渚にて
時間は巻き戻せないらしい。想像するのは勝手だけれど、現実の技術はそれを許さないのだという。
そんな蘊蓄を垂れると、「本当に面白くないやつだな」と彼は笑った。
「まあ、仮にだよ。仮に出来たら、やり直したいことってある?」
「腐るほど。後悔の『カイ』に海の字を充ててもいいくらいには」
「例えばどんなの?」
「ただ生きてることとか、次郎系ラーメンの店なのに普通のラーメン頼んだこととか。そんな風に大小さまざまなのが人間だと思ってたけど、逆に君にはないの?」
彼を見ると、いつものへたくそな笑顔が「まあそりゃあるが」と答えた。
「あるんじゃん。どんなの?」と僕は尋ねる。
「まぁ、人間関係だな。相手が求める『俺』を相手別に演じきる生活に嫌気がさしてきてる。だから最初からもうちょっと壁を用意すればよかったかなって今になって思う」
彼はふと、寂しそうな顔をした、そんな気がした。僕だって彼の一番内側にはいないのだ。心を見たいとは思うけれど、誰だって、相手の一番内側には入れやしないのだともあきらめている。だから、
「それ以上はちょっとヤバいと思うから、よかったんじゃない?」と冗談めかして返した。いつだってこうして、海が広がる。