レイブンス子爵家
お読み頂きありがとう御座います。
4話目までは序章の様な形で進み、5話目から魔戦奇譚としての物語が始まって行きます。
宜しくお願い致します。
私はフリューレ。
カールナイツ王国の遥か西方に位置するガドーラ辺境領の更に西にある小さな村、ルスクスから王国の楽士を目指してはるばる王都ダルムセークにやって来た。メナス王立楽士学院に入学する為である。
幼い頃から横笛を吹く事が得意で、村では『神童』と呼ばれていた。その二つ名に更に箔が付いたのは旅の楽士隊が私の笛を聞いてスカウトして来た事があったからだ。
その時は父も母も私の笛の才能をあまり良しとしなかった為に、その時のスカウトを断わってしまったのだが、楽士の一人が「この子供の才能を潰してはいけない。ぜひ王都のメナス王立楽士学院に入学させなさい」と言い残して立ち去ったのだ。
それからは村長や教会のシスターが中心になって私を支えてくれた。私は毎日昼は教会に通い、夜は宿屋の食堂で笛を吹き続けた。12歳になる頃には結構な額の寄付金が集められており、噂を聞き付けたガドーラ辺境伯様の目に止まり、推薦を頂いた私はメナス王立楽士学院の入学試験を受けられる事となった。ガドーラ辺境伯様には感謝しかない。
出発前には村人総出で壮行会を開いてくれて、皆が見送る中、私は王都に向けて旅に出たのだ。
王都までの長い道中も私は皆が集めてくれた大事な資金を使わぬ様に、笛を吹きながら旅の資金を稼いでいた。
行く先々の街で笛の音を気に入って貰い、引き留められる事もしばしばだったが、学院に入学する事を話して諦めてもらった。
そんな事もあり、王都に着く頃には寄付金の倍近くまで持ち金が膨れ上がっていた。
王都に到着すると長い列が出来ていたので、並んでいる人達の気晴らしにでもと練習がてらに笛を吹いていると、横を通り抜けようとした豪華な馬車が止まり、中から貴族のお嬢様らしき人が出て来た。
「今の笛は貴方が吹いていたのね!ホントに良い音色だわ。貴方お名前は?」
「私はフリューレと申します。王都のメナス王立楽士学院の入学試験を受けに参りました」
「まあ!貴方が?…失礼ですけど試験を受けるには推薦状が必要ですのよ」
あ〜、私の身なりを見て平民が知らずに来たと思われたのだな。まあ仕方無いけどね…。
「あ、はい。それでしたらガドーラ辺境伯様の推薦状を持っております」
「なっ!ガドーラ辺境伯様ですって??あの楽士にとても厳しい御方が推薦状を出すとは…なるほど只者ではありませんでしたのね」
そのお嬢様は私を上から下まで見た後でこう切り出した。
「私はレイブンス子爵家のマリーゼル。フリューレ、是非とも我が屋敷で演奏して欲しいの。入学試験はまだ先ですからそれまでは屋敷に客人として招くわ。良いわね?」
「わ、私などが子爵家の客人など…滅相も御座いません…」
「良いのよ!家の者達も貴方の笛ならば感激すると思うわ。遠慮せずに来るのです。宜しいわね!!」
強引な誘いに断る事も出来ずにお付きの従者の人に馬車に押し込まれてしまった…。
私はマリーゼルお嬢様にせがまれて馬車の中でも笛を吹かされたのである。
王都は本当に大きな街だ…辺境伯様の州都ラビリンスも大きな街でびっくりしたけど王都はその遥か上の大きさだ。今ほっぽり出されたら迷子間違い無しだなあ…。
街に圧倒されて眺めてる内にもう一つの門を抜ける。此処からは貴族の屋敷のエリアらしい。その結構奥の方にレイブンス子爵家があった。かなりの豪邸である…イヤな汗が出て来る。そんな私を見てマリーゼル様は微笑みながら話し掛ける。
「そう緊張しなくても良いのよ。父上が帰るまでは部屋でゆっくりすると良いわ。後の世話はこのビルケルに任せるから何でも聞くと良いわ。ビルケル、頼んだわよ」
「かしこまりました…お任せを」
マリーゼル様は言うだけ言うといそいそと屋敷に入ってしまった…参ったな。
「さあ、フリューレ様、此方へどうぞ…」
ビルケルさんに案内されて客間の方に通された。貴族の方はどうしてこう強引な方が多いのだろう…旅の最中もこの様な事が何度か有ったしなぁ。それでも試験前に貴族の前で演奏する事は良い練習にもなるからと、自分に言い聞かせて笛を吹こうと思う。
「フリューレ様、こちらの客間をお使い下さいませ」
とんでも無く広くて豪華な部屋に通されてしまった…実家がそのまま入りそうな大きな部屋だ。こんな豪華な部屋でこんなにも広いと何か落ち着かないので、荷物を置いた後に笛の手入れをしているとビルケルさんが食事を持って来てくれた。実はお腹が減って居たのだけど、言い出せずにいたので非常に有り難かった。
「ありがとう御座います。丁度お腹が空いてたんです」
「そうでしたか。それはよう御座いました。沢山御座いますので遠慮なくどうぞ」
「いただきます!!」
やっぱり貴族の食べる物は違うなぁ〜、パンなんてふかふかだからね。いつもの歯が取れそうなくらい硬いパンには戻れないかも。スープもほっぺたが落ちそうなくらい美味い。メインの肉料理なんて食べた事の無い味付けだった…美味しくてオカワリしてしまった。
食事が終わると全部片付けてくれる…お店みたいだ。
「お食事はいかがでしたか?」
「物凄く美味しくて感激しました!特にお肉料理は食べた事の無い味で…びっくりしました」
「それはそれは…お気に召した様でよう御座いました。そろそろご主人様がお帰りになられますので、ご用意の方お願い申し上げます」
「はい!分かりました」
準備と言っても大した準備も無いのだけど…。笛の手入れを終わらせたくらいにビルケルさんが呼びに来た。私は案内されるまま付いて行くと大広間に通された。
大広間にはお嬢様とご両親と思われる品の良い紳士と淑女がいらっしゃる。私は挨拶をした。
「フリューレと申します。本日は子爵閣下にお目通り頂けました事…」
「挨拶は後で良いのよ!さあ、早く演奏なさって!」
マリーゼル様はせっかちさんだなぁ。子爵閣下と奥様も少し笑ってるし…。
「では、早速…」
私はこの旅の中でも一番評判の良かったオリジナル曲を吹いて見せた。子爵閣下も奥様も最初驚いた様な顔をしていたが、その内に目を閉じて聞き入ってくれていた。
その後、何曲か演奏をすると、三人共に立ち上がり拍手をして頂けたので内心ホッとした。
「うむ、流石はあのガドーラ辺境伯様のご推薦を頂いただけはあるな。素晴らしい演奏だったよ。私はアストン=レイブンス子爵である。学院の入学試験までこちらの客人として正式に招待する。フリューレ君、ゆっくり滞在していきたまえ」
私はご挨拶をした後でお嬢様にせがまれてもう何曲か披露して解放された。
だけど試験までの宿代を使わずに済む様だ…本当に良かった。
こうして私はメナス王立楽士学院の入学試験までレイブンス子爵家にいる事となったのである。
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連載中の小説です。コチラもご覧頂ければ幸いです。
転生したら属性魔法を使えないので、金属使役魔法を極めて生き抜く予定です。
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