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一時転生先で冒険者スローライフ  作者: パクリ田盗作
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第十三話 ゴブリン退治の報酬と道楽者ダーヴィス


「おし、今日はここで一泊だな」


 廃坑に潜むゴブリン達を退治した僕達はセブンブリッジに戻る途中、街道脇にある宿に泊まる。

 宿と言ってもワンフロアだけの木造ログハウスで素泊まり雑魚寝。裏手にキッチン竈があり石炭や薪などを購入して自炊。寝るときも雑魚寝で毛布やシーツなどは有料だった。

「馬車関係の店が多いね」


 荷物を置いて宿の周りを見ると馬屋に鍛冶屋があった。鍛冶屋には馬車職人と思われる人が馬車のメンテナンスを行っている。


「街道の主な利用者はキャラバンだからな。ああやって馬車のメンテナンスや馬の交換、蹄鉄の調整とかいろいろ仕事があるんだぜヒャッハー!」

「鍛冶屋は近隣の農村の農具の修理もあるから、仕事に困ることはないんだよ」

「へー」


 夕食の準備をしていたモヒーカーンとルビィがこの街道宿についてあれこれ教えてくれる。


「ここまで設備が揃ってるのは王都や都市近郊ぐらいだ。一般的な街道だと野宿に適した水場があれば御の字だ」


 炊事用の薪を割るセガールがこういった施設があるのは都市近郊ぐらいだと補足してくれる。


「ご飯できたよー」


 今日の夕食は保存食とルビィが森で狩った野鳥、そして僕達以外にも宿の利用者はいて、それぞれ材料を持ち寄ったりしてごった煮みたいなスープになった。


 そしてシュヴァルツは食事だけ受け取ると、宗教的な理由と誤魔化して遠くで一人食べる。


 就寝前にはルネッサンスリュートで演奏して他の宿泊客からちょっとした菓子やおひねりを貰い、演奏を終えると荷物を枕代わりに就寝。


 シュヴァルツは鎧を着たまま、僕の傍に座り周囲を見張る。

 仕切りも何もなく男女混合で雑魚寝。旅の途中は風呂なんて入れないので少々体臭が気になったが、戦闘疲れもあってすぐに眠れた。


 翌朝はセブンブリッジ行きのキャラバンに同行して戻る。

 馬車に乗せてもらったが……サスペンションも何もない馬車の振動は、歩いたほうがマシなんじゃないかなと思えるほどの負担だった。


 セブンブリッジの城門前でキャラバンと別れた僕達は冒険者ギルドへと向かう。


「おかえりなさいワンニャン」


 冒険者ギルドに足を踏み入れればギルドの受付嬢、狐ケモミミのベスティアが出迎えてくれる。


「おう、討伐は成功だ。こいつが証拠の魔石だぜヒャッハー!」


 今回の討伐チームリーダーのモヒーカーンが討伐の証としてゴブリン達の魔石を提出する。


「シャーマンゴブリンにホブゴブリンもですかワンニャン!? お怪我はなかったですかワンニャン?」

「ルーシェスのおかげでこの通り無傷だヒャッハー! おっと、こいつは戦利品だ」


 ベスティアは提出された魔石からモンスターの正体が割り出せたのか、驚いた顔で怪我の有無を聞いてくる。

 モヒーカーンは腕の力こぶを作って僕のおかげで無事だとアピールすると、思い出したように廃坑で手に入れた戦利品を提出する。


「宝石が二個にドラゴン金貨が小袋で三個。それに杖、腕輪、短剣ですかワンニャン?」

「ああ、ルーシェスの鑑定によると杖は魔法使いが持つと役に立つらしい。腕輪と短剣はコマンドワードだっけ? そいつを唱えると腕輪は光って、短剣は刀身が燃えるらしいぜヒャッハー!」


