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Gawl of the nightmare ーガウル オブ ザ ナイトメアー  作者: Guren
悪夢の魔剣士編 勿忘草の女神の章
10/31

勿忘草の女神の章 第10節

良かったら読んでください。


 10


 それはとても使い古された日記帳だった。

 最初の方は生まれたばかりの我が子の成長を記したもので、日記と言うよりも成長記録のようだった。 

 筆跡も繊細で、おそらくは母親が書いたものだと想像できた。我が子を本当に愛していたのだろう。その文章はとても丁寧で、今日は何をしたか、それで我が子がどんな反応をしたか、その表情はどうだったか、そして自分がどう感じたか、というのが事細かく記されていた。

 そして何より、我が子の日々の成長を心の底から喜んでいる事が窺えた。日付からして大戦の最中だった。それでもこの記録を残した彼女は、日々の不安や恐怖を書く事無く、我が子との日々を大切にし、それを何より尊い事であると自覚していたのだろう。

 しかし、途中から書き手が変わったように筆跡が太く若干殴り書きのように変わると、それは日記帳へと変化していった。

 文章からそれが父親である事が窺い知れ、彼の最初の日記により、我が子の母親であり妻であった彼女が病死した事が書かれていた。

 それから淡々と日々の日記が綴られ、パラパラとページを捲っていくと、最初は毎日書かれていた日記の日付が徐々に日を空けるようになっていった。

 日記が終わる最後の数ページ。そこから目を通し始める……。


『○月○日』

「最近忙しくて日記を疎かにしてしまいがちだ。

 妻が死んでもう一年が経つ。早いようであっという間だった。

 酒に溺れ、妻の後を追いそうになったオレを救ってくれたのは息子の存在だった。息子の存在がオレを踏み止まらせてくれたのだ。

 息子と生きると決意したあの日から、オレは自分を見失わないように日記を書く事にした。妻が息子の成長を書き残していた記録帳をそのまま日記帳として使わせてもらっている。この日記帳は妻の形見であり、オレと息子が生きた証だ。

 それなのに、最近のオレはなんて駄目な父親だ。息子の為にもオレが頑張らないと」


『○月○日』

「自警団の連中や奴等のまわし者達があまりにもしつこいから、仕方なく自警団に入る事になった。週に一度当番制で村周辺の見回り。それと典礼の警備。

 領主様には本当に感謝しているが、こっちにも本業がある。いくら自警団の仕事をしても金は出ない。直接領主様に雇われた奴等しか給料が出ないなんて聞いてない。騙された!

 しかもオレがやらされているのは、本来奴等がやるべき仕事だ。オレが奴等の仕事を手伝わされている間に奴等は昼間から酒を飲んでやがった。 クソッタレ!」


『○月○日』

「最近オレも調子が悪い。自警団の仕事は奴等がうるさいから休めないが、本業の方は休みがちだ。これじゃ生活がままならない。買い置きしている女神の鮮血も底が尽きそうだ。一体どうすればいいんだ」


『○月○日』

「医者のディヴァ様に言われてオレも女神の鮮血を飲んでみた。あれは凄い。疲れが嘘のように吹っ飛んだ。しかも自警団をしていたお陰で半額で買うことができた。初めて自警団に入って良かったと思えた。心成しか息子も元気になっているように見える。健康の為にオレも女神の鮮血を常飲しようと思う」

『○月○日』

「最近息子が部屋から出てこない。食事も手をつけてない様子だ。仕方がないからオレが食った。せっかく作ってやったのに。親不孝者が!

 仕返ししてやった。出たくないなら出られないようにしてやる。いい気味だ」


『○月○日』

「息子は元気に部屋の中で遊び回っている。叫んだり扉を叩いたり、うるさいくらいだ。あれならもう鮮血はいらないだろう。だから今回はオレの分しか買わなかった。仕方がない。オレがいなければ息子も共倒れだ。オレの健康が何より優先だ」


『○月○日』

「最近自警団の仕事ばかりしている気がする。一週間に一回の約束はどうなった?

