覚醒めの横笛。
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ここから物語が進んで行きます。
メナス王立楽士学院に入学して三ヶ月が経とうとする頃、学院に変わった客が現れた。
彼の名はハーディー、王都の冒険者で『破邪の雷』と言うクランに所属しているらしい。彼はラスティアと幼馴染みで小さな頃からラスティアに泣かされながら育って来たらしい…そのハーディーがラスティアに頼み事をしに学院までやって来たのである。
本来なら冒険者と言うだけでは学院には入れないが親族という事で来たらしい。
「よう!ラスティア!久し振り。元気そうだな。」
「ハーディーも元気そうだな。ってかボクに何の用さ?…金でも借りに来たのかい?」
「そんな訳ねーだろ!借りるなら先に行ってるお前のトーチャンに借りるだろ!全く…」
「じゃあ何なのさ?わざわざ親族って肩書き借りてまで来るなんて」
「ああ、実はコイツを見て欲しくてな…」
彼が持ってきた包を開けると中には古そうな横笛が入っていた。私は直感でこの笛は何かしらの”鍵”の様に感じた。
「この間、ウチのクランで隠しダンジョンの調査が有ってな、その時に最奥の祭壇に置いてあったのがこの横笛なのさ。鑑定を掛けると『覚醒めの横笛』って笛で『この笛を吹ける者が現れし時、魔邪を祓う精霊の依代が覚醒める』って結果が出たんだ」
ハーディーはひと呼吸入れてから話し出す。
「そこでウチ等のメンバーで笛を吹ける奴に片っ端から吹かせてみたんだけどな、誰も吹けなかったんだ…その笛を。最後はクラン長の知り合いの楽師や王都の楽士にも吹かせて見たが駄目だったんだなぁ〜コレが。それでオレの知ってる中で横笛吹かせたらピカイチって言えばお前だからな!それでラスティアの親父さんに頼み込んで会いに来たって訳さ」
「ふ〜ん…アンタ暇なんだね…」
「ひ、暇とは何だ!!重要任務だぞ!」
「ボク、興味無いなあ…汚そうな笛だし…」
「そんな事言わずに吹いてみてくれよぉ〜頼むからさ〜」
「じゃあ吹けたら何してくれるんだい?」
「チッ、仕方ねぇな…じゃあラディウスのバロアケーキ1個な」
「乗った!忘れんなよ!」
ラスティアは嬉しそうにしながらその横笛を手に取り、吹こうとした。
「フーーーーーッ…あれっ?」
びっくりした様にラスティアはもう一度構え直して笛を吹こうとするが全く吹けなかった。
「があああ〜〜〜お前でも駄目かぁああ!!」
「…なぁ、この笛って音が鳴らない様になってるんじゃないの?」
「そんな筈無いって専門家も首捻って不思議がってたからなぁ…」
「う〜ん…フリューレ、お前吹いてみなよ」
「えっ?僕が??」
「ってか彼って何者?ラスティアの彼氏か?グフぉおお!!」
ラスティアの拳がハーディーのみぞおちに炸裂していた…早過ぎて見えなかったよ…。
「フリューレは今期の首席合格者なんだよ!私の学友だ!同じ横笛奏者のが、く、ゆ、う!」
「イタタタ…本気で来やがって…お前やっぱ冒険者のが向いて…あ、ゴメンナサイ、嘘です嘘です…」
「とにかく吹いてみなよ。フリューレが駄目なら学院で吹ける人は居ないよ」
「じゃあ吹いてみるね…」
私はその横笛を構えて吹いてみる。すると澄んだ綺麗な音が鳴ったのである。
「うおおおお!!鳴ったじゃねーか!!」
「う、ウソ!!何で鳴るのよ??」
ラスティアはその横笛を奪い取る様にしてもう一度吹くがやはり音は鳴らない。
「何なのさ…どういう事??」
ラスティアは横笛を包みの上に置きながら私の方をじぃ〜と見ていた。その時だった、その横笛にピシッと亀裂が入りボロボロと崩れ始めた。
「えっ!アガガガガ!!ふ、ふえがぁああ!!」
ハーディーは悲鳴を上げて笛がボロボロになるのを見ていた。
その時、私の手の中に何かが光り出し、光と共に白い横笛が現れたのである。その横笛は何かの骨の様な節がいくつもあり、先端は円錐状に尖っていた…爪の様にも見える。光の加減で虹色に見える…とても綺麗な横笛である。
「ラスティア…これ…」
「ん?何?どうした?」
「えっ?これ…」
「何よ?手のひら見せて何してんだい?」
(ラスティアには見えてないのか??まさかそんな…)
「ラスティアあああ〜お前壊しやがったな!!」
「な、何言ってるんだ!!お、置いただけだぞ!!知るか!!」
「あああ〜クランの副長にシバかれる〜〜あ〜、絶対死ぬな…これ詰んだな…」
どうやらハーディーにもこの横笛が見えていない…一体この笛は何なんだ…。
包みの中にボロボロに朽ち果てた横笛を入れたハーディーはガックリと肩を落としてトボトボ帰って行った…。
「でも、何でフリューレが吹けてボクが吹けなかったんだ?…何かムカつく…」
そう言って私を睨みつけるラスティアから逃げる様に部屋に帰った。
部屋に帰った私はその笛を吹いてみる。とても良い音が鳴った。今まで聞いた事の無い音色だった。と、ドアがなる音が聞こえて開けると隣の部屋のモーリスが立っていた。
「おい、笛の音が部屋まで聞こえるんだが、ドア…は閉まってたから…窓開けっ放しじゃ無いよな?」
「えっ?ここ防音だよね?」
「アレ?笛持って無いな…ごめん…笛の音が聞こえたんでてっきり…ってか、そうだよな防音だもんな。済まない、気にしないでくれ…」
モーリスは謝って部屋のドアを閉めた…彼も私の持っていた笛が見えていなかったのである。
私は外に出掛ける事にした。この横笛は学院では吹けない…となれば王都の外れの森にでも…しかし、あの森も最近は魔物が出るらしいから奥の方には行けないな。
だが、この時に私は気付くべきだった…部屋の防音が何故効かなかったのか、音が”魔法を素通り”したという事に。
私は森の少し入った所で横笛を吹く事にした。本当に良い音色のする横笛だ…私は楽しくなって次々と色々な曲目を演奏した。こんなにも楽しく笛を吹くのはどのくらい振りだろうが…私は良い気分で笛を吹いていた。
しかし突然吐き気と目眩を起こした…何だ如何したんだ??私は倒れ込んだ…。
(…おい…し…しっかりしろ!!)
