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Gawl of the nightmare ーガウル オブ ザ ナイトメアー  作者: Guren
悪夢の魔剣士編 勿忘草の女神の章
16/31

勿忘草の女神の章 第16節

前回までのあらすじ

大陸全土を巻き込んだ大戦が終わりを迎えて三年。四方を自然に囲まれたアナハイト領地では、病や傷を自らの血で癒す女神の伝説があった。


旅の傭兵ライファは、アナハイトに向かう途中、悪漢達に襲われていた少年アルゴンを助ける。

行方不明のソフィアを探しているアルゴンはライファに協力を頼むが断られてしまう。

しかしその後、ライファや彼の仲間のフォクスが、実はソフィアの両親に雇われた賞金稼ぎである事が分かり一旦は仲違いするが後に和解する。その後アルゴンとフォクスは自警団の襲撃を受けるが、そこへ駆け付けたライファに助けられ難を逃れる。

その後、夢の中でソフィアとの出会いを回想したアルゴンが目を覚ますと、そこは廃墟の一室だった……。


 16


 家が貧しかった……。

 戦争とか関係無く、家が貧しかった。

 戦争が始まった時はまだ小さかったけど、

 困っている大人達を見て私は心の中で笑っていた。

 これで皆貧乏だ。みんなみんな貧乏だ。だから誰も私の家を馬鹿にできなくなるって……。


 朝日に照らされた廃墟の屋敷は、かつてここで暮らしていた貴族の繁栄と終末を体現するかのように、優雅さと儚さを漂わせていた。

 ライファはアルゴンから返された黒いアントを羽織ると、徐に鉄鞄とは別の荷物入れに使っている肩掛け鞄から、茶色の小さな布袋を取り出すと、結んであった紐を解いて中から何かを摘むと、先程死体を埋めた場所へと蒔いた。


「なにしてんの?」


 その様子を見ていたアルゴンが尋ねた。


「種を蒔いた。下の奴等を養分にしてやがて木になる。そしたら木の実が育つ。それを動物が食べる。それを人が捕まえて食肉にしたり毛皮にする。そうしたら奴等の死も無駄ではなくなる」


 本当に心の底からそう思っているのか、ライファは種を蒔いた地面を見下ろしながら淡々と口にしていた。


「でも自業自得とは言え殺された死体だろ? なんか呪われそうで怖いなぁ……」


 ライファの力や魔剣を目撃した今のアルゴンにとって、今まで作り話と思っていた怪談や化け物の類いが全て実在しているように思えて、死体を栄養にして実った果実を食べたら何かしらの災いが降りかかるのでは? と思った。


「大丈夫だ。奴等の魂はもうここにはない。あるのは抜け殻の死体だけだ」


「え? どう言う意味?」


「言葉通りの意味さ」


 ライファの言った言葉の意味が理解できず、聞き返したアルゴンに彼はそう言いながら不敵な笑みを返すと、出発の準備を終えようとしているフォクスの方へと歩いていった。その場に一人残されたアルゴンは、少しだけライファの言った言葉の意味を考えてみた。だがやはり答えは出ないまま、そそくさとライファの後を追う事にした。


「そっちの準備は済んだんかい?」


 フォクスは自分の方へと歩いてくるライファとアルゴンに気付くと二人の方に顔を向けた。そんな彼の傍らには茶色の毛並みに黒く長い立髪を生やした馬が、重そうな荷物にも動じず静かに立っていた。


「その馬どうしたの? まさかどこかから盗んだの?」


 突然ポンっと現れた立派な馬に、平然と荷物を積んでいたフォクスに、アルゴンは疑いの眼差しを向けた。


「あのなぁ、オレが物好きな誰かさんみてぇに歩いてこんな田舎まで来たと思うか? コイツはオレの愛馬だ。疑ったお前さんには名前は教えてやれねぇぜ」


 アルゴンの言葉に対し、フォクスはやれやれと言わんばかりに溜め息を溢すと、少し呆れたように聞き返した。それを聞いてライファはフッと苦笑いを浮かべた。その間に愛馬に颯爽と跨ったフォクスは、荷物を手探りで漁ると、そこから短剣を一本取り出してそれをアルゴンに投げて渡した。


