第31話 お嬢様の水着選びは大変っ!
目的の水着売り場に到着するなり、
「わぁー、色々な種類がありますのねっ!」
興奮気味に彩夏ちゃんが早速水着コーナーへ行き、様々な種類を選び始める。さすがに俺としても女性ものの水着売り場は来た事がなかったので、居心地が非常に悪いし、他の女性客からの冷たい視線がたくさん……。たくさん刺さってくるものだと思っていたが、今日はカップルで来ている客が多く、そんな事にはならなかった。
おかしいな。てっきり女性客からの数多の視線を浴びせられると覚悟したのだが、意外と違ったらしい。いや、もちろん1人で選んでいる人もいれば、友達同士で来てる客もいるが、対比としては半々で、カップルで買いに来ている他の客のおかげで、違和感なく俺は居る事ができた。
だからと言って居心地が良い場所ではなく、俺は一歩引いた場所で待機しようと思う。
「ほらほら、渉さん。こんなのどうですの?」
「うわわっ、ちょっと彩夏ちゃん引っ張らないで」
俺の腕を強引に引っ張り、また水着コーナーへと引きずり込まれる。そこは今時の若い女性向けの商品もあり、可愛いデザインからシンプル、際どい色っぽいデザインまで様々と揃っていて、見ているだけで気恥ずかしい。商品棚には今年一押しは、『彼氏もイチコロ、際どいデザイン!』とデカデカと可愛らしいポップが出ているしな。
彩夏ちゃんが1つの水着を取り見せつけてくる。それは露出度の多い三角ビキニだ。さすがに高校生でそんなビキニの水着はけしからんぞ!
「これなら渉さんを悩殺出来ますの?」
「ちょっと、それは露出が多すぎだって。あんまり良くない気が」
「まぁ、渉さんってばうぶですの。ビーチは私達以外いないのですの」
「そう言う問題じゃないんだけどなぁ」
あまり良い反応が返ってこなかったので、頬を膨らませて次の商品を選んでいく。そして次に選んだのが、また露出が多い水着だ。棚の種類に名前が書いている。ワンショルダービキニだ。片方だけ肩の露出の多い水着。何でこの子はやたらこんな品を選ぶのやら。
「じゃあ次はこんなのはどうですの。これなら問題ありませんの」
さほど種類が変わっていない水着を選んでおいて、どうしてそんな胸を張っているのか、本当に不思議だな。
「俺は別に彩夏ちゃんが、そんな露出の多い水着を着て欲しいなんて思ってないんだが」
「え、そうなんですの。てっきり殿方は露出の多い水着を着ればイチコロだと、メイド長が言ってたのですが……」
あのメイドさん達はしれっと自分たちの雇い主のお嬢様に、何を吹き込んでいるんだ。道理でやけに最初から露出の多い水着を選ぶ訳だな。おかしいと思いましたよ。
「それは、否定出来ないけど。少なくても彩夏ちゃんはセクシーな水着より、可愛らしい方が似合ってると俺は思う。あくまで個人的な意見だが」
そう、あくまで個人的な意見だ。可愛らしい彩夏ちゃんはそっちの方が似合っていると思うのは、完全に俺の趣味だ。
「なるほど。渉さんはそういった趣向があると。ふむふむ。では別の水着を選びますの」
そう言って彩夏ちゃんはセクシーな水着が飾っているコーナーを出て、別のコーナーへと向かい出した。そこはリボンをモチーフとしたデザインの水着が飾られている。
「わたくし的にはこんな感じなのが好みですの。どうでしょう?」
それは女性らしいキュートさが魅力の水着。トップのフロントをリボンで結んだようになったデザインのものから、ブラ本体がリボンの形になった物などが飾られていた。
「うん。結構似合っていると思う。その彩夏ちゃんはスタイル悪くないし、どれを来ても基本的に似合うと思うけど」
「えー、本当ですの!?」