 でも奴等、話してみたら結構いい奴だったし、特に団長のザイテスは最初は正直何を考えているか分からない薄気味の悪い野郎だと思っていたが、酒や女神の鮮血をたまに分けてくれる。これはなによりありがたい。明日も自警団の仕事だ。鮮血飲んで寝よう」


『○月○日』

「なんだってんだチクショウ!

 朝っぱらから仕事してやったのに!

 森の中で無人の馬車を見付けた。窓ガラスが割られていたし、馬も繋がれていない。見掛けからして貴族が使うような馬車だった。

 この事をザイテスに急いで報告したら、後は任せろだとさ。しかも他言無用ときたもんだ。

 今回の手柄でオレも正式な自警団になれると思ったのに、ふざけやがって。

 頭来たから、酒場でみんなに言いふらしてやった。

 最近アナハイトじゃ若い娘が頻繁に消えるし、中には女神の神隠しだとかほざいて拝んでいる頭のおかしい奴もいた。全く呑気な連中だ」


『○月○日』

「酒場でみんなに言いふらした事が奴等にバレちまった。ザイテスに殴られた挙句に自宅謹慎だとさ。なんだそりゃ。ボランティアで謹慎とか聞いた事ないぞ。あの野郎頭ん中腐ってやがるのかよ。何が貴族出身だ! しかも鮮血を全部没収された。クソが!

 腐っていると言えば息子の部屋が臭くてたまらん。鮮血を没収しに家に来た奴等も、倅の始末くらいちゃんとやれよ。とかヘラヘラしながら訳分からん事を抜かしていた。

 あいつ部屋の中で糞でも漏らしたのか?

 汚ねぇな。掃除はてめぇでしてくれ」


 文章からして真夜中に跳ね起きて慌てながら書いたと思われる。


「たった今信じられないものを見た。息子が壁をすり抜けて現れた。寝ていたオレを起こそうとしていたのか?

 きっと鮮血を飲まなかったせいで幻を見たに違いない。それにしても体の震えが止まらない。こいつ鮮血の禁断症状に違いない。酒じゃ紛らわせられない。

 奴等オレが家から出ないように見張っていやがる。そこまでされる程オレが何かしたって言うのか?」


『○月○日』

「これを誰かが読むとは思えないが、もしこれを読んだのなら今すぐこの村から出ろ。誰にも気付かれないように。

 この村は狂ってやがる。女神の鮮血なんて嘘っぱちだ。オレは変な薬をやらされていたに違いない。

 何故それに気が付けたのか、それは息子が教えてくれた。いつからなんのかはもう覚えていない。大分前から息子を見ていなかった。それがおかしい事にもオレは気が付かなかった。

 正直これを自分で書いていて頭がおかしくなりそうだ。

 息子の部屋に行くと外から鍵がかけられて中から開かないようになっていた。鍵を閉めた記憶が無い。でも間違い無く鍵を閉めたのはオレだ。

 鍵の在り処を思い出せなかったから壊して開けた。扉の隙間から物凄い数の蝿が飛び出してきて、中からも耳鳴りのように羽音が聞こえた。

 息子が死んでいた。本当にオレの息子なのか分からないくらい腐乱していた。凄い悪臭だった。

 部屋を出ようと扉の方を向くと、扉には何度も引っ掻いたり叩いたりしたような跡がくっきりと残っていて、小さな手の形をした血の跡が無数にあった。

 涙が止まらなくなった。

 自分で書いた日記を読み返して恐ろしくなった。殆どの覚えていない。どうなっているのか分からない。一つ分かる事は、オレは最低な父親だ。腐っていたのはオレの方だった。

 本当にすまない。妻よ、息子よ、オレを許してくれ。

 これを書き終えたら息子を埋葬して、妻と息子の元へ行こうと思う……」


 最後のページには涙が滴り落ちた水滴の跡がいくつもあり、文章が所々滲んでいた。


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