「わぁ! なにこれ?」


 不意に投げ渡された短剣を慌てながらも掴んだアルゴンはフォクスに尋ねた。


「護身用だ。持っとけ」


 とフォクスは答えた。荷物をよく見ると多数の武器が開け口から伸びていた。


「死人に武器は必要ねぇからな。じゃあな」


 アルゴンが荷物から伸びている武器を見てまた何かを勘繰っていると察したフォクスは、また変な疑いの眼差しを向けられる前に先手を打つと、そのまま愛馬を走らせ何処へ行ってしまった。


「フォクスは一旦森の向こうの町に戻って情報を集めるそうだ」


 アルゴンが馬で走り去るフォクスの後ろ姿を無言で見送っていると、彼が行き先を聞く前にライファが教えてくれた。


「俺はアナハイトで情報を集める。お前はどうする?」


 ライファの言葉にアルゴンは一瞬黙った。


「……一緒に行く」


 ほんの少しの間を置いて、そう答えたアルゴンの瞳の奥を覗き見るようにライファは眼を細めた。アルゴンは昨日までのように目を逸らしたり、気遅れしたような素振りを必死で堪えているようだった。


「……分かった。行こう。準備を済ませた出発だ」


「うん!」


 何かを納得したかのように、ライファは小さく頷きながらアルゴンに言った。それに対しアルゴンも力強く返事を返すのだった。

 

 先に準備を済ませていたライファは、廃墟の屋敷が正面から一望できる場所でアルゴンを待っていた。彼は出発前に忘れ物をしたと一旦屋敷の方へ戻ったのだ。

 しばらくして戻ってきたアルゴンは、額に少し汗をかき、指先は土で汚れていた。


「何していたんだ?」


「庭に肥料を蒔いてきたんだ。は、早く行こうよ。出発出発!」


 純粋に気になって尋ねたライファに対して、アルゴンは洒落で返したつもりだった。だがあまりにもライファが無反応な為に急に恥ずかしくなったのか、彼は顔を赤くしながら我先に出発してその場を脱するのだった。

 廃墟の屋敷はライファ達が出発し、再び無人と化す。アルゴンに先頭を譲ったライファは、徐に背後へ振り返った。

 ふと見ると二階の一室の窓が開いている。その部屋の奥には背の高い人影がこちらを見下ろしていた。その視線に答えるように、彼もまた人影を見上げた。

 そして自らの意志を伝えるかのように静かに頷くと、ライファは再び廃墟の屋敷に背を向けて歩き出すのだった……。




 教会砦の廊下は、神聖さを醸し出すように白を基調とした内壁をしていた。

 だが何故だろうか、昼間にも関わらず窓から差す光が届かない影の場所は、夜でもないのに薄暗く不気味な雰囲気を漂わせていた。

 それはこの場所が女神を祀る神聖な場所だからなのか、それとも今現在アナハイトで起きている神隠しと呼ぶべき失踪事件の殺伐とした現状が、アナハイト全体を覆う闇を垣間見えてしまうからなのか。

 その答えを語る者は誰一人いない。

 しかし、この教会砦で数多の幽霊が目撃されているのは、アナハイトの住民達にとって、口には出さないが周知の事実であった。

 その日、新人侍女のドロテアは、一人薄暗い廊下の掃除をしていた。

 長い廊下の真ん中で、彼女が手にするモップが地面を擦る音以外無音が辺りを支配していた。

 実の所、ドロテアは侍女として領主クラウディアの身の回りの世話をする立場なのだが、正直クラウディアの事が苦手だった。

 それは彼女の家が貧しく、子供の頃から金持ちや貴族に馬鹿にされてきたからでも、そんな自分の仕事が貴族の侍女であるからでもなかった。

 女神の再来と言われ、アナハイトの住人達に崇められ、礼拝堂で人々の前に立ち、堂々と演説をしている姿を何度か拝見したが、あの場にいた人物と、自分が御使いしている人物はまるで別人だ。ドロテアはそう考えていたのだ。

