第3夜 指が動かない男(前編)
1話完結になりませんでした…
本当に短いですが読んで頂けたら嬉しいです!
…もし良かったら評価も頂けたら嬉しいですっ!
『アスクレピオス様、今日も治癒を求むる者達が参っております。どうか彼らにお恵みを。』
神の診療所、本日も開院。
『私は医神アスクレピオス…そなたがこの聖域にやって来たのは何故か?』
『はい、実は指が動かないのでのございます。それもだんだん指から手に広がってきているようでして…』
『お主は…』
『どうかなさいましたか?』
『いや…なんでも無いぞ。』
これは困った。
こいつの指が動かなくなるのは全く不思議では無い。それどころか何故これまで動かなくなっていなかったのかが不思議だ。
端的に言って仕舞えば、それは死後硬直だ。
そしてこいつは既に死んでいる。
何故冥王ハデス殿の所へ旅立って居なければならぬ存在である死者がこんなところにいるのか。
可能性は3つ。
1つ目は冥王ハデス殿の差し金。
これはおそらく理由が無いから違うだろう。彼は死者の復活を嫌う。
2つ目は何らかの術者がいる可能性。
私が死者を生き返らせたように何らかの方法を使ってこいつを生き返らせた人間がいるという可能性。ただしそれは不完全で死後硬直が起き始めている。
3つ目は…最もあり得ないが、可能性としては一応あり得る。それは、自然現象としてそれが起こったという事。つまり、何者の手にも寄らず死体が動き出したという可能性。
最もあり得るのは2つ目か。
『つかぬ事を聞くがの…そなた、ここに来る前はどこで何をしておった?』
『ええ、私はアテナイの兵士ですが…どうされましたか?』
『いや、何でもないのだがな。』
アテナイの兵士。アテナイといえばこの間戦があったと聞く。もしかしたらその戦死者かもしれんな。
さて。冥王ハデス殿に丸投げしても良いのだがな。あるいは今ここで冥界に送るか。
しかし私は医術の神。救える命は救いたいし、我が聖域に治癒を求めてやってきた者は保護してやりたい。
となると、魔術の神であるヘカテ様に頼るのが良いだろうな。魔術は専門外だ。取り敢えずこの男の処置は保留か。
『そなたの治療には神である私なれど時間が必要だ。しばらく聖域に留まるが良い。』
私が出来るのはひとまずこれだけ。
あとはヘカテ様に相談するしかない。
お楽しみ頂けたでしょうか?
次回は後編です。