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第25話 夜に竹中とコンビニで偶然の鉢合わせ。

 コラボ実況の打ち合わせをして、ゲームセンターで遊んだ帰り。


 俺達はそれぞれの家路に着いた。俺とすみれと竹中の3人はバスで、彩夏ちゃんは迎えの車が来ていたのでそれに乗って行く。とても名残惜しそうに腕を組んでいたが、さすがに俺を車に引き込む事はしなかったものの、ちょっと本気でやりそうな勢いだった気がした。


 俺は疲れたので自室に戻るとベッドに寝転んだ。少し眠気があるものの、とは言えこのまま寝るにはまだ早い時間。すみれは今日の夜から少し配信すると言っていたし、今は準備でもしているのだろう。


 こっちは『星野宮きらり』の切り抜き動画でも作ってやるかと思い、パソコンを立ち上げる。毎日のようにアップする事はさすがにないが、そろそろまた作れる動画があったはずだ。


 さて――、何の動画を切り抜くべきか。軽く最近配信した動画をチェックするか。


 と、そう言えばすみれが使って欲しい動画があるって言ってたな。指定された通り、その動画を選び、編集を開始する。そしてエンコードの処理を開始させた。


 このエンコードをすると処理に30分くらいかかるので、その間暇になるな。何かゲームでもやろうかとも思ったが、その前に喉が渇く。


「下で何か飲み物でも取って来るか」


 けれどキッチンに行き冷蔵庫を覗き込むと、俺が飲みたい炭酸が切れていた。仕方ない、近くのコンビニに買いに行くか。部屋に戻って財布を取り、まだ少し明るい外へと出た。


 近所のコンビニに入り、飲み物コーナーでどれを買うか吟味していると、


「おっ、赤坂君じゃん。奇遇だね」


 と、見知った声がしたので振り向くと、そこには一旦着替えたのか、タンクトップに短パンと昼の時よりラフな格好の竹中がいた。


「竹中、お前どうしてここに」

「どうしてって、私も買い物で来たに決まってんじゃん。それに近所なんだし会う事だってあるでしょ」

「まぁ確かにな。実際何度も学校帰りや、夜にも会う事とかあったしな」


 俺は目のやり場に困ってまた飲み物を選びながら答えた。


「でしょ。それにすみれ今日は配信してるし、あまり被せたくないから暇でさ、ぶらぶらしてたんだ。そっちはどうしたの?」


 言いながら、俺の後ろからコンビニの冷蔵庫を開けて適当なサイダーを取っていく。俺もついでに同じ物を取って、扉を閉めた。


「きらりの切り抜き動画のエンコードをしててさ。待ち時間があるし、それで家に飲み物切らしてたし、来ただけだよ」

「ふ~ん。お兄ちゃんも大変だねぇ。私も切り抜きお願いしようかなぁ、赤坂君に」

「つばきのは有志の人が作って既に上がってるだろ。何で俺がやらなくちゃいけないんだよ」


 竹中は他にもお菓子をカゴに入れていく。こいつ夜に食うつもりなのか?


 まぁ、竹中はスタイルも良いし、太らない体質なのかも知れんな。世の中の女性はダイエットに大変苦労しているのに、何で俺の周りの女性はそれをことごとく無視しているのか。不思議でしかたないぞ。


「でも、赤坂君が作ってくれると愛があるじゃん。それにしっかり作られてるの知ってるし」

「愛が入ってるって、俺はメイドカフェのメイドじゃないっての」

「じゃあ私が今度メイドの恰好で作ってあげようか? オムライスとか。ほら、おいしくなーれって」


 その場でくねくねした動きをして、指をくっつけてハートマークにしてくる。


「いや、遠慮しとくよ」

「もう、遠慮なんかしなくて良いのに」


 俺は自分のサイダーを持ってレジで会計を済ます。その後で竹中も自分の会計を済まして、2人でコンビニを出た。


「はー、やっぱあっちーな。この時間でも。じゃ、またな」


 家を出た時は19時半を過ぎていたが、それでも真夏となると暑さは引く様子がない。コンビニを出た途端に、また汗が玉粒のように流れ出る。俺が家へと帰ろうとした途端、急に腕を掴まれた。


