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第17話 VTuberが集まればコラボの話をするのは自然かも知れない!(前編)

「お帰りなさいませ、彩夏お嬢様。今日はご友人の方達が一緒だと伺っております」


 いきなり大広間のような玄関で、3人のメイドさんが出迎えて来てくれた。まるで映画のような世界だなと、俺が(ほう)けていると、


「そうですわ。上野さん、屋上の準備は整っていますの?」


 彩夏ちゃんが聞くと、上野さんと呼ばれた1人のメイドさん、多分メイド長的な人が頷く。


「先程運転手の方から聞いております故、設備等の準備は抜かりなく問題ございません。何せ初めて彩夏お嬢様がご友人を、しかも3人も連れて来るのですから、シェフも魂を入れて腕をふるっております。皆さまお楽しみにして下さいね」


 何故か俺に向ってメイド長の女性がウインクしてきた。え、何の意図があるんだ?


 彩夏ちゃんが友達を連れて来る事が、どうもこの姫柊家ではとーっても大事(おおごと)になっているらしい。どこからか、バタバタと他のメイドさんも動いているのが聞こえてくるし。どうなってるんだ。


 そんな俺達3人が黙って固まっていると、


「さぁさぁ、皆さん。遠慮せず屋上に行きますの!」

「わっ彩夏ちゃん、そんな急に腕を引っ張らなくても。あのっ、お邪魔します」

「今日はお邪魔しまーす!」


 すみれも竹中も挨拶するので、


「え、えと、今日はお騒がせします」


 俺はメイドさん達に挨拶すると、皆さんとっても嬉しそうにしていた。そしてちらちらと、こっちを見てくる。もしかして、彩夏ちゃんがメイドさん達にもこの前の出来事を話しているのかなと、ちょっと不安になってくる。ま、まさかな~。


 彩夏ちゃんがすみれの腕を掴み、塵ひとつない、カーペットの敷かれた(きら)びやかな装飾が施された階段を上がって行く。そのまま俺も竹中も後を追って階段を上る。


 4階の屋上部分に俺達は到着して、そのスチール性の扉を開ける。すると出た先の屋上はテラスとなっていた。周りの一部はウッドデッキとなっており、視覚的にも心地よい空間になっている。これは、羨ましい限りだ……。


「とっても素敵なテラスね」

「わぁ、広いねー」


 すみれと竹中がテラスの空間に圧倒され興奮している。テラスには白色レトロなガーデンテーブルとセットのチェアが4脚揃っているのは、俺達のためだけにメイドさんが用意したのだろうか。何だかとっても申し訳なくなってしまう。


 それにテーブルの上には予め用意してくれていた、キンキンに冷えたオレンジジュースが入ったグラスが置かれている。そして、外にもかかわらず、テラスの上部に設置されてた冷房器具から、涼しい風が流れてきて、暑さを抑えてくれていた。


「皆様、さぁ座って下さいの。もうすぐシェフが料理を作り終えますわ。ゆっくりジュースでも飲んで待ちますの」


 俺達は用意されたチェアにそれぞれ座り、テーブルに置かれたジュースを飲む。これは、明らかにスーパーとかで売ってる安物じゃないのは明白だ。よく果汁100パーセントと載ってるが、あれが100なら、このグラスのジュースは300パーセントだな。


 世界の真実に気付いてしまった感じさえある。いや、大袈裟だったと自分でも思うけど。ただ、それくらい美味しくて、上質なオレンジジュースは初めてだ。とにかく濃厚でもうスーパーのが飲めなくなるぞこれ。


「美味しい……」


 ぽつりと俺は呟いてしまう。


 全員がオレンジジュースを一気に飲み干し、グラスをテーブルに戻すと、すぐに先程玄関で会ったメイドの上野さんがやって来てグラスを手早く片付けて、テラスを出て行った。まるで見計らったような完璧なタイミングなのだが、どっかにカメラで監視されてるのかと思う程だ。


「あ、ねぇ彩夏たんはあれでしょ。赤坂君とVTuberとしてコラボする話をしたかったんでしょ?」


 竹中が思い出したかのように聞き出した。そうだったな。それが目的で今日は姫柊家に招待されたのだった。あまりに色々驚きの連続で、すっかり当初の目的を失念していたぞ、俺よ。


「そうそう。彩夏ちゃんの夢坂リリムの配信見たけど、まんま彩夏ちゃんみたいで可愛かったよ。登録者数も17万人。ライバルばっかりで私も頑張らないといけないと思ったわね、ほんと」

「あ、わたくしも朱里さんとすみれさんの配信見ましたわ。年下のわたくしが言うのもあれなのですが、すみれさんはVTuberとして最近始めたばかりですし、凄い勢いだと思いますの。わたくしは半年以上やってますし、すみれさんはいずれもっとトップに行くと思いますの」


 彩夏ちゃんがすみれの事をかなり評価している。恐らく自分以上に魅力があるのだと思っているのだろう。だが、彩夏ちゃんがやっている夢坂リリムもコアなファンが着実に増えているのも事実だと、少し調べたら分かった。


