第34話 プライベートビーチに到着!
俺達4人は沖縄、那覇空港から降りると、既にタクシーが待機していた。上野さんが既に手配していたようだ。さすが敏腕メイド長さんだ。スマホで時間を確認すると14時少し前。だいたい3時間くらいで着くとはさすが飛行機は早い。
「では皆様、車に乗って別荘に移動しましょう」
上野さんに促されて全員で荷物を後部トランクに積み込む。全員分の荷物を入れ終えると、車に乗り込み、目的地の別荘に向って走り出した。
しばらく車の中で時間がかかるとの事だったので、俺達はその間、竹中が持ってきていたトランプでババ抜きをする事にした。
「ふふ、彩夏たんのその残った2枚はどっちがジョーカーかな~?」
試合は佳境に入っていて、竹中と彩夏ちゃんの一騎打ち状態だ。しかし顔に出やすい彩夏ちゃんが圧倒的に不利なような気がしてならない。もう明らかに竹中が弄んでいる魔女の顔となっているし。
「むむむ……」
「こっちかな~?」
「そっちは違いますの!」
左のカードを取られようとすると、分かりやすい程に否定をしていて、見てるこっちまで笑いを堪えるのに辛いぞ。
「じゃあ、こっちかな~?」
「そうですの、こっちですの」
もはや攻防と言うより彩夏ちゃんの顔が歪んでいるのを、竹中が楽しんでいるだけの状態だ。これじゃババ抜きと言うより、もはや別のゲームだな。
「う~ん、分からないなぁ。でもこっちかな!」
「あっ、それはっ、ダメですの!」
竹中がすかさず左のカードを取り上げると、当然それはジョーカーではなく、数字のカードだった。そして2枚揃って上がる。
「彩夏たんは分かりやすいなぁ、本当に」
こうして約30分間車内でババ抜きをしている間に、タクシーはついに目的地の海へと到着した。まだ砂浜に足を入れていないものの、期待が自然と膨らんでしまう。
「わぁ、凄く綺麗な海!」
「わお! ほんと素敵な海じゃん!」
すみれと竹中が青く綺麗な海に感嘆して驚いている。俺も声には出さなかったものの、ここまで魅力的な海だとは思わなかった。人混みなどがないせいか、余計にそう思うのかも知れない。
「ふふふん。とても良い所ですの。ここなら皆さんも絶対に楽しめると思いますの!」
プライベートビーチなだけあって浜の広さはそこまでじゃないものの、それでも少人数で遊ぶには十分過ぎるし、潮の匂いが風とともに鼻孔をくすぐってくる。海は空の色を映して眩しいほどに煌めいていた。これほど綺麗な海を俺達だけで独り占め出来るなんて、本当に贅沢だなと、しみじみ思ってしまう。
「では皆様、すぐに別荘がありますので移動しましょう」
上野さんが指をさすと、すぐ近くにシンプルな構造だが、綺麗な一戸建ての別荘がそこにはあった。ちょっとした坂を登って行けば、もう目と鼻の先で、まさに海で遊ぶためにあると言っても過言じゃない。
「綺麗な建物ですね」
俺が建物について思っていることを口にすると、上野さんが、
「ここの別荘と土地はもともと、彩夏お嬢様のお姉さま、姫柊綾那様の物件でして。今はあまり使う事がないので、妹の彩夏お嬢様が使っています」
説明を聞いていたすみれと竹中もその内容を聞いて、初めて彩夏ちゃんに姉がいるのを知ったようだった。
「彩夏たん、お姉さんいるんだね」
「お姉さまは色々忙しい人ですの。今では財閥にある企業の社長をしていますの。わたくしの夢坂リリムのバックアップをその企業が少しだけやっていまして。まぁ詳しい話は置いといて、早く荷物を置いて海に行きますの!」
彩夏ちゃんは俺達の腕を引っ張って、別荘へと向かっていく。歩けば5分もしなかったので、すぐに到着して建物の中に全員で入った。
「到着ですの~」
彩夏ちゃんは別荘に入るなりキャリーケースを玄関に置くと、リビングに配置されたロングソファーにぼふっと寝転んだ。移動疲れでもしたのかも知れない。
「彩夏お嬢様、はしたないですよ。いきなりそんなソファーに寝そべって」
「ふぁ~~いですの」
俺とすみれと竹中は、玄関に綺麗に並べられたスリッパに履き替えて中へと入る。それぞれ別荘内を探索開始する。
「とても広くて綺麗な内装で素敵ですね」
「こんな別荘に来れるなんて、何だか楽しみになってきたねぇ」
そこは2階建ての洋風な造りで、中の様子も広く、どことなく西洋な雰囲気を醸し出していた。1階は広々としたリビングがあり、カウンターキッチン、トイレ、風呂とある。2階には4部屋の洋室があり、トイレも完備されている。これなら5人で来ても部屋に困る事はなさそうで安心だ。
「部屋が4つあるって事は男の俺が1人部屋かな、これは。ちょっと狭いけど丁度いいか」
その一番狭い部屋の中に入ると、ベッドと本棚と簡易テーブルが置かれている。
だがさすがに姫柊家の別荘の部屋なのか、ベッドだけはホテルのような高そうな物が置かれていた。こんなふかふかなベッドだと逆に寝れない気がする。よく旅行先で泊まったホテルのベッドだと、枕が違うと寝れない事もあるし。
俺が2階をうろうろしていると、
「みなさーん、一度リビングに戻って来てもらってよろしいでしょうか?」
と、上野さんの呼ぶ声が聞こえた。
急いで1階のリビングに戻ると、彩夏ちゃんがアヒル浮き輪を片手に鼻息荒く興奮している。今からでも海に行きたい気持ちがひしひしと伝わってくる。しかしいつの間に空気入れで、浮き輪を膨らませてたのか。
「わたくしは今から海に行きますの。みなさんもどうですの?」
「お、おお。彩夏ちゃんは元気だな。もう海に行く気満々なんだね」
すみれも竹中もリビングに戻って来ると、彩夏ちゃんのアヒル浮き輪姿に悶えだした。
「彩夏ちゃんったらアヒル浮き輪似合ってる~!」
「彩夏たんってばそんな格好して可愛いぞ~」
竹中とすみれが彩夏ちゃんの頭を撫でだした。もはや後輩と言うより、妹みたいな扱いだな。
「わわっ、お2人ともお放し下さいの~」
3人がわちゃわちゃしている中で、上野さんが、
「彩夏お嬢様が行きたいとおっしゃっていますが、皆様はどう致しますか?」
と、俺達全員に聞いてきた。当然みんな行く気まんまんなムードになっている。
「行きます!」と2人が反射的に言う。
となれば俺も行くしかないな。
「じゃあ皆さんレッツゴーですの!」
こうして全員到着して早速海へと繰り出すことになった。