「ねぇ赤坂君暇なんでしょ?」

「まぁ暇だな」


 竹中がぽりぽりと頬をかきながら、


「だったらちょっと付き合ってよ。近くにファミレスあるからそこに行こうよ」


 特にこの後用事があるわけでもない。だから断る理由もなかった。


「別に構わないけど」

「じゃ、早速行こっか」


 そうして俺達は近くのファミレスへと行き、入って行った。


 ファミレスの中はそこまで人がおらず、平日だからなのか()いていた。他にも学生や社会人もいるが、それでも比較的ガラガラだ。女性店員が何名様か確認してきたので、2人と答えると、適当な席にどうぞと言っておしぼりを取りにいく。


「結構空いてるねぇー。それに涼しくて気持ちいい」


 俺達は窓際の席に向かいあって座ると、竹中がメニュー表を取る。


「そうだな。平日だし。俺達みたいな学生はいるけど」


 店員さんがおしぼりと水を2人分置いて、「注文が決まりましたらボタンを押してください」と言い残し、厨房の方へ戻って行く。竹中はもう何を食べるか決まっていたのか、


「私は、ほうれん草のスパゲティとセットドリンクを頼むけど、そっちは決まった?」


 俺はメニュー表に目を通す。少し迷ったがミートドリアとセットドリンクにしよう。


「じゃあミートドリアとセットドリンクで俺は」


 答えると、竹中が注文ボタンを押す。ぴんぽーんと、呼び鈴の音に反応して、先程の店員さんがやって来た。


「ご注文をどうぞ」

「ミートドリア1つと、ほうれん草のスパゲティを1つ。後はセットドリンク2つ。以上でお願いします」


 店員さんは手元のタブレットのボタンを押して、注文を復唱して席を離れていく。


「で、急にどうしたんだ?」


 俺は竹中の様子がいつもと少しだけ違う気がした。何か相談事でもあるのか?


「別にどうってわけじゃないよ。ただ、たまには赤坂君と2人で話したって良いじゃない」

「何か相談でもあるのかと思ったが。別に何でもいいさ」

「相談ってわけじゃないけど、ちょっと聞きたい事があってさ。赤坂君は彩夏たんと付き合うの?」


 急に竹中がぶっこんだ質問してきたので、飲みかけた水を吹きそうになる。もしかして、これが聞きたくて俺をファミレスへ誘ったのか。咳き込んで胸が苦しい。


「急に何言いだすんだ」

「だってあれだけアタックされてるから、付き合うのかなーって思って」


 そうこうしている間に、注文した料理が届けられた。とりあえず料理を食べる事にする。


「いや、それはなんつーか、申し訳ないけど、まだ何とも考えてないんだよ。妹って感じがして」

「そうなんだ。あーんなに可愛いのに、もったいないと思うし、あまり放ったらかしだと、取られちゃうよ」

「それは、確かにそうだけど。じゃあそういう竹中こそどうなんだよ。彼氏とかいるのか?」


 俺が聞くと竹中はくるくる巻いていたフォークの動きを止めた。


「おやおや~、私に彼氏がいるのか、気になっちゃうんだ?」


 どこか色っぽく巻いたスパゲティを口にしていく。


「まぁ気にならないって言ったら、気になるけど」

「ふ~ん。そうなんだ。私も赤坂君とは相性良いと思うし。付きあっちゃう?」


 冗談気味にけらけらと笑う竹中は大きく伸びをする。本気なのか冗談なのかよく分からない奴だな。ただ竹中朱里と言う目の前にいる女性は、少なくとも気になる存在だ。一緒にいて楽だろうなって思うし、天真爛漫な性格は、気に入っている。


