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救世1 ヤンキーを成敗

(……啓示、きたぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!)


 神の啓示を受けたことを、俺は感覚的に一瞬で悟った。あまりの爽快感に、俺は心の中で目薬のCMみたいに叫んでしまい、勢い余って世界陸上の司会もしてしまいそうな気分だったが、口に出さず、押し黙った。


 そう、俺は二代目イエス・キリスト、田中勇磨だ。身長170センチ、体重60キロ、フツ面、特技なし。スマブラとマリオカートが大好きなただのしょーもない男子大学生から、一気にステップアップして、今や救世主……


 俺は恍惚とした表情で荷物をまとめ、学生食堂に向かった。


「――うっ、や、やめてくれよ」

「あん? 調子ぶっこいてんじゃねえぞ、てめぇ」


 デザイナーが無駄なこだわりを発揮したと思われる食堂までの複雑で入り組んだ道のりははっきりいって天罰に値するレベルでむかつくが、しかし俺はひねくれ者の才能を発揮して、一番人通りのなさそうなアンダーグラウンド的な通路を歩いていた。そしてカツアゲの現場に遭遇したのだ。


「金出せ、じゃねぇとこの前みてーに、お前のぶっさいくな彼女の前で大恥かかせてやるからな」

「ひぃっ、もう勘弁してよぉ、僕がいったい何をしたっていうんだぁ」

「っせーな、てめぇ俺が教室で騒いでるときにガン飛ばしやがっただろうが、忘れたとはいわせねぇぞ、このカスヤロウ!」

「そ、そんなぁ、言いがかりだぁっ――うっっ! ぐはっ……」


 弱々しい細身で、ギンガムチェックの眼鏡くんが、ライダースジャケットを着込んだ鼻ピアスのヤンキーに一発殴られ、みぞおちに入ったのか、その場で倒れ込み、嘔吐した。


「うげぇっ……ごはっ」

「けっ、こんな程度では吐きやがって、情けねぇ。おら、さっさと金出せ、カス」


 俺は頭がぷっつんきて、さっそく今日の「救世」を執行することにした。いつもならあんな野蛮なシーンを見たら震え上がって見て見ぬふりをしてしまい、勝手に罪悪感を背負い込んで苦しむところだが、今の俺は違う。


 圧倒的自信、それから全能感。これならいける……


 俺は啓示によって授かった能力を、便宜上、【スキル】と呼ぶことにした。そして今回使うのはスキルの中でも最もシンプルでクールな【喧嘩番長】というものだ。


 俺が近づいていくと、ヤンキーは見られたことを知ってにらみを効かせてきた。こっちにくんな、ほっとけってか? ふざけんじゃねぇ、俺はカツアゲとかイジメとか大っ嫌いなんだよ、死ね。


「……おい、なんだてめぇ、文句あんのか」


 俺は背の高いヤンキーを下から鋭い眼光でにらみつけ、つばを吐きかけた。まさか俺みたいな凡庸な見た目の人間にこんな大胆にけんかを売られるなんて思いも寄らなかっただろう。ヤンキーは一歩も動かず、身じろぎもせず、頬に付着した唾液がゆっくり垂れ落ちた。


(……左のフックか)


 ヤンキーが怒りの沸点を超え、唐突に左拳をサイドから振り抜いた。しかし空転。俺はその直前にヤンキーの行動を先読みして、頭を下げ、最小限の動きでかわした。腹筋ががら空きだったから、適当に2発、レバーブローを浴びせておくと、ヤンキーはぶざまなうめき声を上げた。


「ぐぇっ……」


 顔を歪ませて後ずさりした。ヤンキーの頭が下がるのを見て、すかさず飛び膝蹴りをかます。額がかち割れたのではないかというほどのものすごい衝撃音がして、ヤンキーは後ろ向きに倒れ込んだ。


「ぐぁっっ、いってぇ、誰なんだよ、お前っ、だぁーっ! くっそ、頭が痛ぇ!」

「俺は田中勇磨。二代目イエスだ」

「はぁっ? なんだよそれっ、――うがぁっ!」


 起き上がってきたところに蹴りをいれ、顔面に炸裂した。鼻血が宙を舞い、ヤンキーは静かになった。


「……あ、あ、あ」


 俺が振り返ると、ゲロっていた眼鏡くんが動揺して足がすくんでいた。


「大丈夫。報復はないようにしておくから。吐いた分、どこかで飯食ってこい」

「あ、ありがとうっ」


 彼は礼を言うと、すぐに走って行ってしまった。俺は気絶中のヤンキーの額に手を触れ、【忘却】のスキルを使い、俺と眼鏡くんの記憶を消し去ってから、トイレに向かい、【丸裸】のスキルで全裸にさせた後、大便を流していない個室にぶち込んだ。


俺は気が済まなくて、トイレの清掃用のホースを持ってきて、スキル【緊縛】を用い、ヤンキーを縛って、天井から逆さ吊りにしておいた。ちょうど、意識が戻って状況が分からず暴れた衝撃でホースが緩み、頭から大便の溜まった水たまりにポチャンとなるように。


トイレから出ると、脳内で声が聞こえた。


《なかなかやるやん。そうそう、こういうのがええねん、ざまぁってやつやな、これで今日はノルマクリアや。あとは自由行動、好きにせぇ》

 俺は声が聞こえなくなってから、小声で、なんで関西弁なんだろう、とつぶやいた。





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