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第1話 生意気な妹がVTuber活動をやってるなんて、冗談だと言ってほしい!



 俺の名前は赤坂 渉(あかさか わたる)。どこにでもいる高校二年生だ。そんな俺には双子の妹がいる。容姿端麗(ようしたんれい)頭脳明晰(ずのうめいせき)、スポーツ万能。 非の打ちどころのない妹。


 見た目も綺麗な黒髪ロングヘアーで、スタイルも抜群。それが我が妹、赤坂すみれだ。ただ性格を除けばの話だが。


俺はいつものように学校で自席に座っていると、


「え!? 何このラブレターの数。全部本物か怪しいくらいの数じゃん」


 唐突に見知った女子生徒の声が響く。驚きの声を出した張本人は、俺とすみれの友人である竹中朱里(たけなか あかり)だ。かれこれすみれとは中学からの付き合いで、ショートボブの茶髪で、とにかくお茶目で人をからかうのが好きな奴だ。


「朝登校して下駄箱を開けたらこの通り。びっくりだよ~」


 すみれの机の上には、かなりの数が置かれた色とりどりのラブレターが乗っている。ざっと数えても30通以上はありそうだ。中には男子ではなさそうな可愛い装飾を施された物もあり、女子生徒の手紙も交じっているように見える。


 もらった当人も少し困っているものの、まんざらでもなさそうな表情をしている。


「でも何で今日に限って急にこんな大量のラブレターが届いたんだろうね?」


 竹中が聞くと、すみれは目を閉じ腕を組む。そして何か思い出したのかパチっと目を開けた。


「そうよ。あれよ。以前漫画の話をした時、私もラブレターって一度で良いから欲しいなって言ったじゃない。きっとあれよ!」

「それでこれだけの数が来るなんて、ラブコメ漫画の世界じゃないんだから。すみれ可愛いし、分かるけどさ。むしろ今までないのが不思議でしょ」

「あはは。何かそんなふうに言われるとさすがに恥ずかしいね」


 恐らくこの教室にも手紙を出した男子もいて、すみれの方を見ているのが分かる。確かに我が妹は可愛い。だからこんな馬鹿げた事もありうるのだろう。


 そんな光景を欠伸を噛み殺しながら後ろの席で俺が眺めていたら、すみれがこちらに気付いた。即座にこっちの席まで来ると、どこか自慢気味に言い放つ。その手にはしっかりラブレターを持って。


「おはよう兄さんっ。私今日こんなにラブレターもらっちゃったの」


 誰もが惚れてしまいそうな笑顔ですみれは話しかけてくる。こいつは家では兄の俺に対して、とても態度が悪い。だが外面だけは別人のような立ち振る舞いをするのだ。


「へー。そうか。そりゃ凄いなー」


 可愛らしい顔とは裏腹に、これはもらった手紙を俺に見せびらかしてきているのが分かる。すみれは目の前でいつの間にか用意した袋に入れながら、その都度こちらをちらっと見てくる。


「もぉ、ほんとは羨ましいんでしょ? 兄さんも素直じゃないなぁ。ふふっ」

「そこまで多いと、むしろ全く羨ましくないぞ、我が妹よ」

「いやいや、どうしてそんなやせ我慢してるのか私には全くわからないんですけど~?」


 そんなどうでも良い話をしている間に、朝のチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。


 仕方なくすみれはむくれ顔で自席へ戻って行く。振り向き様に睨んできていたが、気付かないふりを俺はする。どこかで舌打ちする音が聞こえたのは気のせいだろう。我が妹は今日はやけにご機嫌斜めな様子であった。ま、いつもの事なんだけどな。





 学校から帰宅すると早めの夕食、風呂を先に済ます。そして早々に二階の自室の部屋でデスクトップPCを立ち上げて、椅子に腰を下ろす。


 少し前は格ゲーをやるしかない、味気ない生活だった。だが最近クラスの友人がはまっていると言うVTuberを勧めてきて以来、今ではすっかりハマってしまった。


 以前から動画配信サイトやLive配信サイト等は暇つぶしに見ていた。


 しかしVTuberはまた新しい刺激を俺に与えてくれた。画面上で動くイラストやCGの女の子が動画やリアルタイムでゲームをしたり、歌を歌ったり雑談する姿はとにかく魅力的なのだ。


 特に最近よく見るVTuberが星野宮(ほしのみや)きらり。彼女のプロフィールは、憧れの宇宙飛行士を目指す17歳。ブロンドの薄い金色の髪。頭の髪飾りに大きな星を(かたど)ったリボンを付けている。清楚で明るい性格が彼女の人気を高めていた。Live2D型モデルの彼女は本当に可愛らしい。


 今ではチャンネル登録者数は5万人程で、友人(いわ)く2ヶ月くらい前に個人勢としてデビューしたらしく、これから人気が一気に上がるだろう、期待の新人らしい。


 俺は今日もその星野宮きらりの生放送を視聴するために支度を整えたのだ。少しゲームをしたり、他の配信や動画で時間を潰していたが、時間が経つのも早く彼女の配信が始まる時間になっていた。