 彼女が初めてクラウディアと対面した時の事である。使用人に導かれ、彼女は領主の部屋に案内された。今掃除している長い廊下を抜け、内部が螺旋階段になっている塔を登った。その螺旋階段を登っていく時、ドロテアはなんとも言えない違和感を感じた事を鮮明に記憶していた。その螺旋階段を登った先にある部屋にて、ドロテアは初めて領主クラウディアと顔を合わせた。

 その時のドロテアはできる限り愛想良く挨拶したのだが、クラウディアは興味無さげに目も合わす事無く無反応だった。

 それ以来、彼女はクラウディアに対してすっかり苦手意識が植え付けられてしまった。


「どうせ私の名前を覚える気なんてないんだろうなぁ……」


 掃除をする手を止める事なく、地面を見つめ黙々とモップを動かしながら、ドロテアは独り事を呟いた。誰に言うでもなく、自分自身にそう言い聞かせた。

 昨日の会話からも沸々とそう感じた。

 あの人に会うのは初めてじゃないし、自分から名前を尋ねながらやっぱりやめるって失礼にも程がある。

 そして最後にクラウディアが口にした言葉。それがドロテアの脳裏に焼き付いて離れなかった。


 貴女もすぐいなくなるでしょうから……。


 あれは一体どういう意味なのか……。

 色々と考え込んでしまう事が多過ぎて、最近集中できなくなっている気がする。単調な仕事だけを延々と続けている時だけ気が休まるような気がした。もしかしたら前任者達もこんな感じになって辞めていったのだろうか。

 もし私も辞めるとして、その後何処へ行けばいいんだろう。

 それにしても、話は変わるが教会砦にはもう一人自分と同じ領主様に御使いする侍女がいると聞いていた。基本二人で御使いし、その一人が欠けたから自分が雇われたのだ。それにも関わらずまだ一度も会っていない。まるで最初から自分しか侍女がいないみたいで仕事が全く終わらない。その事で咎められた事は一度も無いが、それ故にもう一人いるはずの侍女について、ドロテアは聞けないでいた。


「もうここはいいや、次行こうっと」


 ため息も絶え絶えに、ドロテアは廊下の掃除を終えようとしていた。濁った水の入った鉄のバケツを持ち上げて、次の掃除場所で向かう為、視線を廊下の突き当たりへと向けた。

 すると廊下の向こうで人影が、すーっと音も立てずに横切ったような気がした。目が霞んでいたのか、その人影と周囲がまるで炎のゆらめきのように歪んでいるように見えた気がしたのだ。

 それから数秒の間、長い廊下にドロテアは一人ぽつんと立ち尽くし、誰もいない廊下を硬直した視線で見つめていた。

 やがて緊張の糸が解けるかのように、ドロテアは頻りに瞬きをして、それはそれは深い溜め息を吐いた。

 それからこれ以上余計な何かを見ないように、彼女は地面に視線を擦り付けながら、まるで何も見ていなかったかのように振る舞ってその場を後にしたのだった……。




 時刻は間も無く昼に差し掛かろうしていた。

 空は少し曇っていて、少し霧が出て来て遠くの山が霞んで見えていた。

 ライファとアルゴンが川沿いを歩いて集落の方へと歩いていると、川のほとりに人集りができていた。


「なんだありゃ?」


 アルゴンが人集りの方を見ながら言った。


「何かあったみたいだな。行ってみよう」


 情報取集にはもってこいの現場だと判断したライファは、アルゴンにそう言うと人集りの方へ向かって行った。


「……オレ、人集りとか野次馬が苦手だからここで待ってるよ」


 すると、アルゴンがそう言って辺りを見回しながら人集りから距離を取ろうとした。


「……分かった。そこで待っていろ」


 アルゴンの言葉に一旦歩みを止めて振り返り、その様子を見たライファは、一瞬何か他の事を言いたげな様子を見せたが、それを払い退けるような手振りをすると、向き直って一人で人集りの方へ近付いて行った。

 教会砦の時然り、意外と人がいるんだな。と思いだながら、ライファは人波を掻き分け、人集りの原因となっている、何か、の方へ近付いていく。と言っても、ライファにはそこに何があるのかおおよその見当は付いていた。

