第23話 初4人で文字狼さん対戦配信の打ち合わせをしよう!
夏になり、蝉の音がよりいっそう暑さを増していた。俺はクーラーを効かせた、自室の部屋のベッドに寝そべりながらスマホを弄っていると、スマホに通知が来た。
『赤坂くーーん。そろそろ4人で文字狼さんの配信をやるぞおおおお! 打ち合わせするぞい!』
と、竹中がメッセージを飛ばしてきた。そう言えば以前、彩夏ちゃんの家にお呼ばれされた時に、やろうって言ってたな。学生である以上は夏休みなわけで、これからは配信頻度を増やしたいとか言ってたし、皆で配信をしたいのだろう。
竹中は配信仲間が増え、以前にも増してパワフルなスタイルに、磨きが掛ってるように思える。
俺は暇な時はすみれ、竹中、彩夏ちゃんの全員の配信を見ている。
やはり俺はリスナーとして見ている方が似合っているのかも知れんな。だが、不思議と自身のセバスチャン渉の人気も、夢坂リリムこと、彩夏ちゃんの恩恵でじわじわ伸びてはいる。まぁほんの少しだけど。
『俺はいつでも良いけど、彩夏ちゃんとすみれのスケジュールは聞いたのか?』
メッセージの返信をすると、即座に竹中から返しが来た。
『私を誰だと思ってるの? もうそれは既に調整済みだって。じゃ明日の14時に、駅前のマックロナルドに集合ね。他の2人には連絡済みだから』
『随分と手回しが良い事で。とにかく分かった。じゃ、また明日な』
俺はスマホをベッドに放り投げ、上体を起こし立ち上がり部屋を出ると、妹の部屋に向かった。一応明日の事について話をしておこうかと思ったのだ。
「すみれ、入っていいか?」
部屋の前でノックをして聞くと、「勝手に入って来て」と返事がきたので、ドアノブを開けて入る。
すみれは自分のベッドでごろりと寝ころびながら漫画を読んでいた。その服装は以前プレゼントした寝巻きセットで過ごしている。お、さっそく使ってくれてるのは素直に嬉しい。
「どうしたのよ、兄貴?」
「コラボ配信の事で、明日打ち合わせをするって竹中から聞いてるよな?」
読んでいた漫画を閉じてこちら見上げてくる。しばらく黙ってこっちを見ているものの、
「この寝巻き――、さ。高かったんじゃない。兄貴の金銭事情は大丈夫なの?」
「え?」
一瞬何を言っているのか理解出来ず、固まってしまっていると、
「もういいよっ。明日の打ち合わせはもう全員了承しているわよ。もう用事がないなら帰ってよね」
そう言ってまた漫画を読みだした。もしかしてこの妹は、俺の懐事情を心配してくれたのか。今までそんな心配などしてくれなかった、この妹が。
「そっか。わかったよ。その寝巻き気に入ってもらって良かったよ。じゃあな」
「せっかくもらったんだから、これからもボロボロになるまで使ってあげるわよ。感謝してよね」
俺はすみれの部屋から出ようとしたら、そんな言葉が背中に浴びせられた。やっぱりかなり気に入ってるみたいだな。一生懸命ネット注文した甲斐があったってもんだな。
翌日になり、みんなと打ち合わせをするため俺とすみれは、一緒に家を出ることになった。駅前のマックロナルドはバスに乗れば10分もかからない距離だ。
「あー、今日も相も変わらず蝉だけは元気だなー」
自宅のドアを開けた瞬間、むわっとした蒸し暑さに、額から汗が流れ落ちる。至る所から蝉の音が鳴りやむ様子がなく、日差しは強くまさに猛暑日だ。
日本の夏は毎年暑く感じると言うが、もうずっとこのままだと40度が平均になってしまうんじゃないかと不安になるぞ。
「高校生のくせに、おっさんみたいな事言わないでよ。余計暑く感じるじゃない」
「へいへい、悪うござんした」
「ほら、バス来たわよ」
そうして2人でバスに乗り、駅前に到着して目的の店に入ると、竹中と彩夏ちゃんがボックス席に既に座っていた。こっちに気付き、2人が手を軽く振ってくれている。
「2人ともこっちですのー」
とりあえず呼ばれたボックス席に座る。2人はもう注文が済んでバーガーセットがテーブルに置かれていた。
「朱里も彩夏ちゃんも早かったのね。私達も早く出たつもりだったのに」
「実は彩夏たんが一番に待っていたんだよね。こっちもびっくりしちゃったよ」
竹中が自分のアイスコーヒーを飲みながら答えてくれる。
「だって、また4人で集まれると思うと楽しみでしたの。だからちょっと早く来ちゃいましたの」
