第一話 死因はカップラーメン!?
皆さんは異世界転生トリップというワードを知っていますでしょうか?
異世界転生トリップとは昨今ウェブ小説などでよく使われるワードで、主に現代社会で暮らす主人公が様々な要因で死んで、現代社会とは異なる文明文化種族のいる世界に生まれ変わる物語だったりします。
なぜこんな話をしているかというと………実は僕もその異世界転生トリップしました。
ちなみに僕の死因は神様のうっかり系と言えばいいんでしょうかね?
気が付いたら三途の川といえばいいんでしょうか?
とにかく川辺にいて螺髪という仏像さんみたいな髪型をしたインド系の人と、その足元で漫画みたいな大きなたんこぶを作って悶絶して泣いている古代ギリシャ風の衣装を着た白人男性がいました。
螺髪のインド系の人が謝罪してきて、僕が死んだのは夜勤担当だった古代ギリシャ風の神様が夜食に食べていたカップラーメンをうっかり零してしまい、慌てて近くにあった人の寿命を記録する台帳の僕の寿命に関するページを破って零した汁を拭いたせいで、突然死したそうです。
とりあえず急展開すぎて自分が死んだことに驚いたり嘆いたりする前に、神様にも夜勤業務や夜食にカップラーメンがあることに驚いていました。
流石にあまりにもかわいそうな出来事で哀れに思った目の前の螺髪の神様が、僕を生き返らせることにしたのですが……なんでも生き返らせるの必要な手続きに膨大な時間がかかるらしく、許可が下りるまでの間螺髪の神様が管理する別の世界に一時的に異世界転生トリップしないかと言われました。
ちなみに手続きにどれくらいの時間かかるのかと聞くと、最短で五十年はかかると言われ、僕は異世界転生トリップすることを承諾しました。
転生先は剣と魔法のファンタジー世界で、僕が生前プレイしていたゲームのキャラクターの能力や外見、アイテムなどを持たせて転生させてくれて、現地のガイドもつけてくれるそうです。
また、転生先では世界を滅ぼすような行為さえしなければ自由に過ごしてくれればよいとの事。
ある程度転生先の説明を聞き終えると、急激に眠気が襲ってきて寝てしまい、目が覚めると螺髪の神様がいた川辺ではなく、どこか森の中に横たわっていました。
「目覚めましたか、マスター」
「うわっ!? だっ、だれ!?」
起き上がると背後から男女どちらとも取れる中性的な声が聞こえて、振り返ると漆黒の全身鎧を装着した人物が騎士が王に忠誠を誓うような膝立ちポーズで存在していました
「初めましてマスター。私は創造主よりこの世界のガイド兼護衛として遣わされたサーヴァントでございます」
全身鎧の人物は挨拶すると深く首を垂れて僕の反応を待つ。
「サッ……サーヴァント? それが君の名前なの?」
「いいえ、サーヴァントというのはしいて言えば種族名のようなものです。よろしければマスター、貴方が私の名前を決めてください」
僕がサーヴァントが名前かと問うと、全身鎧の人は名前はなく僕に名前を決めてほしいと顔を上げてお願いしてくる。
「うーん……じゃあ、シュヴァルツでどう?」
「ありがとうございます、マスター。今この時より私はマスターからいただいたシュヴァルツという名前を名乗らせてもらいます」
僕が名前を提案すると全身鎧の人ことシュヴァルツは、立ち上がり深々とお辞儀をしてシュヴァルツと名乗らせてもらうと宣言する。
立ち上がったシュヴァルツは巨人と言っていいほどでかい。横に並べばシュヴァルツのみぞおち辺りが僕の頭が届く位置だ。見上げないとシュヴァルツの顔が見えない。
「えーっと……とりあえずここは神様が言っていた転生先の世界でいいのかな? 現在地はどこになるの?」
「はいその通りです。現在地はエリン大陸南部にあるラーメイ山脈麓に広がる森でございます。ここから南に約一日ほど歩いた先にセブンブリッジという貿易都市があります」
僕が現在地を聞くとシュヴァルツは、南と思われる方向を指さす。そしてここがどこで最寄りの人里までどれくらいの距離か大まかに説明してくれた。
「シュヴァルツ、この世界の大まかな歴史や僕たちの立ち位置はどうなっているとかわかる?」
「はい、ご説明します」
シュヴァルツは神様から遣わされたガイド役ということもあって、詳しくこの世界について教えてくれる。
僕たちが今いるのはエリン大陸と呼ばれる大陸で、この世界の文明文化は地域にもよるが18~19世紀前後っぽく思えた。
シュヴァルツが教えてくれた最寄りの人里でもあるセブンブリッジは、ナブーという王政国家が所有する貿易港都市で海と陸の貿易ハブとなって栄えているとか。
「マスター、私たちの身分は北方にあるダントーイン帝国の粛清から逃れた貴族ということにしませんか?」
「ん? 粛清から逃れた貴族? どういうこと?」