俺の言葉に興奮して、いきなり手当り次第水着を取っては戻し、取っては戻す。まさかずっとこのまま長時間選ぶのに付き合わないといけないのか。
以前すみれと竹中達の買い物に、荷物持ちとして付き合った時も、とても時間が掛った事を思い出した。あの時は1人自販機コーナーで待機するだけになったんだったな。ジュース三本も飲む羽目になって、腹がたぷたぷになったからな。
「渉さん、わたくしちょっと試着してきますので、待っていて下さいまし」
それだけ言って大量の水着を持つと、試着室へと行ってしまった。あらら、これはかなり時間がかかりそうだなぁ。あの様子だとまだ選ぶの手間取りそうだな。女子はこういうのは時間が掛るのは仕方ないとは言え、やはり手持無沙汰になるのは辛い。
「さて、どうしたものか……」
しかし男1人で女性の水着コーナーにいるのが、やはり居たたまれなくなる。ここは少し離れてまたベンチのある自販機コーナーへと向かって、何か飲み物でも飲みながら待つとしますかね。
突っ立っていても仕方ないので、目的の自販機コーナーへと向かい、適当な炭酸ドリンクでも買って長椅子に座る。すぐ近くにはトイレと、エスカレーターもあり、もし彩夏ちゃんが探しに来てもすぐ分かるはずだ。……多分。
早速適当に買った炭酸ジュースのプルタブを開けて、一口飲んでみる。
「ぶぇぇ、何だこれ!?」
苦みと炭酸が融合した妙ちくりんな味が、舌全体を侵食してくる。しまった、まともに選ばず目についた物を買ったからよく見てなかったが、その商品名は『ゴーヤサイダーZ』とか言うふざけた商品名が書かれている。
「うえ。だから変な味がしたわけだ。しかしよくこんな場所に、こんな商品置けたな。ある意味興味が湧いて買うやつがいるから置いてるのか。業者は悪趣味だろ」
しかし、買った以上は捨てるのは悪い気がする。買ってしまったのは、自業自得だ。俺は一気にこの不味いサイダーを飲み干して、ゴミ箱に空き缶を投げ捨てた。全て飲んだせいで舌に苦みがやたら残っていて気持ち悪い。
「ったく酷い目に遭ったな。口直しにミネラルウォーターでも飲もう」
仕方なくもう一度自販機に向い、今度はしっかりペットのミネラルウォーターを選び、取り出し口から取り出す。純粋な水を飲んで、ようやくさっきの苦みが消え、一息つく事が出来た。
それから数分ペンチで彩夏ちゃんを待っていたが、まだ全然決まった様子がないらしい。こっちにくる様子もなければ、スマホから連絡もない。時間かかりそうだな、これは。仕方ないので一度トイレを済まし、俺は彩夏ちゃんの様子を見に行こうと思った、その時だった。
エスカレーターから見知った2人の女性が上がって来ようとしていた。そしてそのまま2人が俺の目の前へと姿を見せるなり、驚いた声を出した。
「わぁ。赤坂君じゃん。どうしたの、こんな所に1人でさ」
「兄貴? ここ女性ものの水着売り場なんですけど」
そこにはすみれと竹中の2人がいた。恐らくこの2人も彩夏ちゃんの誘いで、プライベートビーチに行くための水着を買いに来たのだろう。
「なっ。そんな訳ないだろ。こっちは彩夏ちゃんに呼び出されて、強制的に水着選びに付き合って来たんだよ。それで長くなりそうだからここで待ってたんだ」
とりあえず事情を話せば分かってもらえるだろう。
「あー、彩夏たん、そんな事言ってたものねー。だからここに1人でいたんだ。じゃあ私達も見に行こうか、すみれ。赤坂君また後でね」
「確かに、そんな事言ってたような。まぁとにかく、兄貴はあまりこんな所でうろうろしない方が良いよ」
そして2人は俺を置いて水着コーナーへと向かったのだった。