第十二話 ゴブリン掃討戦
「いやー、この魔法の明かりいいっすね~」
先頭を歩くマガミが僕の踊る光球を誉める。
十二個の光球は僕の意志に沿って自由自在に動いて光量も強弱調整ができるので、マガミの指示に合わせて上下左右前後自由に動かしたり、明るくしたりすることで坑道に仕掛けられた罠を解除していく。
ゴブリン達が仕掛けた罠は大抵が足元にロープを張り、ひっかけると落石や鳴子が鳴る原始的なものばかりだった。
「やっぱり松明とかと違います?」
「やっぱ松明だと光力が足りねえし、ランタンは向きによっちゃ中の油が傾いてあぶねえしな……っと、全員止まってくれっす!」
そんな話をしていると、マガミがその場にしゃがみ、僕たちに止まるように合図してくる。
僕たちが足を止めたことを確認するとマガミは慎重に通路を進んで、曲がり角を手鏡で確認すると、音を立てないように戻ってくる。
「この先、広場になっててゴブリン達がいるっす。数は鏡で確認しただけでも五匹はいるっす」
戻ってきたマガミはこの先が広場になっていてゴブリン達が最低でも五匹はいると言ってくる。
「不意はうてそうか?」
「うーん……ちょっと自信ないっす」
「よし、セガールと俺様とシュヴァルツで前に出る。二人はルーシェスを守れ。わかったか、ヒャッハー?」
モヒーカーンはマガミに不意が撃てるかどうか聞いて無理だと判断すると、自分たち前衛組が前に出て強襲することにする。
「わかりました」
セガールは無言でうなずき、シュヴァルツは両手剣を抜く。モヒーカーンは両手にハンドアックスを持つ。
「ルーシェス、まだ魔法行けるか? 防御系魔法とかあるならかけてくれ」
「うん、いいよ。万物の根源たるマナよ 不可視の盾となりて かの者達を護れ! 魔法の盾!」
「おしっ! 行くぜヒャッハー!!!」
セガール、シュヴァルツ、モヒーカーンの三人に魔法の盾を付与させると、モヒーカーンが戦闘開始の合図の様に叫んで突撃する。
セガールとシュヴァルツが一歩後ろを追いかけ、さらにその後ろを僕たちが追いかける。
「グギャ! イヤーイヤー!!」
モヒーカーンたちが広場に突入すると、木箱の上にオオカミの皮をかぶせて作った簡易玉座に座る月桂樹の冠をかぶった杖を持ったゴブリンが何か叫んでいる。
「ゴブリンが五匹、ホブゴブリンが二匹! 杖を持ってるのはシャーマンゴブリンです!!」
突入したシュヴァルツが敵の数と種類を叫ぶ。
杖を持ったシャーマンゴブリンを護るのがホブゴブリンのようだ。
ホブゴブリンはゴブリンよりも一回り半体格が大きく筋骨隆々で、ゴリラを連想するような外見だった。
二匹とも乾いた返り血の付いた金属鎧を着ており、片方はハルバード、もう片方はロングスピアを持っている。
「ヒィィィヤッハアアアアアーッ!!」
一番槍の様にモヒーカーンが雄たけびを上げてゴブリンの集団に突っ込み、両手に持ったハンドアックスを振り回す。
最初はゴブリンの攻撃を避けながらだったが、僕の付与した魔法の盾によってダメージを受けないとわかれば、防御を捨てて攻撃に特化した動きに変わっていく。
そして、そのモヒーカーンの背後を守るようにセガールがカバーに入り、盾で殴り飛ばしたり、剣でゴブリンの足の甲を突いて相手の機動力を奪いながらダメージを積み重ねていく。
「私が貴方達のお相手です!」
シュヴァルツは二匹のホブゴブリンの足止めに入り、ホブゴブリンが振り下ろしてくるハルバートを逆袈裟斬りで弾き返し、もう一匹のホブゴブリンのロングスピアの突きを僕が付与した魔法の盾で強化された鎧で防ぐ。
「ギゲル・ギガ・バグンバ!!」
「させない! 万物の根源たるマナよ散れっ! 魔法解呪!!」
