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Gawl of the nightmare ーガウル オブ ザ ナイトメアー  作者: Guren
悪夢の魔剣士編 勿忘草の女神の章
23/31

勿忘草の女神の章 第23節

前回までのあらすじ

大陸全土を巻き込んだ大戦が終わりを迎えて三年。四方を自然に囲まれたアナハイト領地では、病や傷を自らの血で癒す女神の伝説があった。


行方不明のソフィアを探す旅の傭兵ライファは、同じく彼女を探している少年アルゴンと共に、自警団に殺人の容疑を掛けられ捕まってしまうのだった。

再びアルゴンがソフィアとの思い出で夢の中で追想する中、ライファは行動を開始する……。


 23


 わざわいを鞄に潜め、旅をしながら行く先々で大戦が残した傷痕を眼の当たりにしてきた。

 残された者達の悲劇と狂気。そして陰惨で卑劣な行いに対し魔剣を振るってきた。

 彼等は断末魔のように呪いの言葉を遺していった。

 禍とは己自身の事なのだと、皮肉を込めて奴は言う。

 期待スルナ。オ前ニ幸福ハ訪レナイ。訪レルノハ悪夢ダケダ……。

 悪夢の中で顔無き笑みを浮かべて奴は言う……。


 教会砦に隣接する自警団の兵舎。その兵舎には罪人を捕らえて尋問する地下牢があった。そこは部屋も廊下も、壁と地面が粗悪な均一性のかけらも無い石畳で、天井は土と板が剥き出しの粗悪な建築であり、年中肌寒く薄暗くてじめじめと湿気を帯びた劣悪な空間だった。

 その中の一室の真ん中には、足元と背もたれの後ろに手足を縛る拘束具が取り付けられた頑丈な椅子が置かれていた。その椅子は地面に固定されているようで、座りながら揺さぶった程度では倒れもしなかった。そしてそんな椅子にライファは今座っていた。

 ライファは、アルゴンと共にサリーナの店でザイテス率いる自警団に捕らえられ、アナハイトの住人達に蔑みの眼差しを浴びながら抵抗もせず、身を任せるように彼等の兵舎に連行されたのであった。

 地下牢へと続く階段を降りた矢先、ザイテスがライファとアルゴンを別々に尋問すると言い出した。

 まぁそれが妥当だろう。とライファも思った。

 しかしアルゴンは違った。彼の気配がたちまち恐怖に支配されていくのをその時ライファは感じ取った。

 無理もない。今離ればなれにされたら何をされるか分からない。アルゴンはそう直感したに違いないのだ。

 戦々恐々とするアルゴンの様子に薄ら笑いを浮かべながら、ザイテスは団員の一人に顎で指図した。指図された団員がアルゴンの肩に背後から手を伸ばすと、アルゴンは気が触れたように暴れ出した。恥も自尊心もかなぐり捨て、情けない悲鳴を上げながらライファに縋り付こうと踠いたのである。

 自警団の団員達は、そんなアルゴンの醜態を嘲笑いながら、彼を無理矢理に尋問室へと引き摺って行った。

 アルゴンの連れて行かれた尋問室の扉が力任せに閉まるまで、アルゴンは踠いて足掻いてライファの名前を叫び続けた。扉が閉まる最後の瞬間の、隙間から自分を覗くアルゴンの鬼気迫る形相に、その時のライファは思わず眼を背けてしまった。


「次はお前だ」


 俯くライファに対しても背後から冷たい宣告が下される。こうしてライファも別の尋問室へと連れて行かれ、そして今に至る……。


 あれからどれくらいの時間が経過しただろう。尋問の末に休憩に入るにはちょうど良い頃合いだ……。

 顔面や腹部、概ね人の身体の中で容易に痛みを与えられる箇所に繰り返される殴打に、ライファの顔や身体は血を吹き出し外見的には重傷を負っていた。

 しかし当の本人は沈黙を続け、悲鳴や呻き声の一つも口に出さなかった。

 尋問をする自警団の団員達は、始めこそすんなりと聞き分けよく拘束されたライファに高圧的かつ嘲りの態度を見せていた。だが如何なる殴打にも沈黙を貫き表情一つ変えないライファに、団員達は苛立ちを覚えると同時に薄気味の悪さを感じ始めていた。


「これじゃ埒があかねぇ。指の一本でも切り落としてやろうぜ。少しはなんか言うかもしれねぇ」


 ふと団員の一人が言った。そいつは両拳にこびり付いた血をライファの衣服で拭うと、部屋の壁に此れ見よがしに飾られていた鋸状の刃をした剣を取り出してきた。

 するとライファは待ち侘びたかのように小さな溜息を吐き、そしてその場にいる者達の誰にも見せないよう小さな笑みを浮かべた。だがよほど嬉しかった事でも思い出しかのように、彼の口からはクスクスと不敵な笑い声が漏れた。


