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Gawl of the nightmare ーガウル オブ ザ ナイトメアー  作者: Guren
悪夢の魔剣士編 勿忘草の女神の章
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勿忘草の女神の章 外伝 『クラウディアの生涯』その2

『前回までのあらすじ』

 貴族バートリア家に生まれたクラウディア。彼女の兄妹は常軌を逸した者達だった。

 色欲狂の長兄ランフォート。男色趣味の次兄ルーファス。そして覗きを日課とし暴飲暴食で膨れ上がった愚妹ロクサーヌ。

 ルーファスはランフォートを殺害し、更には男色趣味を過激化させていく。そんなある日、妹ロクサーヌが行方不明になった末に無惨な遺体となって発見されるのだった……。

 その人生という名の舞台は血と死に満ちていた……。

 淡々と語られる常軌を逸した人物達。彼等の思考が、行動が、感情移入を許さなかった。

 まるで架空フィクションの登場人物のように、彼等は舞台に登場しては踊り狂い、そして退場する。

 この舞台に慣れ始めた頃、更なる常軌を逸した演者が現れる事に震え、同時に期待もしていた……。


 ロクサーヌの葬儀からしばらく経ったある日、私は真実を知る事になる。意外とは感じなかった。ただ常軌を逸していた。ただそれだけだった。

 それはルーファスがウィリアムを含めた友人達と毎晩のように飲み歩き、飲み足りずに屋敷に帰ってきては飲み直す。そんないつも変わらぬ夜だった。

 くぐもった騒がしい声が床を通り抜け、品性を欠いた宴の音が床に就く私の耳に突き刺し続け。私の心臓は激しく脈打っていた。思考は徐々に怒りに支配されていった。いずれ来るであろうと予期していた臨界点がたまたまあの日だった。気が付けば私は刃物を手に自室を出ていた。

 素足が足音を消し、ひんやりと伝わる床の冷気が私をより一層冷酷にしていく気がした。

 馬鹿騒ぎの声へと近付くにつれ、話の内容が私の耳に飛び込んできた。

 それは血族殺しの告白であり、残虐を楽しむ快楽殺人の郷愁であり、歪んだ正義の所業だった。

 あっさりとネタばらしをすれば、ロクサーヌを殺害した犯人はルーファス達だった。ただ、真実を本人達の口から聞かされても、私は眉一つ動かさなかった。感情の揺らぎさえ起きなかった。

 口には出さないが犯人など皆分かっていたのだ。だから誰も探さない。捕まえようともしない。現実はいつも容赦なく、真実はいつも無常だ。

 ルーファスがロクサーヌを見る目は常軌を逸していた。まるでごみ屑を見るような目で見ていた。いや、本物のごみ屑を見ても人は常軌を逸した目など向けない。ルーファスのそれは、まるでどんなに酷い仕打ちをしても許される玩具おもちゃを見つけた性根の腐った悪童クソガキの目だった。

 道の片隅で、或いは日の差さない路地裏で、そんな目をした奴等が虫や弱った犬猫の命を楽しそうに弄んでいる光景を馬車の窓辺から何度か見掛けた事がある。手足をもいで動けなくなった姿を笑ったり、石をぶつけて血が出る事にはしゃいだり、そんな目をした奴等に悪意などなく、ただ純粋に好奇心から来る衝動に従って事を行なっているのだと思った。

 そんな奴等は、皆とある事態を想定する能力が欠如している。それは立場の逆転と報復と裁きだ。自分達が弄ばれる側に立たされる事も、弄んだ相手、またはその仲間に報復される事も、罪が暴かれ罰せられる事も奴等は想像も出来ない。

 ならば教養ある貴族として奴等に享受してやらねば。私はそう思った……。


 己の過去を回想し、眺めるクラウディアはほくそ笑んでいた。常軌を逸するという言葉を使いながら、本人はこれから己の取る行動がどれほど悍ましい行いか知りながら、それでも笑みを浮かべる彼女の横顔には、隠し切れない狂気が潜んでいた。

 聞き手に徹す事しか為す術の無いアルゴンにとって、クラウディアの横に立ち続けるこの状況が、言語は通じるが決して分かり合えない、決して逆鱗に触れてはならない獣と同じ檻に入れられているような気持ちにさせた。だがしかし、次に何が起きるか分からない緊張と、期待を覚えてしまう背徳に、魅せられている自分がいる事にも気付いていた。

