入学式首席演奏。
お読み頂きありがとう御座います。
この次より物語が動き出します。
三日後、私はメナス王立楽士学院の入学式に出席する為、レイブンス子爵家より学院に向かう準備をしていた。
私はマリーゼル様からのプレゼントである燕尾服を着て、少ない荷物を馬車に積んだ。
学院には学生寮があり、そこに入寮する。寮は一人1部屋づつ割り当てられる。楽士として演奏の練習が出来る様になっている。壁には防音の魔法が施されており、各自の練習を損ねない様になっている。
「色々とありがとう御座いました。何と感謝すれば良いのか…」
私はレイブンス子爵閣下と奥様に挨拶をした。
「フリューレ君、頑張るのだよ。君の笛の音は人を幸せにする音色だ。さらに精進して多くの人を幸せにしてくれ」
「こちらに戻る時は連絡するのよ。フリューレ君が好きな肉料理を用意して待っでるわ」
御二人の温かい言葉に感極まっていると後ろからマリーゼル様が呼んでいる。
「フリューレ!早く行かないと!急ぎますわよ!!」
「それでは行って参ります!!」
私はマリーゼル様が居る馬車に乗り込んだ。マリーゼル様は父母が来れない私の保護者として入学式に来る事になっていた。学院の行事にはこの様な事はたまに有るそうだ。
「何か必要な物があれば家に必ず連絡するのよ。直ぐに届けさせるわ」
「ありがとう御座います。でも殆どお金は掛からないと思うのですが…」
「甘いわね!学院の行事で色々な場所で演奏する事も有るのよ。その時の衣装だって必要よ。その場合は制服で行く訳じゃ無いのよ。まさかその燕尾服だけで乗り切れると思って?」
「そ、そうなのですね…楽士はお金が掛かるなぁ…」
「それに学院はアルバイト禁止なのよ。だから学院がある程度は貸し付けてくれるの。でも限度が有るので実家にお金が無い場合はパトロンが必要なの。家が正式に客人として扱ったのはそういう事を見越しての事なの。お分かり?」
「そうだったのですか…全く分かってませんでした…」
「…はぁ…やっぱりね…ちなみに父上はガドーラ辺境伯様に手紙を出して、コチラでのフリューレの支援の許可は取ってあるのよ」
私は驚いていた。まさかガドーラ辺境伯様に連絡までしていたとは…。当然、私も首席合格の件は直ぐにお手紙を出してはいたのだが…。
「家が支援者と言う事を知らせる為にパーティーもやったじゃないの」
「あっ…あのパーティーはそういう事だったのですね…」
「もちろん貴方のお祝いをしたかったのも当然有るけど…貴族社会ではそういう事を根回しするのも必要なのよ。だから家が支援すると知らせたのに、正式な場所で変な服装で行かれてはレイブンス子爵家は面目丸潰れになるの。だから必ず連絡をして頂戴ね」
「分かりました。レイブンス子爵家に恥は絶対にかけられません」
「分かれば良いのよ。さあ、もうそろそろ着きますわ」
学院の正門前に到着した馬車から降りて荷物を取り出そうとすると、ビルケルさんが「荷物は私がお運びしますので笛と学生証だけお持ち下さい」と言うのでその通りにする。
「私は親族の席におりますわ。緊張せずに演奏するのよ」
「お気遣い感謝します。行って参ります!」
私は正門で学生証を見せて中に入る。学院の入口前にハリソン講師とアルト講師の二人が待っていた。
「ハリソン講師、アルト講師、おはようございます」
「おはよう。フリューレ君、うん、中々決まってるね!良く眠れたかい?」
「はい、昨日はぐっすりと…」
「フハハハ!流石は大物だな!コレなら首席合格者演奏もバッチリだな!」
アルト講師は私の胸に校章ともう一つ赤い勲章みたいなものを着けてくれた。
「この赤いのは『首席校章』…別名は『紅薔薇』と呼ばれていて全生徒の目標になるの。ちなみに首席卒業者には青い物が贈られるわ。貴方はその『青薔薇』を目指しなさい」
「御期待に応えられる様に頑張ります」
校舎に入ると私に声をかける者が居た。ラスティアである。
「フリューレ!見違えたよ!」
「ラスティア、久し振り…って、何で制服なの?」
「首席合格者以外は皆制服だよ。フリューレは演奏が有るからだろう?知らなかったのかい?」
「し、知らなかった…世の中知らない事が多過ぎる…」
「アハハハ!フリューレは世間知らずだな!」
などとラスティアに言われながら入学式の式場…と言っても入学試験のあった場所である。私が入ると中に居た全員の視線が刺さって来る…平民の私が首席合格なのだから仕方が無いとは思っていたが…。
私はラスティアと共に後ろの席に座ろうとした。すると後ろから声を掛けられた。
「フリューレ君だったね、私はシューゲル=カドレアルだ。この席は良くない、前の方に行った方が良いよ」
「何故この席は良くないのでしょうか?」
「最後の演奏の際に舞台に行くまでに階段を降りてゆくだろう?その時足を掛けたりする者も居るかも知れないからね。最前列が良いと思うよ」
「そ、そんな事をする人が居るのですか?」
「もう、戦いは始まってるからね。用心は常にした方が身の為だよ。特に君は平民出身だからね」
「シューゲル様、ありがとう御座います」
「さあ、私と行こう。私に足を掛ける無礼者は居ないだろう」
私はシューゲル様の後ろを付いて行く様に最前列の席に座った。
しばらくすると講師入場から始まって式典が始まった。それから貴賓席の偉い方々の長い紹介が終わり、最後の方で学院長の話が始まった。
「諸君、入学おめでとう。これからが君達の本当のスタートで有る。私からは一つだけ…技術だけを追い求めないで欲しい。心が無い音は誰の心にも響かない。だから楽器もただの道具とせずに相棒として大事して欲しいのだ。相棒と共に心身を育てて自分の音を響かせて欲しい。私からは以上である」
会場からは大きな拍手が湧き上がる。私もそう有りたい…と強く思った。
「それでは今期入学試験の首席合格者による演奏を致します。フリューレ君、舞台の上に」
私は意を決して舞台上に上がる。ここの会場の人達だけで無く、お世話になった方々に向けての演奏をしようと。
私が演奏を始めると会場が少しどよめく様な驚きに包まれたが、直ぐに静まり返った。私は持てる全ての物を音色に変えて会場に響かせる。そして両親や村の人たち…ガドーラ辺境伯様やレイブンス子爵家の方々に届けと…。
演奏が終わると静まり返った会場から拍手がなり出し、スタンディングオベーションの拍手喝采に変わった。
私は挨拶をしてから席に戻るとラスティアが興奮した様に迎えてくれた。
「す、凄かったよ!やっぱり天才だったんだなぁ〜、ボクもフリューレみたいに演奏したいよ!」
そしてもう一人…隣に居るシューゲル様が話し掛けてきた。
「今期入学試験を受けた者は、君の演奏を聞いて音楽に対する自分の傲慢さに気付いただろう。間違い無く君の演奏は首席合格者に相応しい物だったよ。私も興味を失い掛けていた音楽にもう一度向き合う事にするよ。フリューレ君、ありがとう」
「シューゲル様…こちらこそありがとう御座います」
「君とは学友として接して欲しい。良いかな?」
「もちろんです!宜しくお願いします」
こうして入学式は無事に終了した。
私には二人の学友が出来た。そして、これから音楽漬けの毎日が始まるのだ…と思って疑わなかった。
そう、あの日が来るまでは…。
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