第35話 いざっプライベートビーチで遊ぼう!
ビーチに最初に着いたのは俺だった。
まだ女性陣は色々準備しているのだろう。サンダルを履いて海に近づき硬くなった身体をストレッチしてほぐす。ずっと飛行機に乗っていたので、エコノミークラス症候群にでもなりそうだった。それに泳ぐにしても柔軟は大切だし、しっかりとやっておかねば。
柔軟していた間に、女性陣がやって来た。
「海ですのー!」
「彩夏ちゃんったら、もう引っ張らないでってばー」
彩夏ちゃんがすみれの手を引っ張って、砂浜へと走って来る。2人の姿は当然水着だ。彩夏ちゃんはフリルな部分が可愛らしいピンクの水着で、すみれは露出が少なめなオフショルダー水着を着ている。
「渉さん、お待たせしましたのー。どうですか、この水着似合ってますの?」
似合ってると思う。けどさっきのアヒル浮き輪を装着しているので、色んな意味でよく似合っていると言えるな。こんなにアヒル浮き輪が似合うお嬢様はそうはいないだろうなぁ。
「うん、めっちゃよく似合ってるよ」
「うふふ。ありがとうございますの」
そのまま上機嫌でアヒル浮き輪を砂浜に置いた。結局使わないのかいっ。
「やっぱり凄く綺麗な海ねー」
すみれがサンダルで砂浜を歩いていく。長いロングの髪をポニーテールにしていて、いつもとはまた違った魅力が妹から出ている。ついつい、そんな様子に見惚れてしまう。いやいや、妹に見惚れてどうするんだ、俺は!
「ん、どうしたの兄貴。私の事じっと見て。この水着変だったかしら?」
どこか変な所がないか、いそいそとチェックしている。
「あ、いや、何でもないって。髪結ってるの珍しいなって」
「そりゃあ、海に来たんだから、いつもの髪型だと邪魔だしね」
一度深呼吸をして、辺りを見渡す。まだ2人しか来ていないので、残りの2人が気になり、すみれに聞いてみる事にした。
「竹中と上野さんはまだ来ないのか?」
「朱里は何か準備があるみたいで、もうちょっとしたら来ると思うわ。上野さんは別荘内で料理の支度や、色々とやる事があると言ってたけど。ただ何かあったらすぐ連絡して下さいって。今度何かお礼をしても良いよね」
さすが敏腕メイドさんだ。何だか遊ぶのが申し訳なくなるが、ここはせっかく来たわけだし、海を堪能しよう。正直な気持ちとしては、上野さんの水着姿を見たいと思ったが、それは心の中に閉まっておくとしよう。
「そっか。確かに上野さんには色々感謝しないとな。もちろん連れて来てくれた彩夏ちゃんも」
俺達の話を聞いていたのか、
「わたくしの我がままなので、お気になさらないで下さいの。それに上野さんも率先して付いて来たのですの」
彩夏ちゃんが悪戯っぽく笑みをこちらに向けてくる。そうか、本人達が気にしてないのなら、こっちも楽しまないとな。せっかくの厚意を無下にするのもよくないし。
しかし竹中の奴遅いな。何を手間取っているのか。すると――、背後に人の気配を感じ振り返ると、
「赤坂君隙ありっ!」
そんな声と同時に、ブシュッっと顔に冷たい何かがかけられた。恐らく水だ。しかも結構な水圧で少し後ずさってしまう。
「おいっ、いきなり何するんだ!」
そこにはワンピースタイプの水着を着た竹中が立っていた。
「ふっふっふっ。隙だらけだったから、ついついね」
いきなり水をぶっかけてくるとは。何だと思って見たら、両手に大型の水鉄砲を構えている。おいおい、何だそのおもちゃにしては、本格的な水鉄砲は。
「ついついじゃねーよ、ったく。なんだよその水鉄砲は」
「よくぞ聞いてくれた。これはただの水鉄砲じゃないの。ウォーターガンよ!」
ドヤ顔で二刀流ならぬ、二丁拳銃で構えて俺に向って遠慮なく撃ってきた。竹中の足元にはポリバケツがあり、そこに二丁のウォーターガンがまだ残っている。
「やめろやめろ。いきなり撃つんじゃない!」
そんな様子を見て彩夏ちゃんが興味津々で竹中の方に駆け寄る。
「朱里さん、それは何ですの!?」
「これはね、ウォーターガンって言って、子ども向け水鉄砲より強力な玩具なの」
「わぁ、面白そうですの」
さっそくタンクに水がたっぷり入ったウォーターガンを彩夏ちゃんが拾う。大型とは言え女性でも扱えるくらいのサイズで、持ち運ぶのにも苦にはならない。なので思う存分撃ちまくれるはずだ。
「今日は全員でこれで遊ぼうと思ってデパートで買っていたのよ。さぁすみれもやるでしょ」
「え、なんで私も!?」
戸惑うすみれの手を引っ張り、強引に竹中はウォーターガンを渡す。始めから4人で遊ぶつもりで用意していたんだろう。そうと決まれば俺もさっきの仕返しをしてやる。
「だったら俺も参加するぞ」
「ほら、赤坂君もやる気満々みたいだし、すみれもやるしかないね」
「もうっ。こうなったら付き合ってあげるわよっ」
こうして全員でウォーターガンを使って遊ぶことになった。竹中がバケツの中から、金魚すくいで使うポイと紐を4つ取り出す。
「朱里、その金魚すくいで使うポイなんか出して何に使うのよ?」
「これはね、ポイをゴムで頭につけて、それが破れたらアウト。そんなサバゲーみたいな遊びに使うから用意したの」
説明しながら竹中が自分の頭部に紐でポイを固定する。
「面白そうですのね、何だかFPSみたいで楽しそうですの」
彩夏ちゃんも頭部にポイを装着する。そして全員がポイを頭部に装着し終えて、ウォーターガンのタンク部分に海水を補充する。
「みんな一応これも装着してくれるかな。上野さんにこの事を話したら、別荘にあるそれを貸してくれたの。海水は目に入るとあまりよくないからって」
竹中が別で用意したビニール袋から、水中ゴーグルを全員分取り出す。言われて皆が水中ゴーグルを装着。これで目に海水が入る心配もない。さすが上野さんだ。
「随分と姫柊家の別荘は準備が良いんだね、彩夏ちゃん」
「もともと海で遊ぶための別荘ですの。だからわたくしが知らないだけで、たくさん道具はあると思いますの」
「さすが上野さんね。朱里はそう言うところは抜けてるからね~」
すみれが竹中の足に遠慮なく水鉄砲を発射させる。
「ひゃっ。びっくりした。ゴメンゴメン、そこまで考えてなかったよー」
大袈裟に竹中が笑って誤魔化そうとしている。まぁとにかく水中ゴーグルのお蔭でこの水鉄砲ゲームを快適に遊べるな。
「これは隠れたり、逃げたりしても良いのですの?」
「それは全然ありだよ。岩に隠れたり、逃げたり、後ろから狙ったり、海水を補給してる隙を狙ったりと、とにかく頭のポイを破って、最後に破れてない人が勝ちだから」
「分かりましたの。絶対わたくしが一番になりますの!」
こうして俺達の水鉄砲ゲームの幕が切って落とされた。




