破邪の雷。
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あれからしばらくはあの笛を机の中に仕舞ったままだった。
しかし、私はちょっとした身体の異変に気が付いた。
それは楽譜を書き写している時だったが、然程力を入れた訳でもないのにペンがへし折れてしまったのだ。その時はラスティアからペンを借りて問題は無かったのだが、その後も食事の時にフォークを曲げたり、うっかりぶつかって来た上級生の方が飛ばされてしまったりと公私にわたり支障をきたす様になっていた。
「フリューレ君、ちょっと良いかな?」
授業の後にアルト講師から呼び出しを受けた。
「フリューレ君、ちょっと君に紹介したい人が居るの。相談に乗ってもらえると思うよ」
「相談…ですか?」
「困ってる事あるんじゃない?」
「…あ、あの…」
「多分、その悩みを解決してくれる人よ」
アルト講師は相談室に私を連れて行った。中に入ると其処にはあの時助けてくれた冒険者ともう二人、耳の尖った美形の女性…もしかするとエルフかもしれない…もう一人は一見優しそうな顔だが眼光の鋭い人だった。
「あっ…あの時はお世話になりました。お礼も出来ずに申し訳有りません」
「よお!元気そうだな!オレはハリス。お頭、この少年で間違い無いです」
「君がフリューレ君だね?私は『破邪の雷』というクランを率いているアルメストという者だ。ちょっと聞きたい事が有って訪ねてきたんだ」
「あっ…じゃあハーディーさんの…」
「おお、覚えてたのかい?そうハーディーもウチのクランに所属してる。それで、今日来たのは君の身体の変調についてだ」
「ど、どうしてそれを…」
私は驚いていた。何故この人が私の身体の変調を知っているのか…アルト講師に聞いたのか??いや、アルト講師も少し驚いた顔をしている…とすると魔法でも使ったのか??
「実は君の身体の変調は短期間で急にレベルアップした事によるモノだよ。所謂”レベル酔い”ってヤツさ」
「レベル酔い??ソレって…??」
「あ〜つまり、君が魔物を倒した事でレベルアップした為だよ。ハリスが助けた時に周りで死んでたゴブリンは全部で6体。その経験値が一気入ったんだ。だからレベル酔いをした…そしてレベルアップしたので力の制御が出来ないと言う訳さ。初心者には良くある事なんだ」
「ぼ、僕が魔物を…倒した??そんなバカな…」
「まあ、そこが問題だよな。何故に君がゴブリン6体を倒せたか…しかも自分が気付かない内にだ…。ソレはウチのハーディーが持って行った『覚醒めの横笛』を吹いた事が原因と見てるんだが…違うかい?」
「ま、まさか…あの時に出た笛が…」
「そうか、やはり有るんだね?君にしか見えない笛が」
「は、はい…あの時…あの笛が壊れた時に、僕の手の中に現れたんです…」
「やはりな…じゃあ、その笛を見せてもらえないかな?まあ、私にも見えないと思うが…」
「は、はい今持って…」
すると私の手の中にあの横笛が現れたのだ!!私は固まってしまった…どうして??
「アルメスト、彼の手の中に何かが出て来ました…とても強い何かです。形は…ぼんやりしていて見えません」
「うむ、大きな力がいきなり湧き出たな…そういう事も出来るのかい?」
「い、いいえ…今いきなり現れたので…」
「ほう、なるほど…どうやら、君の意思で呼び出す事が出来る様だね…中々便利だな…じゃあ、済まないがその笛を吹いてくれないか?私達には見えないがね。レオ、例のを出してくれ」
「はい、承知しました…」
するとエルフの女性…レオと呼ばれたその人が何も無い空間から檻に入った魔物を出現させた!如何やったのだろう?