シュヴァルツが言うにはラーメイ山脈を北部に抜けるとダントーイン帝国というのがあり、つい最近政変があったという。
何でも今代の皇帝が跡継ぎを決める前に急死、本来なら子供が後を継ぐのが通例だが、子供はまだ赤子で皇妃が後見人摂政として帝国の政治を采配。
そこに皇帝の弟が異を唱えて、皇太子派閥と皇弟派閥による内戦が勃発したとか。
最終的には皇弟が皇帝になり、現在皇太子派閥の粛清を始めたという。
「つまり、僕は皇太子派閥に所属していた貴族?」
「はい、そして私はマスターの家に使える騎士です。追っ手に足取りを追跡されないようにラーメイ山脈を強引に突っ切ってナブー王国に逃げ込もうとしているということにします」
「でもなんでまたそんな設定を?」
「それはマスターが魔法使いだからです」
粛清から逃れた貴族なんて壮大な設定をつける理由を聞くと、シュヴァルツは僕を指さして魔法使いだからと答えた。
そういえば生前プレイしていたゲームはシングルプレイのオープンワールドRPGでメインキャラは魔法使いだったな。
「この世界の魔法使いというのは貴族など裕福な知識層でもないと魔法を学べません。一般市民の子供に対する認識は勉強する暇あるなら家業を手伝え、商家に働きに行けです」
「ん? 子供?」
「今のマスターは大体十二歳前後の少年のようなお姿ですよ」
なぜここで子供に対する一般常識の話になるのかと僕が疑問に思うと、シュヴァルツが僕の姿が子供だからだという。
「あ! そういえばショタキャラでキャラメイクしていたな……じゃあ、シュヴァルツがでかいのは巨人だからではなく、僕が子供の背丈だから大きく見えるだけ?」
「私の身長は二メートルほどありますので巨体には変わりありませんが」
近くに鏡などがないので自分の姿がどうなっているかわからないが、シュヴァルツの言葉と生前プレイしたゲームキャラの外見を引き継いだのなら今の自分は子供の姿になっているのだろう。
「とりあえず僕はダントーイン帝国の皇太子派閥を支援していた貴族の子供で、魔法の手ほどきを受けたという設定?」
「それが一番怪しまれないかと」
「じゃあ、それで行くとして………この世界でどうやって過ごそうか」
「でしたら冒険者がお勧めかと」
過去設定が決まったところで、これからのことを考える。
生き返るのに必要な時間が最短で五十年と言われ、それまでどうやって過ごすか考えると、シュヴァルツが冒険者という職業を提案してくる。
「冒険者?」
「はい、この世界で定職に就くには市民権がないと駄目です。まあ、市民権を持っていても基本的に信頼のある人からの紹介か、大工ギルドといった職能ギルドに所属していないと雇われませんし、紹介なしで雇ってもらえるところは大抵劣悪な環境ですよ。そのてん冒険者は誰でもなれます。私とマスターの実力があれば十二分にやっていけます」
シュヴァルツはこの世界の就職状況について説明してくれる。
「セブンブリッジは貿易都市として栄えており様々な人種の坩堝でもあります。人の出入りが多いことで外部の人間にも比較的好意的です。内陸や辺境になると内向思考になっていきます。我々が生きていくのに最も適した場所と思われます」
シュヴァルツからこの世界の都市などの傾向を聞いて、あの螺髪の神様がここに転生させたのも生きやすいようにという考えがあったのかなと思った。
「冒険者で魔法使いっていないの?」
「いないわけではありませんが……大体何らかの理由でお家から廃嫡されてドロップアウトしたり、家自体が没落したりした貴族が魔法使いになります。また希少な魔法素材を直接手に入れるためや、フィールドワークを兼ねて冒険者になる魔法使いもいます」
冒険者になった貴族の魔法使いはいるのかと聞くと、シュヴァルツはそれなりにいると答える。
「特にマスターは攻防、回復等オールラウンダーですので引く手あまたかと」
「あー、ゲームキャラカンストしていたし、覚えられる魔法は全部覚えたし、MODで魔法系追加したりしたしなあ」
シュヴァルツが言うように、僕は生前プレイしていたゲームキャラはレベルはカンストしていたし、MODと呼ばれる非公式の追加データで増やした魔法など全て覚えて魔法使いプレイで遊んでいた。
「まあ、この世界で何がしたいか何ができるかまだ分からないからなあ……とりあえず今はセブンブリッジで冒険者をやりながら今後のこと考えるかな?」
「ええ、それがよろしいかと」
シュヴァルツからいろんなことを聞いて僕は、セブンブリッジでしばらくの間冒険者として活動することに決めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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