 そんな情緒揺れるアルゴンを余所に、クラウディアの回想は感情を昂らせ饒舌になっていくのであった……。


 実行すると決めた私の行動は早かった。翌日になってルーファス達が外出するのを見計らい、ルーファスの部屋を物色した。部屋の扉は施錠されていたが、亡き愚妹の日課の一つであった忍び込みの時に使用していた合鍵がある為問題なかった。

そして物色すれば出るわ出るわ。女性物の下着やら男性器を精巧に模した造形物やら得体の知れない品の数々。それに猿轡や手錠や使い込まれた縄など、とても自慢できない趣味趣向の数々に私は思わずため息を吐いた。やはり兄妹の中でまともなのは私だけだったのだとつくづく思い知らされた。また、これらの品を見ていると、長兄ランフォートがまともの類だったと思えてしまうのだから摩訶不思議だ。

次に私は机を調べると日記らしきものを発見した。そこにはウィリアムやその他数多の友人達との熱く激しい情事が事細かく描写されていた。訂正しよう。これは日記ではない。

またこれには奴等が集まっては行っている儀式についても書かれていた。奴等は男性器を崇拝し、男尊女卑の思想を旨としていた。女は男より劣り、出産か男の性欲の吐け口以外に存在価値の無い、言わば男のなり損ない。または奇形生物とまで罵り、女を必要としない自分達をより完璧な存在だと書かれていた。断定しよう。これは日記ではない。

更に読み進めると、奴等はより過激な思想を持っている事が分かった。それは女の排除である。特に奴等は男を誘惑する娼婦を悪の権化と考え、排除こそが正義と書かれていた。その為に娼婦を殺害する計画を企てているとも書いていた。そしてその第一被害者が何故かロクサーヌだったのだ。愚妹は娼婦ではないし、あの容赦で娼婦が務まるとは到底思えないのだが……。

 あの日、ロクサーヌは日課であるルーファスとウィリアムの情事を覗きながら自慰行為に興じているのを遂に見つかってしまったようだ。そのままルーファス達に捕まり、奴等のたまり場に連れ去られ、結果あの醜く哀れな末路に至ったようだ。

 この日記ならぬ怪文書にはその経緯が、まるでいつでも思い出し楽しめるよう事細かく鮮明に書き込まれていた。

 どのように痛め付け、どのような反応をしたか。凌辱され尊厳を奪われた愚妹が発した嘆きや悲鳴を一言一句嘲笑しながら記されていた。

 妹は、ロクサーヌは、命が尽きる最期の瞬間まで私の名を呼んで助けを求めていた。そう記されていた……。

 その事実を知った瞬間、私は怪文書を落とし思わず息を飲んだ。込み上げてくる胸の痛みと目頭が熱くなる感覚に、私は激しく動揺したのを鮮明に覚えている。

更に怪文書を読み進めると、次なる被害者の名が記されていた。

 それは私の名前だった。娼婦を狙うのではなかったのかと指摘してやりたくなった。

ルーファスは、私を美しさで世の中の男を惑わす淫売の化身と文面で罵っていた。文面でどんな陰口を書かれようが構わないが、命を狙われるのは失敬だと思った。やはり奴等には然るべき対応が必然なのだと、私は覚悟を新たにした。もう迷いは無かった……。


その日の夜、ルーファスが帰宅した。連れはウィリアムだけだった。十分に酔っているようだったが、二人は飲み足りないとばかりに千鳥足で酒を探していた。  

 そんなルーファスの前に、私は冷えたワインを持って姿を見せた。ルーファスは私の手にするワインを見ると吸い付くように手を伸ばし、礼も言わずそれを奪い取った。そしてウィリアムの肩に手を回し、二人仲良く自室へと向かっていった。

しばらくして、私はルーファスの部屋の前を何度か通り、聞き耳を立て、ベッドの軋む音がしない事を確認すると、鍵穴から中を覗き込んだ。ちょうど鍵穴の前にベッドがあり、二人は全裸で眠っていた。これがロクサーヌの見ていた光景か。と心の中で呟きながら、私は妹の残した合鍵を使って中へと入った。

