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教員試験


『大地の季節・烈火の週・雷の日』。

 教員免許、試験日として連絡が来たので、王立学園の事務局に来てみたらこれである。


「おーっほほほほほ! なにを突っ立っておりますの? さっさとお帰りなさい! 本日この会場はわたくしたちが貸し切っておりますのよ」

「いやー……」


 そこで笑っていたのはゼジルの婚約者、ラステラ・ファーロゥ。

 なんか年始に見かけた時より全体的に丸くなっていないだろうか?

 ……体の意味で。

 そして、そんなラステラは今、試験会場の教室をフローラルな生花で埋め尽くし、ちょっと目に痛いギンガムのテーブルクロスと天井付近まで積まれたケーキ、一目で高級とわかるティーセットと、おそらく伯爵家以上のご令嬢集団——およそ三十人——とお茶会を行っていた。


(すごいなー、嫌がらせのためにここまでやる? ここまで金使う? アホだな〜……)


 もう、いっそ感心しちゃう。


「ど、どうする?」

「四大侯爵家のご令嬢だろう? とりあえず局長が来るまで待ってみるか?」


 後ろではリズと同じく試験を受けに来た若者たちが顔を見合わせて、困惑する。

 そりゃそうだ。

 教員志望者は下級貴族が多い。

 家に力がなく、しかし成績優秀であれば上級の貴族の子どもに勉強を教えて生活していくことができる。

 しかも男女関係なく職にありつけるので、教職は人気だ。

 資格があるだけで信用度も違う。

 とはいえ、あくまでも下級貴族。

 教員資格を取る前に、これから商売相手になるであろう上級貴族に喧嘩を売りたい者は皆無。

 しかも完全にリズへの嫌がらせのとばっちり。

 これは本当に可哀想だな、と思う。

 それにしても——。


「ちょっと! いつまでそこに突っ立ってますの!」

「っ!」


 リズに向かって投げつけられたティーカップ。

 絶対お高いやつ。

 それがリズに届く前に宙の上で停止する。


「うぇっ!?」

「うーん、まあ、ボクが優しくしすぎたのもあると思うんだけどー……ボク、【賢者】なんだよ雑魚」

「はっ!? ざ、な、なんですって!?」


 お嬢様には聞き慣れない、知らない言葉だろう。

 でもとりあえず罵られているのはわかるらしい。

 額より数センチ手前で止まって浮いているティーカップを手に取り、もう一度浮かす。


「君が思っているよりも、ボクはすごーっく強いんだよね。ボク一人でこの国の戦力ぜーんぶ削り取ることもできるくらい」

「は? はあ? そんなことできるはずもありませんわ。強がるのもたいがいに……」

「まあ、どっちにしても邪魔だからちょっと外で待っててくれる? お茶したいならしてていいよ」

「え?」


 パチン、とリズが指を鳴らすと、彼女たちは花瓶や花束にされて飾られていた生花や、椅子やテーブルごとその場から消える。

 その代わりに外から、「キィャアアアアアァ!」という甲高い悲鳴。

 凹の形の事務局の、真ん中の広場の空中に彼女らはいた。

 令嬢たちは抱きしめ合い、地上十メートルはあろう空中で泣き叫ぶ。


「ちゃんと透明な床をつけてあげてるんだから、そんなに泣くことないのにねー。さ、試験を始めよう」

「で、でも試験官とかまだ来てないですよ?」

「ふん」


 もう一度パチン、と指を鳴らす。

 どさぁ、と局長の男が落下して来た。

 局長はなにが起きたかわからず、キョトンとしている。


「え?」

「え? じゃ、ないよ。試験。始めて、早く」

「……えっ、あ、あれ」

「あれ、もしかして四大侯爵家の人たちに怒られたい? ボクは別にどっちでもいいけど。それとも【賢者(ボク)】を怒らせたい? いいよ、ボクが本気で魔法を使ったら王都なんて秒で焦土にできるけど……」

「ひっ……」


【賢者】称号スキル[威圧]。

 自分より弱い者を威圧し、行動不能にする。

 ついでに[恐怖付与]も使ってやった。

 この男には春先から煮湯を飲まされてきたのだ。

 このくらいの仕返し、可愛いものだろう。


「ひ、ひっ……す、すぐに……すぐに試験を始めまーーーっす!」

「ふん」


 別人のようにカタカタと震えて試験の問題用紙を配る局長。

 席に着いた受験生たちは、問題と向き合い始める。


(楽勝……)


 これで無駄な妨害さえ入らなければ、リズは『教員免許』を手にできるわけだが——。


「し、試験の結果は後日、『大地の季節』『疾風の週』『烈火の日』にお伝えさせていただきます」

「とりあえず今年中に結果は出るのね」

「は、はい」


 ガタガタと脂汗まで流して頷く局長。

 [恐怖付与]がずっと発動していたからだろう。


「…………【賢者】って称号、マジかよ」

「あんな子どもが?」

「嘘だろ……?」

「そういえばあのご令嬢たちは……?」


 パチン、と指を鳴らすと、試験会場は最初と同じく飾り立てたお茶会会場に戻る。

 数人がしがみついて泣きじゃくる令嬢たちが、元に戻ったことでハッと顔を上げた。


「あ、も、戻っ……」

「なにしてくれてるんですの! わたくしたちを空の上に放置したのはあなたの仕業ですわね! アーファリーズ!」


 ラステラが叫ぶ。

 涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、強気で指差してきたあたりさすがだ。

 だが、リズが[威圧]と[恐怖付与]の効果範囲をラステラのところまで広げると——。


「ひぐっ」

「魔物の巣窟に投げ込むこともできたけど、やらなかったよ。それで感謝してほしいなぁ」

「な、なっ……」

「まあ、いいよ。許してあげる。そろそろキミたち、ボクに手出しできなくなると思うしね。ふふ」

「っ——!」


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