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Gawl of the nightmare ーガウル オブ ザ ナイトメアー  作者: Guren
悪夢の魔剣士編 勿忘草の女神の章
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勿忘草の女神の章 外伝『クラウディアの生涯』その1

『前回までのあらすじ』

 大陸全土を巻き込んだ大戦が終わりを迎えて三年。

 四方を自然に囲まれたアナハイト領地では、傷や病を自らの血で癒す女神の伝説があった……。

 行方不明のソフィアを探すライファとアルゴンの二人。

 ライファと仲違いしてしまったアルゴン。打ちひしがれ心を閉ざしかけた彼の心を救ったのは、亡霊であるクラウディアであった。

 彼女は生前どんな人物だったのか、どう生きて、如何にして死んだのか。

 アルゴンはその真実を知りたいと願い出るのであった……。


 それはまるで、自分が透き通った存在となって間近で他人の人生を傍観しているようであった。

 誘い人を語り部として、赤裸々で一切の隠し事が無く、人間の強かさと愚かしさ、そして底知れない悍ましさを見せつけられる、まさに一人の女の人生という名の舞台であった……。


 私の生まれはアナハイトから遠く離れたとある領地だった。

 その領地を統治する領主の従姉妹が私の母で、父は下級貴族出身の婿養子だった。父は金勘定だけが得意で、ただそれだけの男だった。我が家での発言権など皆無で、私の人生に何らかの影響を及ぼした記憶は無いし、顔も声も朧げにしか覚えていない。正直興味が無いので父の話はこれで終わりにしよう。

 母の話は最後にするとして、私には兄が二人、妹が一人いた。代々バートリア家の血を引く者は、どこか常軌を逸した感性を持ち合わせると言われていた。それは私も含めて兄妹達も例外なく、脈々と受け継がれていた。

 長男のランフォートは、私が知る限り19歳までに38人の女を孕ませた色欲家であった。しかもその全てが死産となり、孕まされた女達も出産の時に断末魔を上げて死んだらしい。

 いつしかランフォートに抱かれると死ぬと噂になり、誰一人ランフォートに近付く女は居なくなった。

そんなある日、内に閉じ込めた淫気を抑えられなくなったランフォートは、屋敷に来ていた下の兄の友人であるウィリアムを見るや彼を襲ったそうだ。

 ウィリアムが静かになるまで殴り付け、破り捨てるかのように衣服を脱がすと、露わになった尻を手でこじ開け、露出した肛門に自分の陰茎を捩じ込もうとしたらしい。その時の兄の表情は、押さえ込まれていた抑圧をぶちまけられる穴を目の当たりにして恍惚としながら歪に口角を上げた獣のようだったそうだ。

 いざ欲望を解放せんと腰に力を込めたその時、突如部屋の扉を蹴破り、下の兄であるルーファスが剣を手に乱入してきたそうだ。

 それは一瞬の出来事で、弟の乱入に驚いたランフォートの脳天目掛け、ルーファスは剣を叩き付けたそうだ。ランフォートの頭は鼻の下まで裂けると、どっと果実を切り裂いたように血と言う名の果汁を吹き出したらしい。ルーファスは剣を兄の頭から引き抜くと、その体は引っ張られるようにベッドに横たわり、白いシーツを一瞬で紅に染めたそうだ。

 状況を理解し恐怖に震えるウィリアムに、ルーファスは駆け寄ると、大丈夫かと声をかけたそうだ。

ルーファスにとってウィリアムは友人、いやそれ以上の存在だった。ルーファスは返り血を浴びたその腕でウィリアムを強く抱き締めると、優しく彼の頬を撫でながら乱れた髪を直し、頭を抱えて力強く口付けをしたそうだ。

 ウィリアムもルーファスの体を抱き締め、ニ人は互いの背中を撫で回しながら接吻を繰り返したそうだ。

もう説明不要だろうが、ルーファスは男色家だった。まぁ貴族の間では男色趣味は珍しくない。ただルーファスが他の男色趣味と異なるのは、女性には一切の関心を示さない事だった。むしろ穢らわしいと言わんばかりに毛嫌いし、私や妹にも近付こうとしないくらいだった。

 そんなルーファスと友人ウィリアムは相思相愛の中で密かに互いの陰茎を可愛がっていたと聞いている。そんな恋人を襲おうとした兄をルーファスは一撃のもとに亡き者にした。

 その後ニ人は血で染まったベッドから冷たくなった兄を愛し合いながら蹴落とし、そのまま激しく二人だけの世界に酔いしれたらしい。その足元に横たわるランフォートの陰茎は、二人が果てるまで恨めしそうにそそり勃ち続けていたらしい。まったくもって怪談にもならない下世話だ……。

その一部始終を妹の口から聞かされたのは、ランフォートの葬儀が終わった翌日だった。

 つまり今まで話した出来事は、全て妹から聞いた話であり、それを私の記憶の中にいる二人の兄と友人ウィリアムを投影した心像しんぞうである。我ながら忠実に再現できていると思うぞ?