シャーマンゴブリンが杖をかざしてモヒーカーンに何か呪文を行使しようとするが、僕が魔法解呪を唱えてシャーマンゴブリンの呪文行使を妨害する。
僕の魔法解呪によってシャーマンゴブリンの杖の先端に集まっていた魔法の光がはじけ飛ぶのが見えた。
「バンザドッ!?」
シャーマンゴブリンは呪文行使の為の魔力をかき消されたことが信じられないように杖と僕を交互に見る。
「チャンスっす!!」
「もーらいっと!!」
呪文を消されて動揺したシャーマンゴブリンの隙を突くように、マガミとルビィが弓やクロスボウでシャーマンゴブリンに攻撃する。
マガミのボルトは外れて木箱の玉座に突き刺さり、ルビィの矢はシャーマンゴブリンの肩に命中する。
「セガール! 雑魚は任せたぜ! ヒャッハーー!!」
モヒーカーンは三匹ほどゴブリンを殺すとシュヴァルツのフォローに向かう。
セガールは返事もせずに残りのゴブリンがモヒーカーンを追いかけないように妨害するように立ちふさがると、モヒーカーンを追いかけてきた一匹の顔面に盾をアッパー気味にぶつけてのけぞらせると、がら空きになった胸を何度も突く。
「加勢するぜ!」
「私は大丈夫です! シャーマンをお願いします」
モヒーカーンはシュヴァルツのフォローに入ろうとしたが、助けは無用とばかりにシュヴァルツは上段に構えた両手剣を振り下ろす。ボブゴブリンはハルバートの柄でシュヴァルツの攻撃を受け止めようとするが、ハルバートの柄ごとホブゴブリンを一刀で両断し、返す刀でもう一匹のホブゴブリンの銅を横なぎに切断する。
「お、おう……」
モヒーカーンはそこまでシュヴァルツがホブゴブリンを一撃で屠れるほど強いとは思っていなかったのか、戸惑った返事をしながらシャーマンゴブリンの方に向かう。
「バゲル・モル・ゾルバ!」
「魔法解呪!!」
一方シャーマンゴブリンは別の魔法を行使しようとするが、また僕に再度魔法をキャンセルされて絶望と恐怖に染まり、どこかに逃げる場所はないかと周囲を見回す。
「おおっと、よそ見してる暇はないぜっ!!」
「ゲキュッ!?」
その隙をついて跳躍してシャーマンゴブリンの脳天に二本のハンドアックスを叩きこむモヒーカーン。
シャーマンゴブリンは一歩でも遠くに逃げようという生存本能でプルプルと震える腕を伸ばして、そのまま崩れ落ちた。
残り一匹のゴブリンと戦っていたセガールの方に視線を向けると、転倒しているゴブリンの胸を片足で押さえつけて何度も剣を突き刺して確実にとどめを刺してるセガールがいた。
「怪我したやつは?」
「私は無傷です」
「ルーシェスの魔法のおかげで無傷だ」
「こっちは怪我無いっす」
「僕も大丈夫だよ」
モヒーカーンが倒れているゴブリンに再度止めを刺しながら、チームに怪我人がいないか確認する。
セガールたちがかすり傷ひとつないとアピールするように伝えて、ゴブリンの死体の始末を行う。
「しっかし……粗悪品とはいえ、金属鎧着たホブゴブリンを一刀両断って……どんだけ膂力がありゃできる芸当だぁ? ヒャッハー?」
「計り知れない研鑽と鍛錬……」
シュヴァルツによって両断されたホブゴブリンの死体を見てモヒーカーンとセガールは畏怖のこもった顔でシュヴァルツを見つめている。
「これでゴブリンは全部か? 外に出てるゴブリンとかいねえよな、ヒャッハー?」
「仮に残党がいても、あの杖を破壊するか持ち去れば、ここから逃げていきますよ」
あらかた死体の片づけが終わると、一仕事終えたように額の汗を拭うモヒーカーンはゴブリンの残党がいないか懸念を口にする。
するとシュヴァルツがシャーマンゴブリンが持っていた杖を指さす。
「あん? どういうことだヒャッハー?」
