第47話 夏休みの終わり。竹中から遊びに誘われて。
それは突然連絡が来た。夏休みが終わりに近づいたある日、俺は竹中から遊びに誘われたのだ。前日にスマホから連絡で、
『赤坂君、明日夕方から時間あるかな。良かったら遊びに行かない?』
『良いけど、行きたい所があるのか?』
『花火大会のお祭り、一緒に行きたいなって』
その誘いに俺はOKを出した。だから今俺は、竹中と駅で待ち合わせをしていたのだ。ただ、どうして竹中はすみれや彩夏ちゃんを誘わなかったのか、この時少し不思議に思った。
スマホを見ると時間は17時だ。先に俺の方が着いたみたいで、竹中の方はまだ来てない様だった。いつも待ち合わせには早めに来る方だと思ったが、珍しい。そう思っていた束の間、
「おーい。お待たせ―!」
竹中の声が聞こえてきた。声の方へと振り返ると、いつものラフな服装ではなく、今日は青い花柄の浴衣を着ていた。浴衣を着ていると、いつもの活発な雰囲気とは違い、少し大人っぽくも見えてしまう。
「いや、大丈夫。俺もついさっき来たばかりだから」
「ゴメンね。浴衣着るのに手間取っちゃってさ。どう、似合う?」
竹中は裾をひらひらさせている。
「とても似合ってると思うよ、その浴衣」
「そっか。嬉しいな」
今日はいつもと違って、髪飾りもしている。これはデートなんだろうな。いつもと違う姿を見ると、改めて竹中が魅力的な異性だとより意識してしまう。
「じゃあ、花火大会の会場に行こっか」
「そうだな、丁度今から行けば良い時間になるし」
俺達2人は電車に乗り目的地へと向かい出した。電車に乗り約40分くらいで到着すると、そこそこ名の知れた花火大会なのか、親子連れ、カップルなどが多くいる。
「到着ーっと!」
「さすがに人が沢山いるな。そう言えば、すみれや、彩夏ちゃん達を誘わなくて良かったのか?」
いつもなら全員で遊ぶのがお決まりの流れだと思っていたのだが。
「赤坂君は私と2人で遊ぶのは嫌……かな?」
不意に不安な表情で俺を見つめてきた。今日は本当にどうしたんだ、竹中は。いつもと違って、何かしおらしいと言うか。
「そんな訳ないって。少し前に言ったけど、俺は竹中と一緒にいると気楽に過ごせて良いなって思ってるし、浴衣姿を見ると可愛いって思ったりもするし……」
「そっか。ちょっと安心したかな。私だって女の子なんだから。じゃあ、お祭り楽しもうよっ」
強引に俺の腕を引っ張って屋台が並ぶ通りへと、歩を進める。
花火大会の祭りにある屋台は、種類も多くあり、よく見かけるお店も多い。やきそば、かき氷、チョコバナナ、リンゴ飴、わたあめ。遊びも金魚すくい、射的、お面、三角くじなどもある。
しばらくは焼きそばや、チョコバナナを食べたり、金魚すくい等をして遊び回っていたが、
「あっ、ねぇねぇ、次はあの射的ゲームやらない?」
竹中が指で示すのは、鉄板の射的ゲームだ。
「おお、面白そうじゃん。良いぜ、俺のFPSで鍛えたエイム力を見せつけるとしようじゃないか」
「ふふふ。赤坂君ったら、自信満々だけど。なら私とどっちが多く景品を取れるか勝負しようよ」
「その勝負乗った。負けた方はどうする?」
「負けた方は、お互いのお願いを聞くってのはどうかな」
負けた方がお願いを聞く。仮に俺が勝ったら何をしてもらおうか。いきなりそんな条件を決めても思いつかないけど、俺はノリでそれを受け入れる事にした。しかし負けた場合は、竹中は俺に何をお願いするのかは、見当もつかないな。考えても仕方ない。とにかく勝てば良い話だ。
「良いだろう。その条件で勝負しようじゃないか。負けても文句言うなよ?」
「そっちこそ、私の腕を見くびったら痛い目に遭うよ」
