冒険者になろう!【後編】
役割が違うのは分かる。
しかし、騎士とは弱きを守るもの。
第一や第二騎士団が動かせないなら、第三騎士団なり魔法騎士団なりを動かせばよいだけのこと。
また、調査ならその末端でもできる。
それを、やらない。
まして魔物の数に関わることならば、調査しておいてなんの損もないだろう。
数を放置すれば次は魔物の強さに影響が出始める。
強さに影響が出たあとは個体の大きさだ。
これらの変化が順に起きるとなれば——。
(魔王が復活する兆し……)
調査は必要だ。
数が増えている時点で、絶対に。
それを無視するとは、完全なる平和ボケではないか。
(それに、もし万が一特殊個体や突然変異個体が現れれば……!)
数、強さ、大きさ……そして特殊個体や突然変異個体が現れれば、数が増えていることは最悪『大群』とそれを率いる『将』の出現となる。
そうなればどれほど厄介なことになるか。
(魔王を舐めてる。完全に)
リズの『前世』は知っている。
魔王はまさしく魔物の王だ。
知恵があり、知性があり、カリスマがあり、率い、統治する能力がある。
それこそ調査を渋ったり怠ったりするようなものではない。
人間の王が無能ならば国は呑まれ、人々は『新種の魔物』として家畜に堕ちる。
人間種は繁殖に非常に適した種であり、特に魔力に優れた者は上位の魔物種に好まれる傾向にあった。
この世界の魔物や魔王がリズの『前世』と同じとは限らないが、もしも同じであるのならばどれほど世が荒れるか……。
(ああ、嫌だなぁ)
思い出すだけでも、リズの『前世の世界』は地獄だった。
『前世の世界』の、リズの故郷は悲惨だった。
女は地下へ。
魔力を持つ女は殺せ。
そういう国。
その実、とうに魔物……魔王の部下に乗っ取られており、魔力の高い女は魔王の直属の配下に下賜されていた。
王は傀儡。
家臣は薬漬け。
それを知った上で、異世界の勇者と旅に出てあんな国でも故郷だからと救おうとした。
法に照らし合わせて処刑される日も、不思議とその国で生きる人々を哀れんだのを覚えている。
「リズー!」
「説明聞き終わったか」
「はい!」
明るい声に、顔を上げた。
外の世界に出てはしゃぐ二人の勇者候補たちに、微笑みを返す。
酒を煽る冒険者。微笑みながら仕事をまっとうする受付嬢。掲示板に貼られた『薬草採集』の依頼。
そのすべてが今の『アーファリーズ・エーヴェルイン』にとって現実。
そう、こちらが現実だ。
外に出れば上等な服を着た男女が仕事に励んで笑い合い、談笑する。
平和ボケ、結構ではないか。
地獄のような前世の現実を知っているから、今の世界がどれほど平和か分かるのだ。
「じゃあ行こう。今日はこのストルスと魔物の群れを狩る。あと、色々調査にも協力することになった」
「おお! 魔物討伐だな! おれっちすげーがんばるぞ!」
「う、うちも! 回復は任せてけれ!」
「ほう、回復魔法使いか。助かる」
鎧兜でくぐもった声。
二人の勇者候補はその大男にほんの少し緊張の面持ちを見せたが、すぐに頷き合う。
彼の仲間数人と合流し、いざ、ボアが群れなす平原へと向かった。