 戦利品には僕が鑑定魔法をかけて大まかな性能などはモヒーカーン達に伝えてある。ちなみに小袋とは冒険者や商人界隈で使われる業界用語で一小袋で硬貨が十枚入るらしい。


「全部買取でよろしいですかワンニャン?」

「腕輪と短剣はこっちが欲しい。残りは売却だヒャッハー」

「ではこちらにサインを。もし腕輪と短剣を手放す場合は必ず一報くださいワンニャン」


 モヒーカーンとベスティアは廃坑で手に入れた戦利品の売却手続きなどをする。


「ねえ、なんで手放す時はギルド連絡するの?」

「それは買い戻す商人が現れた時の為ですね。ここセブンブリッジは貿易と交易で成り立ってる都市ですから、どちらかというと商人びいきの制度が多いんですよ」


 シュヴァルツに聞けばそんな答えが返ってくる。


「おまえら! プレート提出しろ! そのあとは上に行くぞヒャッハー!」


 そんな話をしていると依頼完了の手続きが終わったのか、モヒーカーンがプレートを受付に渡すように言ってくる。

 プレートを受付に預けると僕たちは冒険者ギルドの二階へと向かう。

 冒険者ギルドの二階は細長い通路に無数のドアが並んでいた。


「こっちだ。今日はこの部屋使わせてもらえるぞヒャッハー!」

「あの部屋って?」

「あれは会議室っす。主に冒険者と依頼人が話し合ったり、今回みたいな合同で依頼を行った後の報酬の分け前を話し合ったりするときに使うっす」

「特に今回みたいな大金を人の目が多い下の階でやり取りするとね、大金に目がくらんだ馬鹿が出てくるのよね」


 モヒーカーンは勝手知ったる自分の部屋の様に、一室に入っていく。

 部屋の用途を聞くと、マガミが冒険者同士で使ったりする会議室だといい、ルビィが下の階で大金のやり取りのデメリットがあると遠い目をしながら説明する。


「それじゃあ報酬だが、現金でドラゴン金貨六百枚になった。頭分けで一人百枚ってとこだが……帰り道で話し合ったように腕輪と短剣をこっちで買い取るから、ルーシェスとシュヴァルツに買取金上乗せして二百、俺達は一人五十。これで文句ないか? ヒャッハー」


 用意された部屋は二十人ぐらいが入れる円卓の部屋。

 僕たちが座るとモヒーカーンが報酬の金貨を仕分けして割り振ってくれる。


「僕は文句ないよ」

「私もありません」


 僕とシュヴァルツが文句がないと言って報酬を受け取ると、モヒーカーンたちはほっとした顔になる。


「合同チームってこの報酬の訳合いで結構揉めるんすよ」


 皆がほっとした顔になったことに疑問を持つと、マガミが理由を教えてくれる。


「今回のようなマジックアイテムなどが出ると特に揉める。もっと価値があるはずだ、もっと高く売れるはずだなんて言ってな」

「あー……僕とセガールのチームもそれで解散したからねえ」


 セガールとルビィがマガミの話を補足する様に自分たちの経験などを話す。


「坑道の時もモヒーさんが言ってましたけど、皆さん別々のチームだったんです?」

「ああ、こいつらは色々な理由でチームが解散したり追い出されたりして燻ってたところを俺様が拾ってなヒャッハー!」


 モヒーカーンの話ではマガミ、ルビィ、セガールの三人は元々別々のチームだったという。マガミは仲間がトラップで大怪我をして、ルビィとセガールは依頼完了後の報酬でもめて解散したり追い出されたりして困っていたところをモヒーカーンが声をかけてチームを組んだという。


「失礼しますワンニャン、ルーシェス様のチームにダーヴィス様から指名依頼が来ていますワンニャン」


 報酬の山分けを終えて雑談していると、ノックの音とともにドアの向こうでベスティアが僕に指名依頼が来ていることを知らせてくれる。


「ダーヴィス? 誰?」

「おいおい、あの道楽者のダーヴィスを知らないっすか?」

「僕たち最近セブンブリッジに来たばかりだから……」


 ダーヴィスって誰なのかモヒーカーンのチームに問うと、ダーヴィスという人物はよほど有名人なのか、何で知らないんだというようなリアクションでマガミがこちらを見てくる。