そして射的勝負が始まった。ルールは互いに1回挑戦して、小サイズの物は1点、中サイズは2点、大サイズのぬいぐるみ等は3点と決め、点数が多い方が勝ちと言うシンプルなルール。
じゃんけんで決めた結果、先行はまず俺からだ。射的の銃のコルク玉は3発。よって3発撃てる事になる。よし、最初の獲物は軽く腕慣らしに落としやすい軽い玩具の1点物を狙おう。店主のおっちゃんにお金を払い、銃を受け取る。
「よーし。じゃあ最初は軽くあの小さな玩具を狙うとしよう」
俺は集中して的へと銃を向ける。そして発砲。しかし微妙にずれて外した。
リアルとゲームでは少し感覚が違うせいか、意外と難しい。だが、勝負は始まったばかりだ。次も1点の小さな玩具を狙って撃つ。すると見事に的中し、玩具は倒れた。
「よし!」
「兄ちゃん、中々上手じゃねえか」
お店のおっちゃんに商品を渡される。だがまだ一発残っている。次は中サイズの玩具を狙うとしよう。これが当たれば合計3点となる。
集中して的に向ってゆっくり照準を狙う。そして撃つ。放たれたコルク玉は見事玩具の頭部に的中し、いい具合で倒れ、商品をゲットする事が出来た。
「よっし! 連続ゲットで3点だな」
「まさかあれも一発で落とすとは、兄ちゃんやるじゃねぇか!」
2つの玩具を受け取り、俺は自慢げに竹中に見せる。これなら決して悪くない結果だ。
「2つ取れて俺は合計3点だな。じゃあ次は竹中だ」
「私の腕を甘く見ちゃいけないぞ? おっちゃん私もやるよー」
竹中がお金を払い、銃を受け取る。しっかりと狙いを定めて、まずは小手調べに1点の小さな玩具に向って発射する。パコンと確実に当たると、的の玩具は落ちていく。さっそく1点を取得すると、
「うん、これなら次は大物を行けそうかも」
自信をつけたのか、銃にコルクの玉を装填する。まさか一発で小物とは言え落すとは、これは侮れないな。
運動神経の良さも相まって、これは逆転される可能性もあるぞ。今度は一番でかい大きめなぬいぐるみに狙いを定める。これはさすがに一発で落とすには難度が高いと思われるのだが。
「まずは2発目で位置をずらし、ラストの3発目で確実に仕留めるよ」
鋭い目つきで、手振れも抑えながら、ぎりぎりの距離で身を乗り出して2発目の発射!
さすがにこれでは落ちる事はなかったが、ぬいぐるみが横へとかなり位置がずれた。もう棚の半分以上がはみ出ている。うまくすればこれは落とせる可能性があるぞ。
「ここで私が落とせば逆転ね。絶対に落としてやるからな~」
じりじりと時間がゆっくり進む。そして3発目がぬいぐるみの頭に当たり、ぐらりと大きく揺れて、ついに倒れる、かと思ったが、ぎりぎりで耐えたのだ。危なかった。あと少しで倒れる所だった。そう俺が安堵したと思った瞬間、まるで操作したかのように風が吹きぬいぐるみが倒れてしまった。
「これは仕方ねーわ。嬢ちゃん持ってきな!」
「わぁ、ラッキー! おっちゃん、サンキュー!」
「これは運も実力の内ってやつかー。俺の負けだ。4点取った訳だし」
おっちゃんにもらった袋へぬいぐるみを入れて、竹中はとても喜んでいるのを見ると、何だか負けて良かったと思う気にもなる。
「勝負は時の運ってやつだね。それじゃ約束通り私のお願い聞いてくれるかな。ただ嫌なら断ってくれても良いし。でも人がいない場所に移動しても良いかな?」
「ん? そうだな。わかった。そう言うならどこか静かな場所に移動しようか」
こうして俺達は静かな場所に移動するために歩き出した。移動した先は、駅から花火大会の間にある小さな公園。この時丁度花火が打ち上がり出したのだった。