話を戻すとして、次は妹のロクサーヌの事を話すとしよう。読んで字の如く愚妹は容姿には恵まれなかった。いや、実際には恵まれていたのだ。曲がりなりにも私と同じ血が流れているのだから素は良かったのだ。その証拠に幼少期は私の時と同じく可愛らしいと持て囃されていた。

 しかし、それが原因かは分からないが、いつの間にか人一倍食欲旺盛になっていた。私より頭一つ背が低いにも関わらず、気付けば私の二倍はありそうな体格をしていた。更に人には誰しも何か得意な事が多少はあるものだが、ロクサーヌにはそれが無かった。何をやらせても身に付かず、終いには体格のせいか愚かなだけか、靴の紐さえ結べなかった。だから家族の誰もが妹を疎ましく思うようになった。食事の時間も妹だけ別にされた。まあそれは妹がすぐ空腹になって食事の時間を早めたのだから自業自得ではあるのだが。

 そんなロクサーヌは多くの日課を持っていた。その一つが覗きであった。妹はニ人の兄の情事を嗜好品を貪るように覗きながら、火照った自分の陰部を自ら慰めるのも日課の一つ。そしてその全てを恥じる素振りも見せず鼻息荒く私に話すのも日課の一つだった。

こんな兄妹達に囲まれていた私は、それが世の常識とはかけ離れた世界であるとは知りながら、動揺する事もなく、そして兄ランフォートの死に対しても、ああそうか。としか感じなかった……。





「……顔色が優れないようだが大丈夫か?」


 バートリア一族の生々しい過去を目撃し、堪らず血の気が引いたアルゴンに、クラウディアは配慮の声を掛けた。

 彼女に誘われ、過去の記憶をその場にいるかのように追体験し目撃したのは、赤裸々な貴族の生態。貴族と呼ばれる者達は、身体だけが人間なだけで、思考や行動原理が全く異なる別種の生き物なのだとアルゴンに強く思わせた。


「いや、大丈夫です。オレは自分から知りたいと言ったんです。だから大丈夫です。大丈夫……」


 言葉の最後に囁きのように発した大丈夫は、まるで自分に言い聞かせているようであった。クラウディアはそれを察しながらも彼の意思を汲み取る。二人は更なるバートリア一族の生態もとい、クラウディアの過去を追体験していくのであった……。




 それから数年の月日が流れ、兄ルーファスの男色は益々盛んになっていった。

 やがて彼の男色は悟りの境地に達したのか、同じ趣味を好む友人達を集め、夜な夜な怪しい儀式に興じている。とロクサーヌから聞かされた。

 私は飛び火が自分に来なければ何をやろうと構わないと考えていたが、真実は隠蔽したとはいえ、ランフォートの死の一件からバートリア家は良からぬ噂が囁かれるようになっていた。

 外を歩けば周りの視線が妙に刺さり、冷ややかであると感じていたそんなある日、ロクサーヌが行方知らずになった。

 そして一週間後、妹は町外れの茂みの中で遺体となって発見された。

ロクサーヌの葬儀は一度も棺を開けられる事はなかった。とても披露できる状態ではなかったからだ。発見された妹の手足には縛られた跡があり、全身を鞭で打たれた生々しい傷があった。また舌と両胸が乱暴に切り取られ、更には首と腹は無惨に切り裂かれ、膣にはナイフが刺さったままであった。発見者が遺体を見つけた時、最初は豚の死体かと思ったと言っていたのが、その陰惨たる光景を物語っていた。

 しかし最も残酷だったのは、変わり果てたロクサーヌの姿を目の当たりにしても、私を含め家族の誰も涙を見せなかった事だった……。




ロクサーヌの眠る棺が埋葬されている最中、私は妹の事を思い出していた。

 いつも楽しそうに覗きの一部始終を私に話していたロクサーヌ。まるで飼い主に付いて回る子豚のように、私に付いてきては実の兄の情事を聞かせてきた。私はいつも何かをしながらとりあえず適当に相槌をして聞き流していた。それでも妹は誰かに自分の話を聞いてもらえる事が嬉しいのか楽しそうに話していた。楽しそうに話す妹に対して私も何故か拒否したりは一度もしなかった。他人はおろか家族にさえ興味を持たれていない彼女にとって、唯一相手をしてくれる私は心の拠り所だったのだろう。

 だがそれは私も同じだったのだ。女学校に通っていた頃も、自ら私に近付いてきた者達は私と友達になりたかったわけではない。皆私をバートリア一族の人間としか見ていなかった。それが透けて見えていたから必要以上に親しい間柄の人間を作らなかった。いや、作れなかった。

 貴族は庶民とは違う存在である。生まれながらに貴族としての誇りを持ち、家名を重んじ繁栄の為に使命を帯びて産まれてきた存在。それが貴族である。我々兄妹は母にそう教えられて育った。

 しかし言い換えればそれは生まれながらにして決められた道を強制させられている事を意味した。貴族としての誇りが私を孤独にしていたのだ。

 それを悟った時、棺が地の底に埋められ、無言でそそくさと去って行く親族達を尻目に、私は愚妹と心の中で蔑んでいたはずのロクサーヌの存在が、自分にとってとても大きかった事に今更になって気付かされた。その真実に直面した私は、ただ静かに歪な笑みを浮かべる事しかできなかった……。

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