「なんだ? お前何笑ってんだ? 気でも狂ったんか?」


 鋸の剣を手にした団員が言った。殴られ過ぎて頭がイカレてしまったのかと思ったのだろう。彼が嘲りながら鼻で笑うと、周りの仲間達も互いの顔を見ながら笑い出した。

 だが高々とではなく失笑と言うべきか、しっくりこない笑い方だった。その理由は明らかだ。皆既にライファがただの人間ではなく、得体の知れない何かであると本能的に察していたのである。

 そしてその真偽が確証を得るように、ライファはゆっくりと顔を上げた。

 今まで何事にも動じなかったライファが突如動きを見せた事に、団員達の視線が彼に注目した。

 そこには先程まで尋問と言う名の拷問を受けたにも関わらず、血で汚れた顔はなく、この兵舎に連行されてきた時と同じく、人形のように不気味な程整った顔をした男が、涼しげな微笑を浮かべながら自分達を不敵に見上げていた。

 ライファの予想外の行動且つ不可思議な現象に、その場にいた全員の動きが止まった。

 更に拘束されていたはずのライファは音も無く立ち上がり、彼の目線が上昇すると同時に団員達の視線も上昇した。それからその一瞬の無音の中、ライファが身構えと同時に団員達は彼の姿を見失った。

 次の瞬間、真横を物凄い速さで何が通り抜けたような風圧に団員達が襲われる中、命の灯火を吹き消すように、部屋を照らしていたランタンの灯りが掻き消され、部屋の中は暗黒に包まれた。


「どうしたよオイ! 奴は! 誰か灯り付けろ!」


 団員の誰かが慌てふためきながら声を上げた。するとその声に答えるように、何者かが気を利かせて灯りを灯した。皆その灯りに視線を向ける。しかしそれは灯りなどではなかった。

 それは余りにも禍々しく、剣と呼ぶには巨大な魔物の指先と呼んでしまいたくなる程に邪悪な姿をしていた。

 漆黒に染められた刃。更に猛禽類を思わせる爪のような突起物が無造作に生え、尚且つその中心には心臓のように脈動する物体がはめ込まれた鍔。更にそこから剣全体へ纏わり付く血管のように張り巡らされた筋が、柄にはめ込まれた物体と同調する様に青白い光を放ちながらその場を怪しく照らしていた。

 彼等の前に再び姿を現したライファは、恐ろしく邪悪な光を放つ異形の大剣を手にしていた。その禍々しい光に照らされたライファの眼光は、感情が欠落した血の通わぬ冷酷な狂気を宿していた。

 その殺戮に飢えた眼に睨まれた者達は、まるで見えざる巨大な腕に命と自由を握られ、断末魔の叫びをも打ち消す狂刃を前に、四肢が肉塊へと成り果てるまで八つ裂きにされる運命に抗う事叶わぬ己の弱さを呪った……。




 事が終わり、部屋が再び暗黒と静寂に包まれる中、惨劇の終焉を告げるかのように小さな火が灯った。

 その小さな灯火は、まるで殺戮の犠牲となった者達の命の結晶かのように、ライファの手に握られていた。

 風など無いはずその部屋で、小さくゆらゆらと揺らめくその灯火に照らされたライファは、全身を返り血で染めた悍しい姿をしていた。

 それからライファは近くに転がっていたランタンを拾い上げると、そっとその灯火をランタンへ移し部屋を照らした。

 ランタンの灯りに照らし出された部屋は、壁一面を紅に染め、天井からは飛び散った血が雫となって、まるで雨のように滴り落ちながら、目の前に広がる惨状とは相反するように心地良い音色を奏でていた。

 その血の雫が落ちゆく地面には、かつて人の形をしていた肉塊達が沈む紅血こうけつの海が広がっていた。その咽返るような惨状を前に、ライファは感情の消え失せた表情でほんの少しの間だけその景色を眺めた。

 それから壁際で無造作に転がっていた自分の荷物を拾い上げる。紅血の海に沈んでいたせいで荷物は血で汚れ、見ているだけで嫌悪感を抱く生温かい肉片がこびり付いていた。それをライファは表情を変える事なく、慣れた手つきで払い落とすと躊躇せず身に着けた。

 そして最後に、眼を瞑り背筋を伸ばして深呼吸をした。

 すると衣服や鞄を染めていた返り血が、まるでライファの体へ吸収されるかのように、忽ち蒸発して跡形も無く消えた。

 肉塊が散乱する紅血の海の中心、そこにただ独り立ち尽くすライファの姿は穢れなく、不自然な程に美しかった……。

不定期投稿ですが、よろしければ感想やブックマークをお願いします。

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