「もしもーし、みんな聞こえてる? こんきらり~。今日もよろしくねー」


 Live放送が始まり、チャット欄のコメントが次から次へと矢継ぎ早(やつぎばや)に書き込められていく。それも全てみんな一様に「こんきらり~」と挨拶で埋め尽くされる。


星野宮きらり「今日はSNSツールで言っていた、激ムズゲーム、空飛ぶおじさんをやっていきまーす。クリアできなくてもまた別日にやるからよろしくね。それじゃあ早速行きますか―!」


 そうして星野宮きらりが喋っている間にも、少額ではあるがスーパーチャット(投げ銭)が投げられる。人気VTuberにはよく投げられるが、この星野宮きらりも最近それなりにスパチャが投げられるようになってきている。


「待って、落ちる! 待って待って、ストップストップ。ダメダメ!」


「あああああ――! 結構進んだのに。悔しい悔しい。誰か時間を戻して~!」

 

 ――ドンッ! ドンッ!


 余程悔しいのだろう、星野宮きらり側の音声から机を叩く悲痛な音が聞こえてくる。


 そんな様子を画面越しから見ていると、俺も(わず)かな金額だがスパチャで応援したくなり、未成年でも利用できるバンドルカードで投げ銭を送る。少し気恥ずかしいのもあるが、自分のコメントに色が付くと少し嬉しいものだ。


 他の視聴者もスパチャを送ったり、労いのコメント等のコメントが止めどなく流れていき、また新しいコメントが流水が如く過ぎていく。それから3時間が経過していた。実況している彼女も疲労が溜まってきているようだ。


「ふぅー。ちょっと水分補給、水分補給しないとねー。まだ先は長いからね~」


 と言いながら、星野宮きらり側からペットボトルで飲み物を飲む音がわずかに聞こえた。


 ふと自分もずっと放送を見続けていて、水分補給やトイレにも行っていないなと気付く。


 スマホの画面で時間を確認すると深夜の2時を過ぎて、日をまたいでいた。配信はまだ少し続くようなので、俺も水分補給をすることにした。


(何か飲み物でも取ってくるか)


 重い腰を上げ部屋を出る。そのまま一階のリビングへ降りて行く。そしてトイレを済まし、冷蔵庫から飲み物を取って二階に戻ろうと階段を上ろうとした。そこで少し異変に気付く。


 いや、それは今までもよくある事だ。なのでそれほど気にも留めなかった。が、何故か今はやけに妹の部屋から出る騒音がうるさく感じた。今のこのご時世だ。隣家への騒音問題もある。


 かと言って両親に報告したところで悲しいかな意味がない。なにせ両親はとーっても妹には甘く、それに優秀な娘だと知っているので信用もしている。良い意味で放任主義を貫いている。


 だからこれくらいの事など、友達と楽しく電話して話が弾んでいるくらいの認識しかないのだ。まぁ俺にも両親は厳しくないのを考えると、結局甘やかされているだけなのかも知れないが。


 が、しかしだ。だからこそ兄である俺が、ビシッと注意するべきなのではないか? うむ。そうだ。兄なのだからここは威厳の一つや二つ見せておくべきだ。


 そうと決まればやることは一つ。一気に扉を開けて、一言注意する。これで万事OK。俺は階段を上がり、入室禁止の張り紙が貼られた妹の部屋の前に来た。ここずっと入った事がないので少し緊張する。


 一応念のためノックをする。コンコン。当然反応はない。相変わらず、盛り上がっているのか、すみれの声が漏れてくる。


 ノブに手をかけて鍵がかかってない事を少し不審に思った。いつもはかかっているのだが、珍しく鍵はかかっていない。そのままノブを回し終え部屋を一気に開け放った。


「おい、こんな遅くにどんだけうるさくしてるんだ! 一体なにして……」


 伝えたい事を喋ろうとしていた事を驚きで止めてしまった。


 すみれの座っている机には見たこともない高スペックのデスクトップPC、高そうなマイク、良くわからないカメラ、いくつかのゲーム機、それに何か知らない四角い物に、防音材らしきもの、蛇の如く繋がったケーブルの数々とスマホ。そして現在進行形でゲームをしている。


 どうやら空飛ぶおじさんをプレイしているらしい。


 空飛ぶおじさん? そしてパソコン画面には動きが固まっている星野宮きらりが映っている。やたら情報量があり過ぎて、俺はその場で固まっていると、すみれが席を立ち、わなわなと拳を握りしめて、


「だっ……! 誰が、誰が勝手に入って良いって言ったぁぁぁー!」


 言い放つと同時に妹渾身の右アッパーが俺の顎を打ち抜いた。


「ゴミ、かす、死ね、ハゲ!」

「がはぁぁっ!」


 俺の意識は罵詈雑言(ばりぞうごん)を聞いた後に、激しい衝撃と同時にプツリと途切れたのであった。

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