシュヴァルツってやつはどう見ても本格的な戦闘訓練を受けてるし、知識も豊富だぜ。膂力もすげえ、粗悪品とはいえ金属鎧を着たホブゴブリンを頭から一刀両断しているぜヒャッハー」
モヒーカーンもシュヴァルツの話を出されると、ガシガシとモヒカン頭を掻いて、ホブゴブリンを一刀両断した剣の腕を誉める。
「それは解体小屋の職員たちも言っていたワンニャン。二人が持ってきたオークとか解体する時切断面が鋭いとか、両断されたオークとか……一番びっくりしていたのはレイザーゲルグがほとんど無傷だったことだワンニャン」
「あ? どういうことだヒャッハー?」
モヒーカーンがシュヴァルツの剣の腕を誉めると、ベスティアが解体小屋の職員の話をする。
レイザーゲルグというモンスターが無傷で持ち込まれたという話を聞いてモヒーカーンが身を乗り出して聞き返してくる。
「依頼で討伐してきたワンニャン。なんでも昆虫を殺す魔法で倒したと言ってたけど、巣に入ってどちらも無傷だったワンニャン」
「へえ……そいつはすごいなヒャッハー」
ベスティアとモヒーカーンはルーシェスとシュヴァルツがレイザーゲルグの巣の中に入り込み、戦ったと思い込んでいる。
まさかルーシェスが使った魔法が、入り口から最奥まで殺虫ガスを充満させるとは思いもしなかった。
「ルーシェスよりもシュヴァルツの方が怪しいぞ。あいつ今回の討伐依頼中、何があっても鎧を脱ごうとしないかった。食事の時も兜を脱がずに遠くに行くし、寝るときも鎧を脱がねえ。それでいて疲れらしい疲れもなくルーシェスに張り付いて護衛してやがるヒャッハー」
「うーん……顔を隠さないといけないとかワンニャン?」
モヒーカーンはゴブリン退治時や街道宿でのシュヴァルツの行動をベスティアに話す。ベスティアはモヒーカーンからの報告を聞いて、なぜシュヴァルツが素顔を隠すのか考える。
「さあな。とりあえずもう少し様子見てもいいんじゃねえのか? あの二人が何か怪しい動きをしたわけじゃねえし、俺の見立てじゃあいつらはゴールドランクはいける実力はあるぜヒャッハー」
モヒーカーンは椅子で船漕ぎしながらそんなことを言う。
「うーん……私の考えすぎかなワンニャン」
「スパイと思わなかった理由として、ダーヴィスを紹介されたとき、ルーシェスの奴マジで誰それって顔でいたぞヒャッハー」
ベスティアが考えすぎかと悩んでいると、モヒーカーンがルーシェス達がスパイじゃない根拠の一つとして道楽者のダーヴィスの名前を出す。
「ダーヴィスといえば両国とも知らないやつはいないと言っていいほどの有名な重要人物だぜ? ルーシェスは本気でどちらさんって顔していたし、シュヴァルツも鎧で顔は見れないが全くの無反応だったぜヒャッハー」
モヒーカーンは先ほどの会議室のやり取りで道楽者のダーヴィスが指名依頼してきたと言っても戸惑ってるだけのルーシェスの様子をベスティアに説明する。
「もうしばらくは監視対象として泳がすべきかワンニャン?」
「上に報告するには不確定すぎるだろ? ルーシェスは俺達のチームに好意持ってるっぽいし、変な動きがあるならこっちからも連絡してやるよヒャッハー」
「お願いするワンニャン」
ベスティアはうんうん唸りながらルーシェスたちの監視警戒度をどれぐらいにするか頭を悩ませる。
モヒーカーンが今の交友関係を維持しながら監視するというと、ベスティアはモヒーカーン達によるルーシェスの監視の継続をお願いする。
「わかってるって! その代わり例の作戦の支援頼むぜヒャッハー」
「それは分かっているワンニャン。ご領主様からもギルドマスターからもあの作戦に対しての支援命令は出ているワンニャン。あの作戦の決行はセブンブリッジにとってとても利益になるワンニャン」
モヒーカーンはルーシェスの様子を監視する代わりに例の作戦という物の支援を重ねるようにお願いしてくる。
ベスティアは冒険者ギルドにも、セブンブリッジの領主にも話は通っているとモヒーカーンに伝えた。
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