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第45話 トレーニングは気付けば佳境へ!

 上野さん指導の下、本格的にすみれ達3人のトレーニングは開始された。秋冬のゲーム本番への収録をするためには、まだまだ今の状態では未熟なのは事実だと、本人達も痛感しているのだ。


 しかし実際のトレーニングは毎日する訳ではなく、週に2回から3回程のペースと決まったみたいで、すみれや竹中、彩夏ちゃん達はトレーニングのない日は生放送をする日々が長く続いていた。


 俺は変わらずの日常を送っている。すみれが忙しくなっているので、最近は切り抜き動画を全てこっちが作って投稿しているし。そして3人の苦労話とかストレス発散の相手にされたり、何故かトレーニングがない日には、俺の部屋に全員集まって、上野さんから出された課題の、演技、アフレコ練習をしたりするのだ。


 そしてそれが今日もあったりする。どうして俺の部屋でやる必要があるんだと、すみれ達に聞くと全員がこう言う。「だってマネージャーでしょ?」って。そう言われると反論も出来ないのも事実で。渋々俺はそれを受け入れるしかない。


 早速俺の部屋がノックされ扉が開く音が聞こえてきた。せっかく時間があるので見れてないVTuberの動画を見ていたのだが、どうやらそれも終わりらしい。


「やっほー。赤坂君」

「おはようございますの~」


 竹中と彩夏ちゃんの2人が押しかけてきた。


「また今日もここで練習するのか?」


 椅子に座っていた俺は2人に向き直る。今では当たり前の様にベッドに腰を掛けてくるのは、本当に止めてほしいんだけどな。


「当たり前でしょ。マネージャーさん」


 部屋にすみれがお盆に飲み物を4人分載せて入って来る。小さなテーブルに飲み物のアップルジュースを乗せ、自らもベッドに座り並ぶ。最早(もはや)今では女性陣の溜まり場と化した我が部屋。


「はいはい。構いませんよ、どうぞ好きに使ってくださいな。お嬢様方」

「そうそう、素直にそう言えば良いんだからね」

「最近ほんとこの兄妹2人はすっかり仲良しだねぇ~。昔はツンケンしていたのに、この子ったら」


 竹中がすみれをからかい気味に後ろから抱きしめる。くっつかれた当人は少し気恥ずかしそうに思うものの、強く振りほどこうとはせず、


「もーっ、そんなんじゃないっての。ほら、彩夏ちゃんもいるし、やめんかこの。ってきゃっ、くすぐったい!」

「すみれさん、隙だらけですのっ」


 その彩夏ちゃんがすみれの脇をくすぐりだしたのだ。


「彩夏ちゃんまで、くすぐったいから~」

「お前ら一体何しに来たんだよ、全く」


 ひとしきり俺のベッドで騒いだ後、ようやく上野さんから出されている課題をやろうと思ったのか、渡されている練習用の台本をみんなが手にし出す。


「じゃあ今日はこれやろっか。あと、これ」


 竹中がバッグから台本を取り出し、ようやく練習を始めようとした。しかし、何故か台本を俺にも渡してきたのだ。どういうつもりだ。俺は今から動画の編集をするつもりだったのだが。


「どうして俺に台本渡してくるんだよ?」

「今日の台本は男性も出てくるから、渉さんにも協力してほしいって言ってましたの。上野さんが」


 彩夏ちゃんが隣にやって来て、手に渡された台本のページを捲る。


「これ、やらなきゃダメか?」

「ほらほら。マネージャーさん、文句言わずに手伝ってよ。私達が上達するのには、兄貴の協力も必要なんだからさ」

「分かりましたよ。やるよ、やりますとも」


 こうして半強制的に練習に付き合う羽目になり、全員で台本読みを始める。台本に目を通すと、女性3人と男性1人が出てくる内容だ。


 中身をざっと確認すると何かの脱出系ADVゲームの内容に似た感じだ。コピーされた台本のページには割り振られたキャラの台詞にそれぞれ名前が付いており、男のキャラには付いていない。それを俺が代わりにやれば良いのだろう。


 台本の最初の台詞を言うキャラは、すみれが担当している人物だ。すみれが台本を見るなり、集中しているのが分かる。いや、俺以外全員が集中していた。すみれが周りに目配りして確認すると、第一声を発する。この瞬間から練習が始まった。


「ねぇどうして私達ここに閉じ込められているの。ここはどこなの!?」


 そして竹中が続く。その後に、彩夏ちゃん、俺の順に台詞がくる。


「分からないよ。私だってさっき起きたら、この白い部屋に閉じ込められたのは同じだから」

「でも何でこんな場所にいきなり誘拐されたのでしょうか、私達?」

「さっきまで部屋で寝ていたはずだぜ。それがこんなわけわかんねー所に来たとか、笑えねぇぜ」


 自分で演技だと分かっていても恥ずかしくてたまらないが、みんなそんな事をいちいち気にしてない様だ。続けて会話を進められていく。この次は彩夏ちゃん、俺、竹中、すみれの順だ。


「あなたもそうなのですね。私も部屋で寝ていたのですが、どうしてこんな事に……?」

「とりあえず、出口を探すしかねーな。あるかどうか分からねーけどよ」

「不吉な事言わないでよ」

「誰か助けてよ。どうして私達がこんな目に遭わなくちゃいけないの!」


 ここですみれの演じるキャラクターが白い壁を無意味に叩く。そこに彩夏ちゃん、すみれ、竹中のキャラの台詞がくる。


「そこの貴女。もう少し冷静になって下さい。まだ出口がないと決まった訳ではないですから。まずは何か自分たちの持ち物をチェックしてみましょう。スマホは、電波が通ってないようですね」

「あんた、どうしてそんな冷静なのよ。こんな異常事態で。怪しいわよ」

「ちょっと、止めてよ。こんな時に喧嘩しても意味ないって」


 そうして俺は3人の練習に2時間付き合わされたのだ。途中休憩を何度か挟み、昼過ぎになる頃にうちの母親が昼飯だと呼んだので今日は終わりとなった。勿論昼飯は全員分用意していたので、そのままこの部屋で食事を取る運びとなる。


「冷やし中華だ。いっただきまーす」

「冷たくて美味しいですの~」


 竹中も彩夏ちゃんも、演技のトレーニングで体力を使ったのか、良い食べっぷりだ。


 もうすぐ夏休みは終わりが近づいている。3人の演技力は最初に見た頃と比べると、かなり上達していると思う。明日は夏休み中でのトレーニング最終日。サイバーユリカモメへ俺も行く日となっている。


 上野さんの話では夏休みが終わっても出来る限り、土曜日か日曜日のどちらかはトレーニングをするらしいが、かなり仕上がっているから、それくらいで良いらしい。少し甘い気もするが、企画自体が自身のVTuberを演じる訳だし、良いのだろう。

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