第30話 彩夏ちゃんからプライベートビーチに誘われ、水着を一緒に買う羽目に!
文字狼さん対戦配信を無事終えて翌日。疲れた俺は昼間までぐうたら寝ていたら、俺のスマホがけたたましく鳴りだし電話がきた。飛び起きて誰なのか確認せず、反射的に机に置いてあるスマホを取る。
『はい……、もしもし赤坂ですが……』
俺は寝ぼけまなこで、頭が動かない状態で電話に出る。一体誰だろうか。人が惰眠を貪ってる最中に電話をかけてくる無神経な奴は。もしや竹中だろうかと予想していたが、それは全く違い元気な声が返ってきた。
『おっはようございますのー!』
この元気な声は彩夏ちゃんだ。昨日のテンションから全く変わっておらず、めちゃくちゃ元気なお嬢様だな。しかし今日は何の用だろうか。またコラボ配信をしたくて、その企画を考えるために電話したのだろうか?
『あ、うん。おはよう彩夏ちゃん。今日はどうしたの?』
『実はせっかくの夏休みなので、皆さんと沖縄の海に行きたいと思いまして』
『え、沖縄の海……。海か……。あまり行きたくはないけどなぁ』
正直このくそ暑い中で、海はしんどいなぁ。俺は言わずものがなインドアな性格だ。なおさら人が混みまくっている海に行くとなると、ちょっとしんどいのが本音。世の中俺と同じ奴なんて五万といるはずだ。
『でもすみれさんも、朱里さんも了承してくれましたの。後は渉さんだけですの』
さも当たり前の様にすみれと朱里が行くと言ってるらしい。昨日の文字狼さん配信でもみんなあまり好きじゃない的な事を言ってなかったか?
俺の記憶が間違っていなければ、日焼けとか、人混みとか好きじゃないって聞いたはずだが。竹中は嫌いじゃないとは言ってたが、そもそも当の本人である彩夏ちゃんも、そんな好きじゃないって言ってたような。
『まじでか。そもそもすみれも彩夏ちゃんも海は嫌いって、言ってたと思うが』
『それはそうなのですが。行く海は姫柊家のプライベートビーチですの。だから人もいないので、わたくしは問題ありませんの。その事を伝えたら2人とも了承をもらえましたの』
プライベートビーチ。まさに金持ちの象徴だ。なるほど、そこなら俺達以外に人もおらず、のびのび遊べるな。こんな経験はそう出来るものじゃないし。竹中もすみれも行っても良いって思うだろうな。
『わたくしは渉さんに来てほしいですの。でも行かないと言ってもわたくし、手段を選ばず連れて行くつもりですの。それでも良いですの?』
『え、手段を選ばないって何をするつもりだ!?』
『それは教えるわけにはいきませんの』
怖い怖い。多分電話越しでニコニコと笑って言ってる気がするが、この子ちょっと危ない面があるから、やりかねないぞ。いや、でもさすがに冗談だと思うけど。そう、きっとお嬢様ジョークってやつだろうな。
『そ、それは怖いな。とにかく全員行くなら俺も行くよ。折角のお誘いだしさ』
『では、明後日に皆さんを車で迎えに行きますの。そして今から水着を買いに行くのですが、一緒に行きませんか、渉さん?』
明後日の都合は別に夏休みなので、特別用事がないから問題ない。すみれも竹中もどうせ了承してるのだろう。しかし何故俺が彩夏ちゃんと水着を買いに行かなければならんのだ。それに水着自体俺はもう持ってるし、出かけるのが億劫だ。
『え、今から行くのか?』
『だって渉さんにどんな水着が良いか選んで欲しいんですの。今そこで窓を開けて下を見てくださいまし』
言われて窓を開けて下を見ると、既に黒いミニバンが家の下に停まっており、彩夏ちゃんが玄関前でスマホを持ってこっちを見上げて手を振っている。どうやらもう行く事は決定してるらしい。物凄い行動力だが、振り回されるこっちの身にもなってほしいんだけどなぁ……。
『わかった、わかった。すぐ支度して行くよ』
こうして俺はスマホを切り、素早く身支度を済まして玄関を出た。そして待機していたミニバンに乗り、彩夏ちゃんと合流する。まさか下で待機しているなんて、思いもよらなかったが。
「突然過ぎだよ、いつも。ほんとその行動力はすごいよ、ある意味」
「まぁ褒めてくれて嬉しいですの。じゃあ早速運転手さん、駅近くのショッピングモールへ向かって下さいですの」
それ褒めてないんだけどなぁ。とにかく近場のショッピングモールへ向かい車は走り出した。目的は当然水着を選び、買うため。しかし水着選びなら他の2人と一緒に行けば良かったろうに。
しばらく車内で雑談をして過ごしている内に、車は目的地に到着した。俺は運転手さんにお礼をして、車を出る。彩夏ちゃんも外に出て、早速水着売り場がある建物へと2人で歩き向かい出す。
「さぁ今日はわたくしの水着を、渉さんが納得するまで選びますのよ!」
俺達はモール内へ入ると、彩夏ちゃんは意気揚々と、鼻息荒くエスカレーターに乗って行く。2人でエスカレーターに乗っていると、今日は何故か高めのヒールを履いているからなのか、彩夏ちゃんの姿勢が崩れて倒れそうになった。
「わわっ!?」
「っと!」
後ろに立っていた俺が、その背中を両手で抱きしめる形で受け止めて支えた。当然その身体が密着してしまい、
「はわわっー!」
と、慌てて自分で態勢を元に戻す。彩夏ちゃんはエスカレーターの手すり部分を自ら握り、息を整えている。その顔は少し赤く蒸気しているよう。てか顔真っ赤だな。不慮の事故とは言え、腰を掴んでしまったのはちょっと俺も恥ずかしいけどさ。
「えと、大丈夫?」
「あ……。はい、大丈夫ですの。ありがとうこざいますの」
とても息遣いが荒く見える。前は積極的にくっついて来たのに、今日は何か恥ずかしがってるのが妙に可愛く思えてしまう。顔を俯いてそのまま黙ってしまっているし。
「そろそろ目的の4階に着くよ」
「あっ、本当ですの。気を取り直して行きますの」
エスカレーターが4階に到着して、俺達は中へと向かっていった。正直ちょっと行くのが恥ずかしいのだが、大丈夫なのだろうかと不安になってくる。男の俺が女性の水着売り場に行くのはやっぱり抵抗あるんだよな。




