第38話 締めの遊びはやっぱり花火だよね!
浜辺に向かうとみんなどの花火にするか、楽しそうに袋から取り出し選んでいた。やれやれ、ついさっき海で遊んだばかりだってのに、どれだけ元気なんだよ。
俺もバケツと残りの花火が入った袋を持って浜辺へと向かい、先にバケツへ海水を注いでおく。とりあえずこれで火の処理は問題なしと。しかし海で花火をするのは、定番そうで実際はなかなかやらないよなぁ。陽キャの専売特許イベントを、まさかこんな形でやるとは。
「渉さーん。早くこっちに来てやりますのー」
「赤坂君、早く火を持ってこんかーい!」
彩夏ちゃんが線香花火を両手で持って呼んでいる。そうだ、肝心のチャッカマンを持っているのは俺だから、3人を待たせてしまっていたのか。
「全くバケツや袋を運ばせておいて言いたい放題だな」
ぼやきながら海水でたっぷり満たされたバケツを3人の元へと置き、それぞれ自分がやりたい花火を選んでいたのか、一斉にこっちに火を点けろと言わんばかりに向けてくる。チャッカマンで順番に火を点けていき、花火が噴き出す。
ススキ花火、線香花火、スパーク花火と手で持って出来る花火達が夜の暗闇を騒々しく、そして光り輝いて閃光していく。
「こうやって花火をやるなんて、中学の時朱里とやったのを思い出すわね」
「2人で夜家を抜け出してやったっけ。あの時はすみれ、花火でヤケドしてね」
「うっかり落しちゃったからね」
2人が昔の事で盛り上がってるので、こっちはこっちで花火を楽しませてもらおう。さて、袋の中からどの花火で遊ぼうか迷うが、ここは一発豪快なロケット花火をやる、と思ったがこのねずみ花火にしよう。袋から火薬が入った小さい輪っか状の花火を取り出す。
「その丸っこい花火は何ですの?」
彩夏ちゃんが、隣で線香花火をひらひらと地面に向って揺らしていたのを止めて、こっちに向かって質問してきた。確かに線香花火や打ち上げ花火、ロケット花火とかのメジャーな物と比べれば知名度は少し下なのかも知れない。だがねずみ花火はれっきとした古き良き有名な花火だ。
「これはねずみ花火と言って、火を点けると地面でぐるぐる飛び跳ねて、煙を噴き出す花火だよ」
「面白そうですの。早く火を点けて下さいの」
興味津々に言ってくるので、実際に火を点けてねずみ花火を堪能しようではないか。手に持って花火の点火口にチャッカマンで火を点ける。そして瞬時にすみれと竹中のいる足元に放り投げた。
ねずみ花火はぐるぐると、もの凄い勢いで2人のそばで煙を出して跳ね回る。
「きゃあっ、足元で何か跳ね回ってる!?」
「あっ、これねずみ花火でしょ!」
2人があたふたと逃げまどうところを見ていると、ちょっと楽しいな。やっぱりねずみ花火と言えばこれだな。本当はあんまり良くない使い方かも知れんが、そんな事など知らん。
「このクソ兄貴~。チャッカマンをよこしなさい」
手に持っていたチャッカマンを奪い取られ、すみれが袋からねずみ花火を取り出し、点火させて俺へ向かって放り投げてくる。足元でぴちぴちと跳ね回る花火は、不思議とこっちを執拗に追いかけて来るではないか。
「うわっ、危ねぇ」
「兄貴の自業自得でしょ、いい気味~」
すみれが俺の様子にお腹を抱えて笑っている。花火はすぐに動くのを終わるが、それでもこの花火が来るとあたふたしてしまうな。
「とても面白い花火ですのね、この花火は。それーっ」
知らぬ間に彩夏ちゃんがすみれからチャッカマンを取り、袋から6個ねずみ花火を取り出して、火を点けて俺達の方へと放り投げてきた。無邪気な笑顔でさり気なくSっ気な事をして、とんだお嬢様だよ。
「いきなりこんなに投げて、びっくりするって」
「彩夏ちゃんこれはダメだって!」
俺とすみれの周りにぐるぐる跳ね回る花火はすぐに勢いは消えたが、散々な目にあったな。さり気なく竹中が気付いて離れているし。
