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前編

こちらでは初投稿です。サラリとした婚約破棄ものを。

前後編+後日談の3本を予定しています。

「私はここにアクャク公爵令嬢との婚約破棄を宣言する!お前に国母は務まらん!!」


卒業パーティの煌びやかな会場の中心で、この国の第一王子がドヤ顔を決めた。周囲の反応は様々…ではなく、なんかアホなこと言い出したぞといった冷めた空気が広がる。

ビシリと指を指された一人の令嬢はキョトンとした表情で一言。


「は?」


令嬢らしからぬ反応だが、それほど突拍子もないことが起こっているのだ。


「ふん、私は知っているのだぞ。お前は私とタマーノの仲に嫉妬し、彼女に嫌がらせをしただろう!!」

「ふえぇ、カンチガイン様ぁ…タマーノ、怖かったよぅ」


周囲の反応は一切気にせずに話を進めるカンチガイン。近くにいた小柄な少女を呼び寄せその肩を抱きながら、アクャクを睨む。


「え、婚約?嫉妬?といいますか、そちらの令嬢はどなたですか?」


物語の中心に巻き込まれながらも、まったく話についていけていないアクャク。困惑した様子でカンチガインとタマーノを見比べる。

周囲にいる卒業生や在校生はもちろん、その保護者たちも先が読めずに顔を見比べている。


「シラを切ろうとしたって、私は誤魔化されんぞ!」

「そんなつもりはないのですが…」

「ならば教えてやろう!お前はタマーノの教科書をゴミ箱に捨て、ドレスを破いたな!!」


ドヤ顔再び、ズビシと音が出そうな勢いでアクャクに指を突きつける。なにが起こっているのかいまいち理解できてはいないが、このままでは冤罪をかけられてしまうことだけは理解した。

誰が相手であろうと、公爵令嬢としてそんなことは認められない。


「いえ、そんなことはしておりません」


先ほどまでの狼狽えた様子はみじんも見せず、毅然とした態度で罪を否定した。しかし、カンチガインは止まらない。


「他にも、彼女に水をかけたり大切なものを盗んだり…あまつさえ、先日は階段から突き落としたそうだな!」

「しておりません。私がやったという根拠はなんでしょう?」

「根拠は私の愛を受けるタマーノに対する嫉妬だ。お前しかいないだろう!」


これにはアクャクだけではなく、周囲からも失笑が漏れた。万が一嫉妬だとしてもそれは動機であり、器物破損や窃盗、傷害といった罪を問い詰める根拠になるはずがない。

だがカンチガインは自信満々にアクャクをにらみつけている。これで笑うなというほうが無理だろう。


「…話になりませんね、では詳細な日時を教えていただけますでしょうか?そうですね、では罪が重そうな階段から突き落とされたという件からいきましょう」

「タマーノ、怖いかもしれないが話すんだ。必ず私が君を守るから」

「カンチガイン様ぁ…タマーノ、がんばる!」


いちいち茶番を挟まないとしゃべれないのだろうか?微妙な表情を浮かべながらアクャクが促すと、怯えた様子で口を開いた。


「えっと、一昨日の放課後に女子寮の西階段でぇ…。怖い顔したアクャク様にカンチガイン様から離れなさいよ、と言われて…あ、愛し…てるから無理ですって言ったら突然…」

「あぁ、タマーノ!!恐ろしかっただろうに、私との愛を取ってくれたのだな!!」

「カンチガイン様…当たり前ですぅ。私は、心からあなたを愛してるから!」


感激した様子でタマーノを抱きしめるカンチガイン。そんな様子を冷めた目で見つめる会場の人々。事実はさておき彼の言い分だけをまとめると、彼は婚約者がいるにもかかわらず他の女性と愛を誓い合ったのだ。そして、邪魔になった婚約者を排除するため婚約を破棄しようとしている。

これでは、まるっきり順番が逆である。王族として、男として、それ以上に人としてどうかしている。

もちろん、婚約者の存在を知っていて応えたタマーノも同罪だ。


「では反論させていただきますね。まず一昨日の放課後とのことですが、私はその日公務を手伝うため朝から王城にあがり、帰宅したのは昨日の朝です。証人は王城の方々がなってくださるでしょう」

「え、うそぉ!?」

「そ、そんなの途中で抜けてくるなりやりようはあるだろう!?タマーノが言っているんだ!!」


王城で公務の手伝いという完璧なアリバイがあることに動揺するタマーノとカンチガイン。タマーノの方には、ヤバっという焦りも見える。

そこでスッと前に進み出てきたのは、保護者たちだ。


「失礼ですが殿下、それは無理かと存じます」

「ですな、私も一昨日アクャク嬢にお会いしたがそんなことは無理でしょう」

「第一、放課後の時間帯は隣国との外交調整を行っていたはずだ」

「その後にはディナーの手配やおもてなしをしていたな」


保護者たちはもちろん貴族であり、王城での公務についているものも多々いる。口々にアクャクのアリバイを補強し、周囲の視線もそれに伴い厳しいものとなる。

公爵家の令嬢に、冤罪をかけようとしたのだ。カンチガインはわからないが、嘘の証言をしたタマーノに関しては完全に悪意がある。

黙ってしまった二人に、アクャクは残りの罪状を詰めていく。


「教科書を捨てた、ドレスを破いた、水をかけたなどの日付は覚えてらっしゃいますか?」

「お、覚えてないですぅ」

「では、私がやったという証拠は?あぁ、もちろんあなたが見たという以外で」

「…ない、ですぅ」

「最初にも言いましたが、私はあなたを知りません。また、公務や卒業後の準備で忙しくほとんど学園へは来れていません。そんな無駄なことに時間を使う余裕はないのです」


俯いてしまったタマーノに深くため息をつく。公爵家の名に傷をつけるようなことをしなければここまで強く言うことはなかったが、彼女は…彼女たちは個人間という一線を越えようとしたのだ。自業自得である。

しかし、そこで黙っていたカンチガインが吠えた。


「今の言動こそ、お前がタマーノをいじめていたという動かぬ証拠ではないか!!お前のような悪女、この国から追放して…」


バーン!!


カンチガインがアクャクに国外追放を言い渡そうとしたその瞬間、会場の大扉が勢いよく開かれた

。そこから現れたのは、近衛騎士たちに守られたこの国の最高権力者である。


「父上!!」


劇的に婚約破棄をし、断罪をし、タマーノとの婚約を発表するつもりがうまくいかずイライラしていたカンチガインは、喜びの表情を国王に向けた。

しかし、会場の中心…茶番の中心に向かう国王の表情は無である。隣に並ぶ王妃は、複雑な面持ちでカンチガインを見つめている。


「父上、このアクャクはか弱いタマーノに陰湿ないじめを繰り返した悪女です。国母になんてできません。私は国のためにもアクャクとの婚約を破棄し、優しく清らかなタマーノを妃として迎えたいと思っております!!」


これで全てがうまくいくと信じて疑っていない表情で、意気揚々と国王に訴えるカンチガイン。国王は若干の困惑をにじませた視線でカンチガインを見つめると、ゆっくりと口を開いた。


「…お前は、なにを言っている?」

「え?ですから、アクャクとの婚約を破棄して…」


国王の言葉と態度に戸惑うカンチガインに、アクャクが一歩前に出た。


「言うタイミングを逸しておりましたが、私とカンチガイン殿下の婚約は2年前に白紙に戻っております」

後編は明日投稿します。

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