私は目を覚ました…どうやら気絶していた様だ。ガタイの良い如何にも冒険者という人に起こされたのだ。
「おお、気が付いたか!こんな所で一体如何したんだ?君は…その制服…メナス学院の生徒か?」
「は、はい…スミマセン…笛吹いていたら急に目眩がして…ありがとう御座いました」
「そうだったのか…先ほど、直ぐ側でゴブリンの死骸が何体か転がってたぞ。危なかったな」
「おい!あのゴブリン変だったぜ!」
森の奥から出て来た冒険者が不思議がっていた。
「何かあったか?」
「其れが、傷一つ付いて居やがらねぇのに魔石が粉々に砕かれてやがった。こんなのは初めてだぜ」
「魔石が??如何なってんだ…おい、坊やは何か知らねぇか?誰かしら居たとか?」
「私は全く…気絶してたので…」
「まあ、そうだな。とりあえず今日は帰んなよ。あまりここら辺は近付かねえ方が良いぜ」
「あ、ありがとう御座いました…私はフリューレと申します。お礼をしたいのですが…」
「あ〜、良いって事よ!気にすんな!コレも冒険者の役割ってもんよ」
私は冒険者の人の言う通りに、そのまま学院に帰った。しかし何故この笛を吹いていたら突然気分が悪くなったのだろう?呪いの笛なのだろうか??だが、途中までは問題は無かった…むしろ調子が良いくらいだったのに。
とりあえずしばらくはこの笛を吹くのは止めにしよう…。
◆◆◆◆◆◆◆
「馬鹿野郎がっ!!折角のお宝を壊して来やがって!!」
ハーディーはクラン副長のディーガに大目玉を食らっていた。
「ス、スミマセン!!いきなり笛が粉々に…」
「んな訳ねーだろ!!落としやがったか??あ??」
「違いますよぉ〜ホントに音が鳴って返してもらったあと直ぐに笛が…」
「この野郎…まだ知らばっくれてんのか?よ〜し…キッチリと落とし前つけたろか」
ディーガがハーディーの胸倉を掴んだその時、奥に居たクラン長のアルメストが声を掛けた。
「まあ、待てって…ハーディー、あの笛は音が鳴って壊れたんだな?」
「は、ハイ!!そうです!!」
「笛を鳴らしたのは…フリューレって学院の生徒なんだな?」
「ハイ!何でも今期の首席合格者だとか…」
「ふ〜ん…今期の首席ってえと…確か…ガドーラ辺境伯の推薦貰ったって子だって話だ…」
「アルメスト詳しいな。楽士に知り合いでも居るのか?」
「ああ、同郷のな…笛の天才君が鳴らした…か…。その鳴らした後に何か出なかったか?」
「いや…特に何も…あっ…そういやぁ…」
「ん?何かあったか?」
「フリューレが手のひらを見せてたんです…オレの幼馴染みに…何やってんだコイツって…」
アルメストは何かが閃いた。それは手のひらを見せたのでは無かったとしたら…。
「それは…それはお前には『見えなかった』んだな??その幼馴染みにも」
「は、ハイ…何も無かったです…」
すると冒険者が一人アルメストに声を掛けた。
「クラン長、そう言えば、今日奇妙なゴブリンの死骸を見たって話なんですが」
「傷無しで魔石だけ粉々ってアレか?」
「ええ、そん時近くで倒れてた子供がフリューレってメナス学院の生徒でしたぜ」
「本当か?近くで倒れてたのか?」
「ハイ、何でも笛を吹いてたら急に目眩がしてって言ってたんすけど…笛を持って無かったんですよね…」
「その笛は持って無かっ…いやお前には『見えなかった』んだな?」
「あ、ハイ…何も持ってませんでした…」
アルメストは何かに気付いた様子だった。
(もしも、誰にも見えない笛を持っていたとしたら…?そしてゴブリンを…レベルアップ酔いだったとしたら?)
「そうか…フリューレ…会ってみるかな…」
面白い、次も読みたいと思われましたら、ブクマや☆の方を入れて頂けると嬉しいです。
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