「ゴブリンは部族社会でシャーマンゴブリンやロードゴブリンに率いられており、自分の縄張りを示すフラッグを持ちます。これが種族的なアイデンティティーで、このフラッグを失うか破壊されると彼らは難民となり、部族を維持できず散り散りになります。またフラッグを失ったゴブリンは他の部族のゴブリンから奴隷として扱われます」
ガイドとして神様から遣わされただけあって、シュヴァルツはゴブリンの生態にも詳しかった。
「それじゃあこの杖を壊せば依頼は終了ってか? ヒャッハー!」
「その杖は部族のフラッグであり、マジックアイテムでもあるので売れる場合もありますよ」
「リーダーストップっす!!」
「壊すの待って!」
「っ!!」
モヒーカーンはシャーマンゴブリンの杖をへし折ろうとするが、シュヴァルツがマジックアイテムとして売れるというとマガミ、ルビィ、セガールの三人がモヒーカーンに飛びついて壊すのを止める。
「とりあえず、他に金目のものがないか調べるか」
落ち着いたモヒーカーン一行は廃坑内を探索する。
「襲ったキャラバンから収奪したと思われる戦利品がいくつか見つかったな」
「この金属の箱とか、中に何が入って―――」
「迂闊に触るなっす!!」
「うわっ!?」
「マスターっ!?」
ゴブリン達が今まで街道や近隣の集落を襲って得たと思われる戦利品をかき集める。大抵は食料品で、保存すらちゃんとしていなかったのか虫が湧いていたりする。
そんな中両手で抱えるぐらいの大きさの金属の箱が見つかり、僕が開けようとすると凄い形相でマガミが突き飛ばす。
「こういったやつには罠が仕掛けられてたりするっす! 専門知識もないやつが迂闊に触ると怪我で済んだら御の字なことになるっすよ!!」
「あ……ごめんなさい……」
「……はぁ……とりあえず罠がないか調べるっす。巻き込まれないように少し離れてくれっす」
マガミは坑道に響くぐらいの怒鳴り声で注意してくる。
シュヴァルツに助け起こされた僕が謝罪すると、気持ちを入れ替えるようにマガミは大きく深呼吸を繰り返して離れるように言ってくる。
「悪く思わないでくれよ。マガミがいた前のチーム、トラップが原因で死人出して解散しちまってよ。ちょっとトラウマなんだわヒャッハー」
「そうなんだ……」
金属の箱にトラップが仕掛けられていないか調べているマガミの背中を見ていると、モヒーカーンが近づいてマガミの過去を教えてくれる。
「やっぱり罠が仕掛けられているっす。何も知らずに開けたら中にある薬品瓶が割れて中身が無駄になるかよくないこと起きるっすね、これ」
独特のツールを持ち出して金属の箱を調べていたマガミは、一旦箱から離れて緊張した体を解しながら罠の種類を説明する。
「解除できそうか?」
「単純な仕掛けなんで何とかなるっす」
セガールが外せるか聞くと、マガミはなんとかなると答えてストレッチを終えると、再度金属の箱に向かう。
「ルーシェス、あの光で照らして欲しいっす」
「うん、これでいい?」
「もうちょい右……そこっす!」
マガミは長さの違う金属の棒や鑢などを使って罠を解除していく。
僕はマガミの指示に従って光球を操作して光を当てる。
「うっし! こいつがトラップの仕掛けっす。何もせずに開けると瓶を固定していた紐が切れて容器が割れる仕組みっす。中身はドラゴン金貨に装飾品っす!!」
ガチャンという音とともにマガミが箱の蓋を開ける。蓋の裏には液体が入った瓶が仕掛けられており、それを外して解説する。
箱には大小さまざまな宝石やドラゴン金貨、装飾品の類が入っていた。
「全部回収したら、討伐の証としてゴブリンの魔石を回収するぞ! ヒャッハー!」
モヒーカーンはてきぱきと指示をして、戦利品を回収していった。
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