 聞こえてくる話の内容。彼にしか嗅ぎ取れない程の僅かな血の香り。そして死臭。

 人集りを抜けた先に転がっていたもの。それは殺された複数人の遺体だった。


「こいつら昨日アナハイトに来てた連中だ」


「誰か探してる様子だったぞ」


「探してる奴に殺られたのか?」


 人集りから色んな話が聞こえて来た。中にはライファの存在に気付いて、あまり好意的ではない視線を注ぐ者達の、その心の内に抱いている疑念の気配も感じ取れた。

 ライファはそんな周囲の淀んだ気配の中を、何も無かったかのようにまた人集りを掻き分けて抜け、背後から刺すような視線を浴びながら平然とその場から離れた。

 ライファが川のほとりからある程度離れた丁度その時、人集りの方から道を開けるようにと荒げる声が聞こえてきた。そっと振り返って様子を窺うと、武装した荒くれ者達がやって来ていた。自警団である。

 彼等はあの場所で何をするのか、遺体を調べて犯人探しでも始めるつもりなのだろうか。

 ライファは少し離れた場所から、遺体を調べている自警団の者達を内心嘲笑いながらアルゴンのもとへと戻ろうとした。

 アルゴンは木の影に隠れて自警団に見付からないようにしながら心配そうな顔を向けていた。その顔を見たライファは、アルゴンが何故人集りに行かなかったのか察し、彼を安心させようと笑みを浮かべて見せた。

 とその時である。再び背後から突き刺すような視線と気配を感じ取り、ライファは足を一瞬止めた。

 そいつは村人達や他の自警団員とは明らかに違う気配を纏っていた。

 そして何より、そいつが明確な殺意を抱いてライファを凝視するまで存在に気付けなかった事にライファは内心驚いた。

 だがすぐさま歩き出し、アルゴンの方へと急ぐと、彼を引っ張るようにその場を離れた。


「まったく、ここは一体どうなっているんだか」


 アルゴンを引っ張りながらそう呟いたライファの表情は、覗き込んだアルゴンの目には、ほんの少し楽しそうに見えた……。




 ここの草むしりを終えたら夕食の時間まで休める。

 そんな事を考えながらドロテアは教会砦の裏手の草むしりをしていた。


「……というか、掃除とは侍女の私じゃなくて使用人がやれよ!」


 黙々と草むしりをしていたドロテアは突然腰を上げ、誰に言うでもなく声を荒げた。だがやはり彼女の言葉は誰にも届かない。

 全くもってここは変な所だ。おかしな事しかない。

 ドロテアは手に持っていた草むしり用の小さな鎌を憂さ晴らしのつもりで振りかぶり、そして放り投げた。

 鎌は回転しながら草むらへと飛んでいく。思っていたよりも遠くへ飛んでいく。

 少し前から外が霧掛かっているせいで、鎌が飛んでいった先が見えなかった。最終的には自分が拾いに行かなくてはならない事を思い出して、ドロテアは肩を落としてげんなりした。

 すると不意に、ゴンッ! と重々しい金属を叩く音が向こうの方から聞こえてきた。


「え? なに?」


 予想していなかった音への驚きと、何かを壊してしまったかもしれない。という不安とが入り混じった声を漏らし、ドロテアは恐る恐る鎌が落ちた場所へと向かった。

 音のした場所に近付くにつれ、徐々に周りの空気が熱を帯びているのを肌で感じた。熱風と呼べばよいのか。急に蒸し暑い空気が辺りを覆い始めた。

 自身の腰上まで伸びている雑草を手で掻き分けながら、ようやく鎌を見つめた。


「……なにこれ」


 投げた鎌は、大きな円形の蓋? と呼べばよいのかも分からぬ謎の金属の蓋に引っ掛かっていた。引っ掛かっていたと言うのも、その金属の蓋は鉄格子のように隙間がいくつも存在し、その下は底も見えない大穴になっていた。