「ダーヴィスってのはここセブンブリッジで知らない者の方が少ない金持ちの有名人だ。元は多くの船団を持つ貿易商で、今は隠居してしてるが影響力はすごいぜ、ヒャッハー」

「なんでそんな人が僕に指名依頼なんかしたんだろう?」


 モヒーカーンからダーヴィスという人物について説明を聞きながらベスティアを会議室に入れる。

 ベスティアは処理を終えた僕たちのプレートと一緒に一枚の依頼書を持ち込んでくる。


「ええっと、指名依頼ってどんなのですか?」

「ここで話してもいいんですかワンニャン?」


 指名依頼の内容を聞こうとすると、ベスティアはモヒーカーンたちに視線を向けて、彼らも同席した状態で話していいのかと聞いてくる。


「うーん……僕はまだ冒険者の仕事について経験も知識も少ないし、迷惑でないなら一緒に聞いてほしいです」

「ルーシェスがそういうなら、仕方ねえなヒャッハー」


 僕がモヒーカーンに同席を求めると、モヒーカーンは仕方ねえなと言いつつも頼られて嬉しそうにしている。


「指名依頼内容は宝探しです」

「またあの道楽者さん宝の地図手に入れたのかっす?」

「ん? どういうこと?」


 ベスティアが依頼内容を話すと、マガミが呆れた顔で呟く。


「道楽者の二つ名の由来にもなってるほどの酔狂な人でね、眉唾物の宝の地図を見つけたり買い取ったりしては冒険者チームに探索を依頼しているの」

「これが結構おいしいんっすよ。宝を見つけても見つけなくても基本報酬は払われるし、お宝見つけたらさらにダーヴィスとチームで山分けっす」

「俺が記憶している限りでは二十回以上宝探しの依頼を出して……確か十三回ほど当たりを引いてる」

「意外と成功率高っ!?」


 ルビィがダーヴィスの道楽者という二つ名の由来を教えてくれて、マガミとセガールがこれまでダーヴィスが出した依頼内容や成功率を教えてくれる。結構な確率で財宝見つけていることに僕は驚く。


「しっかし……なんでまたブロンズランクのルーシェスを指名するんだ? ダーヴィスならそれこそシルバーやゴールドランクの冒険者指名できるだろヒャッハー?」

「ルーシェス様が以前解決した幽霊屋敷事件がきっかけと言ってましたワンニャン」

「あ……あの水晶か」


 モヒーカーンがそんな有名人がなんでルーシェスを指名するんだと首をひねると、ベスティアが僕が解決した偽幽霊騒ぎが理由だといわれて、借金の形に預かった水晶玉の事を思い出す。


「とりあえずその指名依頼の詳しい内容を聞きたいんですけど」

「でしたらこちらから依頼人の都合のいい日に面会をセッティングしますワンニャン。今日明日は出来ましたら仕事を受けず、セブンブリッジからも出ていかないでほしいワンニャン」


 詳しい内容を聞きたいとベスティアに伝えると、ベスティアはダーヴィス側にその旨を伝えて説明会をセッティングすると言ってくる。

 日本と違って電話などの連絡ツールがないのでお互いの都合をつけるのも一苦労で、二日ほどは仕事も受けずに街の外にも出るなと言われる。


「ここ数日はずっと依頼ばっかり受けたし、休むかな」

「それがよろしいかと思います」

「ルーシェス、手が要りそうだったらいつでも言ってくれよヒャッハー!」

「荷物持ちでも何でもするっす! 絶対呼んでくださいっす!!」

「宝さがしだったら僕達みたいな斥候持ち必要だよね、ルーシェス君!」

「手は多いほうがいい」


 話が終わるとモヒーカーン達が自分も仕事に混ぜろと迫るように猛アピールしてくる。


「あははは……そのダーヴィスさんが他にも呼んでいいというなら声かけますから」


 僕はたじたじになりながら可能ならばモヒーカーンのチームに声をかけると約束して解散した。


 最後までお読みいただきありがとうございます。

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