彩夏ちゃんはアイスティーをストローで啜りながら、はにかんで照れている。
「あはは。彩夏ちゃん可愛い。私達も何か頼みに行きましょ、兄貴」
「そうだな。冷たい物でも飲みたいしな」
すみれと一緒に席を立ち、注文するためにカウンターに行く。俺はチーズバーガーセット、すみれはフィッシュバーガーセットを注文して、番号札を受け取ると元の席に戻った。
「おっ、戻って来た。じゃ、早速今度やる『文字狼さん』コラボの打ち合わせといきますか」
「あの、『文字狼さん』って、そもそもどんなゲームなんですの?」
「ああ、彩夏ちゃんは知らなかったのね。簡単に言うとね――」
すみれが彩夏ちゃんに説明を始めた。内容はこうだ。
みんなで「あるお題」について話し合う中で、「みんなとは異なるお題」を与えられた少数派の人(狼さん)を探し出すゲーム。例えばスイカというお題を与えられた多数派の民、メロンと与えられた少数派が狼さんとなる。
ただし、ゲーム開始時は、自分がどちらの陣営なのかは不明だ。
制限時間を決めて周りと会話をして、それをヒントに自分が「民」なのか「狼さん」なのかを探る。もし「自分のお題が周りと違う」と思ったら、自分が狼さんの可能性がある。
民のお題を推理して話を合わせたり嘘をつきながら、自分が狼さんであることがバレないように振る舞う。話し合った後、多数決で狼さんを決める。狼さんを見つければ民チームの勝ちで、逆に狼さんが民のお題を当てれば狼さんの勝ちとなる。
「――と言う感じのゲームが『文字狼さん』ってゲームだよ」
「ほへぇ~……、何だか難しそうなゲームですの。まさに心理戦って感じがしますの」
彩夏ちゃんは頬に手を添えて唸っている。説明をしている間に番号札で頼んだセットが届いた。
「まぁまぁ、実際に今やってみようよ。このオンラインアプリを配信時にやるからさ。さっそくみんなダウンロードしてくれる? それで練習してさ。そうすれば彩夏たんも理解できると思うしね」
「はい、わかりましたの」
竹中以外の3人で、アプリをダウンロードする。俺もゲームのルールは知っているが、ネットでちょっとやったくらいで、初心者同然だ。ゲーム自体は非常にシンプルで楽しく、配信向きで良い企画と言えるだろうな。
「みんなダウンロード終わった? なら試しに一戦練習してみましょう」
「じゃあ俺がパスワード部屋を作ったから入ってくれ」
人数を4人に指定し時間を設定する。適当なパスワードを皆に教えて、早速お題が出現する。適当に出たお題について俺達4人は恐る恐る会話をして、ゲームを終えた。まだ練習だったので、彩夏ちゃんがぼろを出して、あっさり自分が狼さんだと気付かれ終わってしまう。
「あ~、難しいですのよ。本番はもっと上手にやりたいですの!」
「彩夏ちゃん、狼さんの時は嘘を吐いたり、適当にみんなに合わせても大丈夫だから。それがこのゲームの醍醐味だし」
俺がフォローすると、少し納得したのか、食べ残していたハンバーガーを一気にぱくついた。ちょっと悔しかったのだろう。頬がリスみたいに膨れているのがちょっと可愛らしい。
それから日付を今週の週末の夜20時に決める。そして今回はそれぞれ1か所に集まらないので、通話チャットアプリを利用してそれぞれ個別で配信する事となった。
ある程度配信の打ち合わせを終わると、竹中がスマホの時間を確認する。まだ時間は15時40分。ちらりと俺達の方に視線を向けてくる。
「ねぇ、みんなまだ今日時間ある?」
全員注文して頼んだセットを食べ終っており、すみれが全員の分を綺麗にまとめて片付けやすくしてくれている。
「わたくしは問題ありませんの」
「俺も特に用事はないな」
竹中の視線がすみれへと向けられる。
「私も夜に少し配信するけど、まだ時間は大丈夫よ。どうしたの?」
小首を傾けて竹中の様子をうかがっている。
「せっかく4人で駅前まで来たんだから、ちょっとゲーセンでも行かない? 私あそこで遊びたい体験型のアトラクションがあるんだよねー」
「ゲームセンターですの!? わたくしは行きたいですの」
「なら行くしかないな。すぐそこだしな。すみれ片付けサンキュー」
すみれが全員のトレーをまとめて一気に片付ける。
「別に兄貴のためじゃないし。それじゃみんなで行こっか。いざゲーセンね!」
という訳で、俺達は駅前の大型ゲームセンターへと向かう事になった。