 何せお嬢様の命令口調で、少しわがままなところが、その人気の源なのだから。


「彩夏ちゃんありがとう。でも彩夏ちゃんの視聴者さんってちょっと私の視聴者となーんか被ってる気がしたわね。何でかしら」

「え、そ、そうですの?」

「確かに彩夏たんとすみれってちょっと似てるところあるかも。少しツンデレ被りしてるって言うのかな」

「ちょっと、何そのツンデレ被りって。人をアニメか漫画のキャラにしないでくれます、朱里さん?」


 すみれが竹中の頬を抓ろうとするが、ひょいとそれを避けている。そんな様子を眺めていて、ふと思う。こいつら3人でコラボすればもっと人気出るだろうなって。そのうえで一つ彩夏ちゃんに確認しないといけない事がある。


「ちょっと彩夏ちゃんに確認したい事があるんだが」


 するとすぐに彩夏ちゃんがこっちに気付き、顔を近づけて、


「はいですの! 渉さんが確認したい事とは、わたくしとの婚姻届はいつ提出するかとかですの? それとも子どもは何人作るとかですの?」


 うん、違うよ。何言ってるんだろうねこの子。もう婚姻する予定が決まっているのか。そして俺との子どもまで考えているとか、このお嬢様の考えている事は良く分からんな。こっちが困惑している様子に、竹中が腹を抱えて、しかし噴き出さないように必死になって抑えている。


「そうじゃなくて。夢坂リリムはどこかの事務所に入っているのか、個人勢として活動してるのか確認したいって事でさ」


 言われて、少々ぽかんと彩夏ちゃんは緩んだ顔をしていたが、元に戻った。もしかして妄想を膨らませてたのか、この子。


「あ、そっちの方ですのね。てっきり婚約の方かと。あ、いえ、何でもありませんの。夢坂リリムは個人で活動してますの。どこにも事務所には入ってませんわ。それがどうかされまして?」


 なるほど。なら星野宮きらり、雷桜つばき、夢坂リリムの3人でコラボ生配信を企画してみたらどうだろうか。これなら人気が全員一気に上がる。VTuberは互いに互いを宣伝して、コラボしていくスタイルが主流だしな。


 3人が同じ時間に同時生配信、もしくは順番を決めて、それぞれのチャンネルでコラボをやっていけば良い。


「そっか。ならこれだけ可愛いVTuberが集まってるんだから、3人で定期的にコラボ生配信してみたらどうだろう。そうすればもっと登録者が増えるんじゃないか?」


 この提案にすみれ、竹中、彩夏ちゃんの全員がこっちを凝視してきた。こんなに美少女たちに見つめらえると、ちょっと気恥ずかしいのだが。そして最初にこの止まった話の口火を切ったのが竹中だ。


「おーー。良いじゃん。やろうよ。例えば、う~ん、そうだな。文字(おおかみ)さんゲームとかなら面白いよ、きっと」


 そして残りの2人からも好感触な発言が続いていく。どうやら良い思いつきみたいだな。


「確かにやらないなんて、もったいないわよね。兄貴にしては悪くない考えね」

「とっても楽しそう。さすが渉さんですわね。でもその前にわたくしとのコラボも忘れないでほしいですの」


 しかしそんなムードの中で、竹中がいきなり当たり前のように、


「文字(おおかみ)さんゲームってやるなら4人だよね。なら赤坂君も参加させようよ」


 と、無茶振りな発言しだす。おいおい、俺がやるつもりで言ったわけじゃないんだが。


「勘弁してくれよ。俺がそんなのには参加したくないからな。そもそも俺みたいな弱小配信者が混ざってるのは違和感があるだろ」

「あのさー、兄貴。確かに兄貴の登録者数はやっと300人超えたくらいだけど、裏方って言っとけばなんとかなるわよ」

「そうだよー、赤坂君。見る側は私達3人にしか興味ないだろうし、わき役として出たらいいよ~」

「それにこれだけ集まれば、女性視聴者もいますし、今時は男女混合配信も珍しくもないですの。だからやるしかありませんの、渉さん!」


 3人からの圧を激しく感じる。どうやらこれはやる方向で決まったみたいだな。


「ったく、わかったよ。それにその前に彩夏ちゃんとも配信するんだったしなぁ」

「ええ、それも今からお話をしますの、渉さん」


 そうして話が盛り上がっていると、メイドの上野さんが来ていた。


「皆様お待たせ致しました。今日のシェフ特製料理の数々です。どうぞ遠慮なく召し上がってくださいね」


 美味しそうな料理をワゴンで運んでくれて来て、テーブルに並べてくれ始めた。ワゴンっで来たって事は、どうやって来たんだろうか。不思議に思うと、どうもこの邸宅にはエレベーターが備わっている。テラスの隅によく見たら存在しているではないか!


「では失礼します」


 上野さんは並び終えるとワゴンを押してエレベーターに乗り、降りて行った。並ばれた料理は和洋折衷で、高級ホテルの料理そのものだ。匂いだけで涎が出てしまう。


「さぁ一旦話は置いといて、皆さん料理を頂きますの」


 こうして俺達は姫柊家のシェフの料理を夢中で食べ始める事にした。

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