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第46話 夏休み最後のサイバーユリカモメへ!

 今日は夏休み中最後となる、すみれ達のトレーニングがあった。俺はまだ星野宮きらりの切り抜き動画の編集が残っていたので、後から合流すると伝えている。


「さてと、編集は終わったし、そろそろ行くか」


 昼過ぎから俺は家を出て、綺音さんのいる会社へ向かう事にした。


 電車に乗り会社の入り口前に到着する。そこでふと初めてここに来た時は凄く緊張したのを思い出す。最初は入口で一悶着と言う程じゃないが、入るのにも全員少し戸惑っていたっけな。とは言え、今は社員証の代わりに渡されたアルバイトの名札があるのだが、それでも入るのに緊張は少しするのだけど。


 14階の収録部屋の扉を開けると、当然すみれ達が演技の練習をしている真っ最中だった。邪魔にならないようにモニター部屋の方に入る。


 ガラス越しでみんな立って練習しているのを見ると、本物の声優がやっているかのように見えてしまう。本物の声優さんには失礼かもしれないが、ついこうやって熱のこもった演技を目にしてしまうと、素人の俺はそう感じてしまう。


 そして最初に来た時と比べると、段違いで息遣いや、声のトーンの使い方、表現の仕方が上手になっている。これも(ひとえ)に上野さんの教え方が上手いのだろうな。俺が黙って練習を眺めていたら、上野さんがこちらに気付いた。そして練習しているアフレコ部屋から出て来てこっちへと入って来る。


「おはようございます。上野さん」

「おはようございます、渉さん。今日も来てもらってありがとうございます」

「いえ気にしないで下さい。俺もここに来るのは好きだし、それに夏休み中のトレーニングは今日で最後ですからね。こうやって改めてここで見ると、みんな凄く上手になってますよね、最初に比べると」


 ガラス越しのみんなの演技を見ながら、しみじみ思ってしまう。


「そうですね。皆さんとても頑張っていると思います。若いって良いですね……」


 どことなく懐かしむように上野さんが言うので、つい気になってしまい、


「あの、どうかしました?」


 気付いたらそう言っていた。


「いえ、何でもないですよ。皆さん丁度休憩の時間ですし、お話しされてはどうですか?」


 言うと同時に、すみれ達がこっちの部屋に入ってきた。


「渉さん、来てましたのね」

「赤坂君来る前に頼んでたあれ、持ってきてくれた?」


 竹中がほれほれと、俺に向って手を差し出してくる。そうだった。事前にこっちに来るなら、買ってきて欲しい物があると連絡がきていたのだ。全員分買って来たので、それをビニール袋から取り出して竹中を含め、3人へ渡していく。


 それとは、キンキンに冷えたスポーツドリンク。トレーニングをすると、とても喉が渇くから欲しいとの事だ。


「ほらよ。ほんと竹中はこれ好きだな」

「まーねー。やっぱりエネルギー使った後に飲むこのドリンクは最高っ!」


 ペットボトルのキャップを捻って開けると、豪快にビールでも飲むかのような良い飲みっぷりだ。


「朱里にとってもう水のような物よね、そのドリンクは」

「夏には一日一本飲まないと始まらないからね~」


 あっという間に竹中は、渡したドリンクを飲み干してしまった。


「あ、渉さん、知っていますか。もうゲームのシナリオと専用の3DCGが作られましたの」

「おぉー、そうなんだ。順調にゲーム制作が進んでるね」

「完成したら楽しみにしてくださいの」


 彩夏ちゃんが軽くウインクをしてくる。


「みんなが活躍するのは、とても楽しみだよ」

「その時はじっくりと、わたくしを攻略してほしいですの」

「うん、分かった。完成したらたっぷり楽しませてもらうよ」


 そうか。もうシナリオとCGが作られたって事は、本格的なゲームの制作がばりばり進んでいると言う事だ。そして秋にはみんなの収録が始まる。発売は来春を予定しているらしい。


「あ、兄貴さ。この後時間ある?」


 不意にドリンクを飲んでいたすみれが俺に訊ねてきた。


「ん。ああ、特に用事はないぞ。どうしたんだ?」

「今日終わったらみんなでショッピング行くから、荷物持ちお願いできる?」


 何か大切な用事かと思ったが荷物持ちとは。


「別に良いけど。何かと思えば買い物ね」

「すみれー。そろそろまた練習始めるよー」


 竹中がすみれを呼んでいる。


「あ、うん。すぐ行くよ。じゃあそう言う事だからよろしくね」


 すみれはすぐに収録部屋へと戻って行く。


「渉さん。ちょっと良いですか?」


 俺は上野さんに呼ばれて振り向く。


「これから秋冬に向って皆さんの本番の収録を少しずつやると思います。恐らく本番となれば慣れない事や、辛い事や大変な事などがあると思います。なのでフォローなどをお願いしますね。ただ皆さんならそこまでダメだしなど無さそうだと思いますけど」

「それはもちろんです」


 反射的に答えると、上野さんが胸を撫で下ろした。これから3人は色々大変なのだろうと思わせる発言だ。プロの現場を知っている人からしたら、心配なのだろうか。今からそんなふうに考えてくれているのは、本当に良い人だなと思う。


「それでは私戻りますね」


 上野さんも収録部屋に戻り、3人の指導へと戻る。それから今日のトレーニングは長く、2時間程した後に終わった。


「やっと終わったですの……。今日は長くて疲れましたの」

「ふぅー。そうだね。でも随分と上達した実感はあるけどね」

「そうね。最初に撮った時と見比べたら段違いだと思う」


 みんなこちらの部屋にやって来て、背筋を伸ばしたりして疲れを取っている。今日は本当に疲れたのだろう。


「みんなお疲れさん」


 声を掛けると、とても疲れていたとは思えない声で竹中が、


「赤坂君待っててくれてありがと。すみれが伝えてたと思うけど、さっそく買い物行くからよろしくー」

「よろしくですのー」


 竹中と彩夏ちゃんが俺の腕をそれぞれ掴んで、出口へと強引に連れ出し始める。前言撤回。どうやら全員疲れ知らずのようだ。


「やれやれせっかちなんだから、2人とも。それでは上野さん、また休み明けもよろしくお願いします」

「はい。後は細かい仕上げだけですからね。お疲れ様でした」


 後ろを振り向くと、軽く会釈を上野さんがしてくれたので、俺も小さく頭を下げて、それから出口へと向かったのだった。

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