二足の草鞋。
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「単刀直入に申し上げます、フリューレ君の能力は魔物達の魔石を砕く能力以外にも付与魔法の能力もあり、その秘めた可能性は計り知れない物が有ります。この力は世界の為に使われるべきだと思います」
「うむ…君の言う事も分かるが…楽士としての能力もまた傑物で有ると言わざる負えない。恐らくは後世まで名を遺す逸材である。彼は音楽をしたい筈だ。冒険者の真似事では無いと思うのだが?」
やはりそう来たか…しかしここで引く事は出来ない。この能力を封印する事はこの国にとっての損失…いや、世界の損失になってしまう。
「最早、彼一人の問題では無くなりました。精霊の依代などと言う伝説級の笛を手にした以上はそれなりの責任が発生します。コレは本人が望む望まないに関わらずです。その事は恐れながら子爵閣下の方が御存知の筈では御座いませんか?」
レイブンス子爵は黙ってしまう…ここでもう一押しするか…。
「其処でご相談が御座います。フリューレ君には楽士学院に所属したまま、我々の方で戦いも経験させてゆくと言うのは如何でしょうか?」
「それは…身体は一つしかないぞ。その様な中途半端な事は…」
「子爵閣下が申される通りの傑物で有るなら、そのくらいは出来るかと。如何でしょうか?」
「…少しだけ考えさせてくれ…事は私の一存では決められない。君も知ってるだろう?」
「…ガドーラ辺境伯様ですね」
「その通りだ。急ぎ連絡を取る事にする。場合によっては直接会いに行かねばならぬ。その時は君にも来てもらう事になる」
「それは構いません。何時でもご連絡お待ちしております。それまではくれぐれも御内密に…一番厄介なのは内務機関ですから…」
「それは分かっているよ。ではまた…」
さあ、コレで仕込みは終わった。後はガドーラ辺境伯次第って事だな…。
悪いなフリューレ君、まずは外堀を埋めさせてもらうよ。
◆◆◆◆◆◆
「此処は…はっ!子爵閣下は?」
目を覚ますと見た事のある部屋に寝かされていた…レイブンス子爵家の客間…私が泊まっていた部屋だ。そうか…私はまたレベル酔いをして倒れたのだな…。もう、子爵閣下には隠しては置けない…でも助けられたのならば悔いはない。私は…あの笛と共に生きなければならないのかも知れない。
「目が覚めたようだね」
「子爵閣下…申し訳御座いません」
「何を謝る事があるのだ?むしろ感謝しかないのだが…良く助けに来てくれた。ありがとう、フリューレ君」
子爵閣下はそのまま椅子に座って話し始めた。
「あの見えない笛の件はアルメスト君から聞いている。その件に関してはガドーラ辺境伯様に相談するつもりだ。アルメスト君からは学院と魔物退治の両方が出来ないかと言われた。私からは立場的にはこうしろとは言えないが…力を授かった以上は責任が発生するのは致し方の無い事…。ならばアルメスト君の所が妥当ではある。内務機関は使い捨てにされるだけだからね」
「内務機関…」
「彼らに君を渡す訳にはいかない。その為には冒険者としての実績が必要になる。あの者たちが手を出せない様にする為にね」
「私は…学院に居て良いのでしょうか??もう純粋に音楽が出来ないと言うのに…」
「それは君なら出来ると思うが…両方共に君の得意な音楽では無いかね?」
両方とも音楽…思ってもみない事を言われた…同じ笛を吹くという事…そうなのか?私は自問自答していた。
すると突然ドアが開いてマリーゼルお嬢様がやって来た。
「フリューレ!今ここで見えない笛を吹きなさい!」
「お嬢様…」
「早く!お吹きなさい!」
私は言われるがままに見えない笛を吹いてみた。やはりこの笛の音は素晴らしい…。
吹き終わるとマリーゼルお嬢様はこう言ったのだ。
「フリューレ、貴方はこの笛が好き?」
私はハッとした。
アルト講師に「フリューレ君はあの笛が嫌い?」と言われた時に自分の気持ちをワザと誤魔化そうとしてたのだと。
「私は…この笛の音が好きです」
「ならばフリューレ、例えどんな笛であろうと好きな笛の為に精進するのは当然ではなくて?」
そう…その通りなのだ。今まで分かっていたのにワザと見ようとしなかった。
「はい、その通りです…やっと目が覚めました」
この笛を極めてみよう。まだまだこの笛を吹きこなせてはいない。
「子爵閣下、やっと私の征くべき道が見えた気がします。学院で演奏技術を磨き、冒険者としてこの笛を極める事にします」
「分かった。ガドーラ辺境伯様にはその様にお伝えしよう」
こうして私は冒険者として活動をしながら学院で演奏を勉強するという二足のわらじを履く事となった。
そして、アルメストさんのクラン『破邪の雷』に仮隊員として所属して、冒険者の登録を済ませた。仮隊員なのは学院がアルバイトを禁じてる為、お金を稼がない研修の立場と言う体にする為である。
「ようこそ『破邪の雷』へ。フリューレ君には難しい選択をさせたね。すまないと思っているよ」
「いえ、もう決めた事です。迷いはありません」
「そうか…分かった。おい!入って来てくれ!」
すると中に見た事の無い長身の男が入って来た。不思議ととらえどころの無い感じがする。
「フリューレ、彼はリンドール、君の師匠として色々と教えさせる事にした」
「リンドールだ。フリューレ君だね?アルメストさんから色々聞いているよ」
「フリューレです。宜しくお願いします」
「さてと…それでは君の実力を見せてもらおうかな」
リンドールさんは私を連れ出してクランの保管庫へ向かった。そこでフード付のコートと装備一式を渡され着替えさせられた。そして、顔の上を隠す仮面を渡された。
「君は学院の生徒だ。冒険者をしてるのは内緒だからね、顔バレしない様にこれを着けてくれ」
なるほど…顔バレは良く無いよな…。
仮面を着けるとリンドールさんは笑いだした。
「思ってたより似合ってるよ、アハハハ」
そして私達は王都の南に向かう事になった。
王都の南には初心者向けのダンジョンが有るので其処で実力を見るらしい。
「さて、ここが『サウスダンジョン』だ。初心者向けだが奥に行くと油断出来ない魔物も居るから気をつけ給えよ」
「はい、宜しくお願い致します」
私は初めてのダンジョンに入る事となった。
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