「いきなりそんなふうに言われても。ただ竹中と一緒にいると楽なのはあるけどな」

「ふ~ん、ま、今はその答えで私は満足かな。それにお兄ちゃんは妹が大好きだしね」


 人の事をシスコンと認定してきているな、こいつ。


「だから俺はシスコンじゃないからな」

「はいはい。そう言う事にしといてあげる」


 何だかすっきりしないが、喉が渇いたので俺はドリンクを取りに行くため立ち上がると、「あ、私カルピスお願いね」と頼んできた。仕方ないので俺のコーラと頼まれたカルピスを入れて席に戻る。


「ほらよ」

「サンキュー」


 戻った時の竹中は窓の外を見ている。今は時間が遅いので、車が時折走る程度だ。しかしその横顔はどこか不安な表情で、どことなく儚げな雰囲気を出していた。


「ねぇ赤坂君ってVTuberっていつまでやれると思う?」

「どういう意味だよ。活動するのが嫌になったのか」


 言っている意味が分からない。もしかして竹中はVTuber活動に飽きたとか、嫌いになったのだろうか。


「そうじゃなくてさ。コンテンツとしての需要はいつまで続くのかなって。私達はいつか社会人になるし、そもそも私の人気がこの先も続くか分からないしさ。ちょっと先の事を考えると不安なんだよね……。もちろんこれって他のVTuberの人達も同じだと思うけどね」


 ああ、なるほど。この先人気が落ちるかもしれないし、社会人になって辞める時が来るかもしれない。活動を続けたくても需要がなければ意味がなくなってしまう。竹中は活動を続けながらに、色々考えているんだと分かる。


 俺にはそんな難しい将来の事なんて分かるわけないし、適当な事を言うのは躊躇(ためら)われる。だけど、それでもきっと何かを言って欲しいと言う事は、馬鹿な自分でも分かる。だから思ったままの事を口にする事にした。


「お前らしくないな、なんかさ。真剣に活動してるつばきは、まだまだ人気は上がると思うけどな」


 言葉を選んでそれでも思いつく限りの言葉を続ける。


「それに竹中って色々多才だし、VTuberが(すた)れたとして、また新しいコンテンツを考えればいいんじゃないか。絵だって上手だし。いっそ、その時は会社でも興して自分で何か展開してみれば成功するかも知れないぞ?」


 ちょっと自分でも馬鹿な事を言っている自覚はあるが、それでも真面目に言っているのも事実だ。とにかくそんな不安がっても仕方ないって事が伝わればいいわけで。


「あははっ。そうだね。こんな風に悩むなんて私らしくないね。確かに案外その時は何かチャレンジしても良いかも知れない。でもどうせなら目指せ登録者数100万人だ! ありがと、真剣に考えてくれてさ」

「そんな礼を言われる事じゃないだろ。本当の事だし」


 竹中はまたいつものように、元気な笑みをこっちに見せてきた。そんな顔を見ると俺は少しドキッとしてしまう。


 手元のスマホを見るともう夜も遅くなってきた。そろそろ帰っても良い時間だな。その動作で察したのか、


「そろそろ帰ろっか」


 と、竹中が出るのを(うなが)してきた。


「そうだな。今日は竹中と話せて楽しかったよ。また何かあればいつでも言ってくれよ」

「ふふ。ありがと。私も楽しかったよ。じゃあまた頼っちゃおっかなお兄ちゃんに」


 不意に竹中が側に寄り添って来た。俺は少しそんな態度にドキリとしてしまう。


「その言い方はやめろって」


 そうして俺達はファミレスを出て、それぞれの家に帰宅した。コンビニで買ったサイダーは一度蓋を開けてしまったので、すっかり炭酸が抜けていて、帰った時には飲めるものじゃなかったけど。

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