 ドロテアが恐る恐る鎌に手を伸ばすと、まるでそれを待っていたかのように、熱を帯びた風が蓋の隙間から噴き上がって来た。


「うぅ! くっさぁ!」


 どうやら辺りの熱気の正体はこれが原因だった。熱風と同時に耐え難い悪臭がドロテアを襲い、ドロテアは服の袖で鼻を覆いながら、あまりの臭さに身を引いた。

 これが何なのかなんてどうでもいい。こんな所に一瞬たりともいたくない。さっさと鎌を拾って砦に戻ろう。

 そう思ったドロテアは、息を止めながら急いで鎌を取ろうと身を乗り出した。

 するとさっきの熱風が原因か、彼女の指先が鎌に当たった瞬間、鎌は隙間から穴の下へと落ちて行ってしまった。突然の事態にドロテアは両手を地面に突いてその光景を見下ろす事しかできなかった。

 穴の中へと吸い込まれていく鎌は、数秒の沈黙の後、暗闇の中で音を立てた。

 水面に落ちる音がしない。井戸じゃない。

 熱風と悪臭がまるで息をしているかのように断続的に噴き上がる。


 ……下に何かいる?


 いち早くこの場を去ろう。と数秒前に考えていたにも関わらず、ドロテアの頭は余計にも想像すべきでない恐ろしい想像をしてしまった。

 その瞬間、すっと血の気が引いて、辺りの音が抜け落ちるかのように遠退いていった。

 そしてその隙間を埋めるかのように、熱風に混じりながら暗闇の下から何かが彼女の耳に囁き掛けた。


 ……たす、けて……。


 その瞬間、ドロテアは走り出していた。

 何度も躓いて衣服が汚れようとも構わなかった。最後は四つん這いになって教会砦の裏口へと転がり込んだ。

 そして、今までの一部始終を全て覗かれていた事にも、彼女は気付きもしなかった。


「あれは一体なんだったの?」

 

 いったいあの下に何がいると言うのか。

 ドロテアは未だ治らない激しい動悸に胸を抑え、開けられたままの扉を背中で閉めると、そのまま地面に腰を突いた。

 無人の廊下には彼女の荒げた息づかいだけが木霊していた。

 呼吸を整えよう、ゆっくりと立ち上がる。草刈り用の鎌を無くしてしまった。使用人に怒られるだろうがどうでもいい。

 緊張が解けて安心すると、ドロテアは使用人に怒られている自分を想像し、尚且つそれに動じていない自分も想像した。なんだかおかしな光景である。

 とりあえずドロテアは使用人に鎌を無くしたと報告しに行こうと思った。と言うよりも一人でいるのがもの凄く心細かったのだ。

 あの使用人はあんまり好きではないが、一人でいたくなかった。

 そして今さっき自分が見た物を話したかった。

 この砦には何かある。誰にも知られていない何かが……。

 恐怖が去った後の興奮と、その興奮の残り香を求めるかのような好奇心が、ドロテアの腰を上げさせ、彼女を使用人のいる場所へと向かわせた。

 この教会砦に隠された秘密。それは即ち女神ピプリスの再来と呼ばれた領主クラウディアの秘密である。とドロテアは脳裏で推察した。

 年若く普段会話をする相手がいなかったドロテアにとって、誰かに話したくて仕方がない恰好の話題だった。

 残念な事は、その話題を話す最初の人物が、特に仲良くもなければむしろ好きでもない使用人という事だ。

 と思いながら、ドロテアは足早に使用人がいる部屋へと辿り着いた。

 扉の前に立ち、ノックしようと手を翳そうとした瞬間である。


「どうぞ。開いている」


 扉の向こうから声がした。

 その声にドロテアは思わず驚き身を震わせた。だが答えは簡単で、いつもより足早に歩いていたので地面を踏む歩き音は普段より大きかったはず、その歩き音が自分のいる部屋の前で止まれば誰だって次に扉がノックされるだろうと察しがつくはずだ。なんという事はない。

 そう自分を納得させながら、ドロテアは部屋の扉を開けた。

 だが、一つ彼女は大きな違いに気付いてはいなかった。

 扉の向こうから聞こえた声が、使用人のものではなかった事を、彼女は気付かぬまま部屋へと入り、そっと扉を閉めるのだった……。


他の事していたらこんなに時間が経過していました。

不定期にも程がありますね。

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