 完全に寝ているとはいえ、私はできる限り音を立てずに二人へ忍び寄った。よく眠っている。それもそのはずだ。何故なら二人が飲んだワインには睡眠薬を入れておいたからだ。無理矢理起こさなければ明日の昼まで起きはしないはずだ。

 だが二人に明日の昼まで生きていてもらうつもりはなかった。私は用意していた縄に当て布を当てがい跡が残らないようにしてウィリアムの首に巻き付け縄を閉めた。ウィリアムは目を見開いて跳ね起きると手足を激しく動かして抵抗した。まるで叩き潰されてひっくり返った死にかけのゴキブリみたいで滑稽だった。更に滑稽だったのは手足の止まり方もゴキブリと同じだった事だ。止まったと思ったら痙攣し、しばらくそれを繰り返しやがて完全に動かなくなった。

次はルーファスである。私は動かなくなったゴキブリから上着を脱がせるとそれを衣服の上に着た。そして壁に掛けてある大小の剣を取り出すと、短い方を手に取り空いている腕でルーファスを抱え上半身を起こすと勢いよく彼の腹に短剣をねじ込んだ。ルーファスも起きたが口を押さえながらそのまま馬乗りになるように地面に押し倒した。ルーファスは後頭部を強打し白目を剥いた。私は更に短剣を抉るようにねじ込んだ。傷口から血が吹き出しゴキブリの上着は返り血で染まった。

 そして最後に上着を再びゴキブリに着せ、上半身だけを起こすとゴキブリの脳天へ残った剣を叩きつけた。剣はゴキブリの脳天から額の生え際の位置まで頭を引き裂いた。ゴキブリの顔は真っ赤に染まり、目玉がほんの少し飛び出て寄り目になり奇妙奇天烈な顔になった。

後は怪文書を持って誰にも見つからないように部屋を出て、鍵を閉めて何も無かったかのように浴室へと向かう。体を綺麗にした後はワインを片手に合鍵を妹の部屋に戻して自分の部屋に戻った。

 その日の夜は不快な軋みに邪魔されずに久しぶりに熟睡する事ができた。


翌日。私は使用人の悲鳴で目を覚ました。だが驚きはしなかった。最初からこの悲鳴を目覚ましにするつもり

だったからだ。

 部屋の扉が叩かれ名前を呼ばれた。私は慌てたように扉を開けた。廊下には使用人達が集まっていた。

 冷たくなった二人はシーツを被されていた。私は二人に駆け寄り、わざと恐る恐るシーツを捲って見せた。ゴキブリは昨日より血の気を失い更に奇妙奇天烈な顔になっていた。それを見た私は笑いを隠す為に泣き真似をした。うずくまりながら腕の中で笑いを必死に隠した。

その後、保安官達がやって来て調べていたが、私は昨日の夜二人が言い争うような声を聞いた事、二人が実は同性愛者で恋人同士であった事、ルーファスにウィリアムが浮気をしているのではと、相談されたと狂言も混ぜて話した。

 保安官達は現場の状況からウィリアムの浮気を知ったルーファスが逆上し、ウィリアムを殺害しようとして刺し違う結果になり二人は死んだ。という素晴らしく無能で私が描いた通りの迷推理をしてくれた。


 それからというもの、バートリア家は呪われていると噂ながらに囁かれるようになった。それに拍車をかけるように、ルーファスと親しかった友人達が日を置かずしてたまり場としていた場所にて無惨な遺体となって見つかった。皆同様に、激しく切り付けられ、鞭打たれ、縛られ、最初見た時は豚の死体と見紛う惨状だったとか。

 まあ、家族の話ではないし、私の人生には関係ないから詳しく話す事もないだろう……。

 全ての真実を知る私は意に介さなかったが、呪いを恐れた使用人達は次々と屋敷を去って行った。中には死んだはずの兄妹達が屋敷を徘徊していると妄言し物狂いにまで成り果てた者達までいた。幸い生前の私は霊感など皆無だったおかげで、兄妹達を一度も見かける事はなかった。

 そんな私とは対照的に、両親は目に見えて憔悴し老いていった。華が枯れて朽ちていくかのように、日に日に老いていくその豹変ぶりは、まるで本当に呪われているかのようだった……。

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