「アルメスト!!コレは??」
「あ〜、魔法の檻に閉じ込めてあるから大丈夫だよ、アルト。さあ、吹いてみてくれフリューレ君」
「で、では…」
私はその笛を吹いてみせる…相変わらず心地の良い音色だ…しかし、檻の中の魔物は苦しそうに藻掻いている!そしてパリッと音がすると魔物は倒れて動かなくなった…。
ハリスさんはその魔物の胸をナイフで切り裂いた。
「マジか…ホントに魔石が砕かれてる…この檻は魔法障壁が掛かってんのに…」
「やっぱりね。コレで確定だな…君の笛の能力は”魔法も肉体も素通りして魔石を砕く能力”だね。覚醒めの笛の鑑定結果に出ていた『この笛を吹ける者が現れし時、魔邪を祓う精霊の依代が覚醒める』…この見えない笛こそが”魔邪を祓う精霊の依代”だ。そしてこの笛はフリューレ君、覚醒めの笛を唯一吹く事が出来た君にしか吹けない」
なんて事だ…この私が魔物を知らずに倒していたなんて…しかも精霊の依代って…。
「そして、コレはあくまでも私の推測だが、この笛が君の元に来たのは偶然じゃ無い。この笛が君を選んだんだ。つまり、その笛は最低でも伝説級の武器という事で間違い無いだろう。この手の武器は自分の意志を持つからね」
まさか…この笛が武器だなんて…この音色が…魔物を殺すなんて…。
「って事で、取り敢えずこの腕輪を着けてくれたまえ」
と、アルメストさんが私に腕輪を投げる。
「その腕輪は君の力を上手く調節してくれる。その内腕輪が必要無い様、自然と制御出来る様になるから安心したまえよ」
そしてアルメストさんはこう言った。
「良いかい?フリューレ君、この力は人を護る為の力だよ。恐らく君の望む望まないに関わらず、君は戦いに巻き込まれてしまうだろう。その時に護りたいと思う物を躊躇無く守り抜きなさい。後悔をしない為にもね。その時は必ず私達が君の力になると約束しよう。その事も忘れないでくれ、良いね?」
私は何も言えなかった…。
私は笛を吹きたいだけなのに…笛の音色で人々に少しだけ幸せを感じて欲しいだけなのに…こんな力は必要無いのに…。
心からそう思っていた…。
だがアルメストさんの言う通り…私は大切なものを護る為にこの力が必要になってしまうのである。
◆◆◆◆◆◆
「宜しいのですか?あのままで」
レオはアルメストに問うた。
「今はそっとしておこう。その内嫌でも戦う事になる。それを納得するまでは放っときゃ良いよ」
「しかし…あの力…笛の音が聞こえる範囲の魔物が殺られるとか…しかも魔法も素通りとかヤバく無いっすか?」
「まあ、人には害は無さそう…と言うか人には良い音色にしか聞こえない。だから彼の敵は…魔物よりも人って事になるな」
「魔物よりも人…何か皮肉な感じですね…」
「今の内はな。ただ、この先は分からんぞ…何せ笛自体が見えないので鑑定も出来なかったからな。他にどういう能力が有るのかも不明だ」
アルメストは鑑定の持ち主でもある。だが笛を見る事が出来ず、さすがのアルメストも鑑定が出来なかったのである。
「さて…如何なることやら…乞うご期待ってトコだな。万が一にも敵になる様なら…躊躇無く殺す。まあ、味方になってくれると思ってるがね」
「それまでは監視のみで?」
「うむ、既に”蜥蜴”と”蜘蛛”に見張らせてるので問題無い」
ハリスは驚いていた。”蜥蜴”と”蜘蛛”はクランでも自慢のツートップであり、冒険者の中でも上位ランクの『隠者』なのだ。
「あの二人を使うんですか?」
「そのくらい重要事項なのだよ。彼の身柄はウチで引き取る。他の奴らには知られてはならないからね」
今回の件は冒険者ギルドも把握してない案件である。
その為、他のクランや王国に知られる事は無いだろうが…唯一気になっているのはレイブンス子爵家である。フリューレのパトロンでもあり繋がりは深いと見ていた。
しかしながらレイブンス子爵は財務官である為に、フリューレを軍関係に引き渡す可能性はかなり低いと見ている。それは財務と軍閥の関係性…つまり仲が悪いからである。しかし、ガドーラ辺境伯の推薦などもあるから安心は出来ない。彼等があの笛の存在を消してしまえばフリューレはただの楽士で居られるのだ。
だがあの笛がソレを許さないだろう…少なくともそういう武器を持つ者にはそれなりの試練が降り掛かる。だからあの手の武器に選ばれた者にはソレを正しく行使する責任が発生するのだから。
(さて、どう転がるかを見極めて動かないと…難しい舵取りが必要だが、やるしか無いな…。あの大物ルーキーを何としてでも引き入れたいものだな)
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連載中の小説です。コチラもご覧頂ければ幸いです。
転生したら属性魔法を使えないので、金属使役魔法を極めて生き抜く予定です。
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落ちこぼれテイマーの俺は、ユニークスキル魔獣武装で無双する。
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