すみれが黙って憤怒の態度を隠さず、彩夏ちゃんの目の前まで近づく。そしてガッシリと後ろから抱きしめる。
「いきなりあんな事をするのは良くありませんよ~。お仕置きが必要ね」
「はわわ……。つい調子に乗ってしまいましたの。ゴメンナサイですの~」
そして彩夏ちゃんの両頬をぷにぷに引っ張ってつねりあげる。グイグイと引っ張る度に、あうあうと声が漏れてきて哀れだけど、見ているとちょっと可愛いな。とは言えいつまでもさすがに虐めるわけがなく、すぐに止める。
「おーい、いつまで遊んでるの。こっちででっかいロケット花火やろうよ」
言われて気付き見てみると、竹中が地面にロケット花火を5個並べていた。どれだけロケット花火並べるんだよ。
「朱里ったらどれだけ強欲なのよ」
「だってせっかくこれだけあるんだから、盛大にぶっ放すべし」
確かにこれだけあるし、しかも周りに迷惑をかけることも無い。ここは気前よく5連発したら気持ち良いだろうな。
「よーし、彩夏たん。この5連発ロケット花火点火の大役を、君に託そう」
「分かりましたの。わたくしに任せて下さいの」
彩夏ちゃんが左から順にロケット花火の導火線に火を点けていく。火は確実に本体へと向かっていき、順番に夜空へと豪快に撃ちあがっていく。そして一気に空で花火が炸裂した。
――シュルルルゥ~!
――パァン、パァン、パパパパンッ!
個人用の玩具のレベルとは言え、さすがに5連発を打ち上げればそれなりに綺麗な光景が夜空を埋めていく。本格的な花火大会と比べたら、とてもしょぼいレベルだが、こうやって友達とやるのはまた違った光景に思えるのは本当に不思議だ。
小さな公園でちょっとした線香花火をやるだけで、何だか特別なイベントに感じるように思えるのが不思議で、海で食べる焼きそばや、かき氷がいつもより美味しく感じるのと似ているな。不思議と充実感で心を満たしてくれる。
「さすがに5連発だと中々の光景だな」
夜空を見上げると小さいながらも、みんな興奮しているようだった。そして彩夏ちゃんが打ち上がった花火を楽しそうに見上げながら、
「こうやって海で遊んで、夜は花火をして、わたくしは皆様と知り合えて本当に幸せ者ですの」
急にしんみりした事を言ってきた。
「彩夏たんったら急にどうしたのさ?」
「わたくし、今まで友達と言う友達が立場上おりませんでしたの。でも今は皆様とこんなふうに過ごせて、とっても嬉しくて……」
いきなり、えぐえぐと今にも泣きそうな雰囲気だ。姫柊財閥のご令嬢ともなればそう簡単に心を許せる友人が居なかったのかもしれない。
「じゃあこれからも私達といっぱい楽しい思いで作らないとね」
すみれが彩夏ちゃんの頭を撫でていく。
「そうですの。それにわたくしは渉さんも諦めていませんですの。ね、渉さん?」
ちらりと俺の方を見上げてくる。あはは、まさかまだそんなふうに想ってくれていたとはな。正直きちんと考えた方が良いのかも知れない。ただ今はまだどうすべきか、まとまらないけど。全く優柔不断な性格だなと、自分ながら不甲斐なく思ってしまう。
ただ、いつかは彩夏ちゃんの想いに対して真摯に対応しなくちゃいけないだろう。今は可愛い妹みたいにしか見えないけど、どうあれいつかは返事をしないとな。
「今はまだ何も言えないけど、時期が来たらちゃんと返事はするつもりだから」
「うふふ。それでもいいですの。今でもわたくしは幸せですの」
手持無沙汰な俺は袋から線香花火を出して火を点ける。チリチリと色とりどりな光が地面へと落ちていく。それを見て、
「みんなで最後は線香花火で締めよっかー」
竹中が全員に線香花火を渡していく。
「オッケー。最後に締めとしましょう」
「分かりましたのー」
そしてみんなで集まって輪になり、今日ラストを線香花火で締めて終わる。こうして怒涛の1日を終えたのであった。




