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Solitude

誰も知らない人がアイスコーヒーを飲みながら考える内容です。

 今日はいつもと違うことをしよう。


 そう思ったのはいつもの細い路地に入る手前だった。


 なぜそうしようと思ったかは分からないが、そうしたくなった。


 うん、そうしよう。


 黄色いリュックサックを直し、路地に入らずそのまま歩く。


 いろんな人がアーケード街を歩いている。


 みんな目的があるんだろうな。


 俺はない。


 俺はただ歩いているだけだ。


 ハンバーガーチェーン店の看板が視界に入る。


 アイスコーヒー飲みたいな。


 そう思い店に入る。


 店員さんが元気よく「いらっしゃいませ」と呼びかける。


 カウンターの前に立つ。


「アイスコーヒーM、一つ」


「かしこまりました。ミルクとシロップは何個に致しましょうか?」


「二つづつでお願いします」


 料金を払い、紙のカップに入ったアイスコーヒーとミルクとシロップ各二個づつを持って、二階に上がる。


 この時間は作業中のサラリーマンや喋る主婦たち、また喋るご老人たちなどがいた。


 奥の席は……空いてた。よかった。


 奥の席に向かう。しかし、よく見たらカバンが置かれていた。


 先約がいたか。


 カウンターにするか。


 そのままカウンターに座る。


 カウンター席は好きじゃない。


 人を観察できないし、自分の背中を指されているんじゃないかと思ってしまう。


 また今のようにネガティブに考えてしまう。


 ミルクとシロップをアイスコーヒーに入れ、ストローで混ぜる。


 アイスコーヒーが黒色から茶色に変わる。


 確か、コーヒーを罵る言葉は泥水だったっけ。


 泥水か……。


 茶色い水面を見つめる。


 あの時と似ているな。


 あの時も今のように一人で泥水を見ていたな。


 首を軽く横に振る。


 思い出すのをやめよう。


 ただ虚しくなるだけだ。


 一口いただく。







 まずい。







 美味しいコーヒーを飲みすぎたか。


 でも飲み干さなければ、もう一口飲む。


 まずい。


 もう一口。


 まずい。


 もう一口。


 舌が慣れてきた。飲み干せれるな。


 水面をまた見る。




『お前は役立たずだ』




「はぁぁぁ」


 わかっている。俺は劣等だ。凡人にはなれない。


 昔からそうだ。みんなが右を向いていたら、俺は左を向いてしまう。


 そっちが面白いんじゃないか、楽しいんじゃないかと思ってしまうからだ。


 人とは違う。


 だからいつも独りだ。


 理解してもらえないし、理解してくれないし、理解しようとも思わない。


 それが世の中であることを俺は理解している。


 アイスコーヒーを飲む。


 やっぱりまずい。


 まずくて笑えてくる。


 笑えてくるな。まだ設定も書けていないのに小説家を目指そうなんて。


 高校生の時、小説家になるって言ったら、同級生全員に笑われたな。


 みんな、なれるわけないと見下してたな。


 誰も応援してくれなかったな。


 アイスコーヒーを飲む。


 本当にまずい。


 なんだこの味は?


 泥水じゃないか? 飲んだことはないけど。


 知っているんだ。世の中結果論であること。


 できたら賞賛。できなければクズ扱い。


 誰も頑張っている姿を褒めはしない。


 当たり前だ。それが当たり前なんだ。


 時間が俺を急かす。早く書けと。


 設定を書かなくちゃ、設定を書かなくちゃ、設定を書かなくちゃ。


 まずいなぁ、アイスコーヒーを飲んでても意味ないのに。


 まずいなぁ、アイスコーヒー飲んでる時間がもったいないのに。


 なに悠々と俺は飲んでいるんだ。


 時間がない、時間がないんだ。



 ズズ、ズズズズズズ



「はぁぁぁぁぁぁ」



 なんとか飲み干した。


 本当にまずかった。


「やっぱダメだな、俺」


 本当に弱い人間だなぁ。


 まだまだ未熟者だ。


 さて、行こうか。


 俺は紙のカップとストロー、ミルクとシロップの容器をゴミ箱に捨てる。


 階段をおり、店を出る。そして、歩いてきた道を戻る。


 あの細い路地が見える。


 やっぱり行こうか。


 俺はいつものようにアーケード街の細い路地を通るのだった。


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