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第5話 妹がVTuberをやっているのが友人にバレるなんて冗談だと言ってほしい!(後編)

「二人ともそこで何してるのかな~?」


 明らかに機嫌が悪いのがはっきり分かる。いや、殺意すら感じるのは気のせいか。とにかく、ここはきちんと誤解を解かなければ大惨事になりかねない。ここは冷静に説明するしかない。


「こ、これはだな、その。竹中が俺に相談事があるからって来たんだ」


 俺達はすかさず身体を離し、仕方なく取っ組み合いをやめる。パソコンは竹中が持ったままであるが致し方ない。


「そうなの。だってすみれ最近付き合い悪いから心配で聞いてたの」


 説明を聞いて今までの剣幕が嘘のように、すみれの表情はいつも通りに戻っていく。やはり竹中の言葉に対しては信用しているみたいだな。


「そうだったの。とりあえず急に怒ってごめんなさい。朱里が来ててびっくりしちゃって」

「こっちこそ何も言わずに来たし、お互い様だから。いきなり驚かせてごめんね、すみれ」


 一旦すみれの機嫌(きげん)が直り俺は安堵した。しかし問題のパソコンは未だ竹中が持っている。すぐにその話題がくるだろうと考えていたら、


「あ、そうそう。実はね、ちょっと聞きたい事があるの。このパソコンはすみれのだよね?」


 と、当然質問をしてきた。そのまますみれの側に行き、パソコンを開き中を確認させる。そこにはここ最近作っている、星野宮きらりの切り抜きチャンネル動画が映し出されていた。


「そのパソコンはうん、確かに私のだけど、そ、それがどうかしたの?」


 すみれの様子がしどろもどろになっており、(ひたい)にうっすらと冷や汗が滲みでている。どうやってこの場を切り抜けようと必死に考えているのだろう。両手指をもじもじと動かしている。


「この星野宮きらりちゃんの切り抜きチャンネルってのは、すみれが作ってるの? アップ履歴もあるし」

「え、えーと、私は全然知らないから。それは兄貴が自分で作ってるの。ね?」


 こちらを見ながら言葉を濁している。ここは何とか助け船を出そうと思い、


「そうなんだよ。俺が趣味で動画を上げているんだ。ファンでさ。ははは……」


 渇いた笑いしか出ない。嘘ではない俺の言葉に一度は頷きかけた竹中だったが、疑問はまだ残っているようで質問を続けてくる。


「赤坂君がファンねぇ。やっぱりVTuber好きなんだ。でも何で妹のパソコンを借りる必要があるのかな。このパソコンやけに色んなソフト入ってるっぽいし不自然に思うんだけどねぇ」


 言いながら訝しがり、ずっとパソコンで中の動画を見ていく。


「それは俺が頼んで使わせてもらってるからだよ。自分のパソコンにはソフトとかないからさ」

「そうそう、兄貴に貸してほしいって頼まれてね。仕方なく貸してるの」


 まるで口裏を合わせている様子なのがばれているのか、竹中は明らかに納得していない。


「そうなの。でもなーんかスッキリしないなー。すみれが赤坂君に自分のを貸すのも変だなぁ」

「私が兄貴に貸すのが、そんなに変な事かな……?」

「ふ~ん。2人ってそんなに最近は仲良しになったんだ」

「ま、まぁね」


 すみれは苦笑いで誤魔化そうしているが、恐らく竹中は信じてないだろうな。未だ追求が止まる気配がないのだから。このままではやばい。俺がどうにか誤魔化さないといけないが、そうは言ってもすぐに良い案は思いつかん。どうする?


「それにこの切り抜きチャンネル。公式ってなってるよね。これは本人から許可もらってるって事だよね。赤坂君がきらりちゃんと連絡をとっている動かぬ証拠だよねぇ?」

「うっ。それはその」

「となると、赤坂君が身近にいる人の可能性があるのではないのかな?」


 どんどん正解に近づき、2人してじりじりと追い詰められていく。

 

「これは、すみれがVTuberの星野宮きらりをやっていて、シスコンのお兄さんである、赤坂君がサポートや切り抜き動画を上げて、兄妹で活動してる。そうでしょ?」


 事実を当てられ2人同時に一瞬身体が固まった。どうやら、もう弁明する事も出来ない。てか勝手にシスコンにされているのは(はなは)だやめてほしい。言っておくが俺はシスコンでないぞ。


「ち、違うって。そんな訳ないでしょ。そんな勝手な事言わないでよ、朱里」


 すみれが少し語調を強めて否定したが、やはり動揺を隠せていない。竹中の目を見ながら話せず、どこかあらぬ方向を向いている。


「おい、俺はシスコンじゃないぞ」

「う~ん、明らかに怪しい。図星を当てられて焦っている様に見えるけど、すみれさん?」


 なぁ、さらりとシスコンはスルーしないでくれ。もう認定されてるみたいじゃないか。


「いや、それはその、私は――」

「ふ、ふふふふっ」


 ずっと我慢していたのか竹中がその場で笑いを堪えていたが、抑えきれずクスクスと笑みをこぼしだした。


 俺達は困惑気味にその様子を窺う。何せ突然いきなり笑い出したんだ。そりゃ戸惑うよ。


「ごめん、ごめん。ちょっと意地悪しちゃった。実はもうすみれがVTuberをやっているのはとっくに知ってるの」

「ど、どう言う事なのもう~!?」


 意味が分からず、すみれが竹中に詰め寄っていく。


「私と一緒に居る時いっつもスマホでSNSや動画配信サイトをチェックして、エコザーチを頻繁にしてるから。それ覗いたら全部星野宮きらりだったよ。これだけ見てたら本人だろうなって分かるよ」

「えっと、いつもそんなスマホチェックしてたかな~」

「独り言でよく配信スケジュールをぶつぶつ言ってたよ。長い付き合いだし、すぐ分かったよ」

「私そんな事まで言ってたの!?」


 竹中はうんうんと頷く。最初は隠すようにしていたが、最近では無意識にチェックしていたのだろう。すみれは頭を抱えてその場でうずくまってしまった。完全にバレてショックなのだろう。


「その、ずっと隠すつもりじゃなかったの。ただVTuberやっているの恥ずかしくてさ」

「別に恥ずかしがらなくても良いのに。私はむしろ嬉しい。私もVTuber大好きだし!」


 竹中が座っているすみれの手を自らの両手で取り、ゆっくり立たせる。


「そうだったんだ。なーんだ、私気にしすぎだったかな。朱里に隠し事は通じないなぁ」

「そうよ。私に隠し事なんて通じないんだから」


 無事に2人ともすっかり打ち解け合ったようだ。やれやれ、今日はどうなるかと思ったが、一件落着して俺は安心した。しかしまだこの話は終わらなかったみたいで、


「それでね、今日はこんな茶番をするために来たんじゃないの」


 そう言いながら竹中が自分のスマホを取り出した。あ、さてはこいつ何か企んでいるな。


「茶番ってなぁ。お前が発端だろ。やはりまだ何かあるのか」


 俺が肩をすくめていると、鼻息荒く竹中が答える。


「そうなの。すみれ、いや、星野宮きらりちゃん。同じVTuberの雷桜つばきとコラボしないかい?」


 そのスマホ画面をすみれに見せる。そこには雷桜つばきのチャンネルが映っていたのだった。

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