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不愛想な先輩と私

作者: ヒネデレ

「せ~んぱい。何してるんですか?」


ここは、私が通っている高校。その生徒会室。


授業も終わり放課後になった今、私は先輩をからかう、もとい話をするために私は訪れていました。


部屋に入ると、相変わらず書類と睨めっこをしている先輩の姿があります。


先輩は役員の一人ではあるので、当然と言えば当然なのですけど。


ただ、役員ですらない私にとってはやらなければいけない仕事というものはありませんし、仕事をしているのはわかっても何をしているかまではわかりません。


そんなわけで、私は先輩の作業を覗き込みました。


「見てわかるだろ、書類整理だよ書類整理」


それに対し、先輩はいつも通りの不愛想な返事を返しました。


体は書類に向いたままでしたが、しっかりと先輩は私に応えてくれます。


「はぁー、生徒会ってやっぱり大変なんですね」


そんな先輩のツンデレぶりに頬を緩ましてしまいそうになります。


私としては、もう少しデレてくれてもいいんじゃないかと思うんですけどね。


「というか、邪魔だから少し離れてくれないかな」


まったくこりていない私に気づいたのか先輩は露骨に顔をしかめて不機嫌そうにします。


「もぅ、こんな美少女が顔を寄せたんですから他に何かあってもいいんじゃないですか」


「そんなもの俺に期待するのがおかしんだよ」


不満気に頬を膨らませる私を無視してそんなことを言う先輩。


さらには、私をちらりと一瞥すると、


「それに安心しろ、俺はそんなにお前の顔に興味がない」


と微笑みを浮かべて私へと言い放ってくれした。


さすがに温厚な私でもこれにはさすがにイラっとし、先輩へと詰め寄っていきます。


「ちょっと、それ本人のいる前で言いますか普通!?私これでも乙女なんですよ」


「ふん」


「鼻で笑われた!?」


意に返さないように無視どころかそれ以下の対応をしてくる先輩に目元に滴が溜まりそうになってしまいます。


「はぁ、もういいですよもう」


ただ、これもいつものことだなと俯いていた頭を持ち上げて諦めたようにため息をつきます。


それから、漸く先輩の机の辺りに視線を向け、つまれている書類の山に気づきました。


同時にこんなに仕事が溜まっているのに先輩以外に誰もいないことに疑問を感じてしまいます。


とりあえず、崩れそうな山からその半分を他の机へと分けていきながらそのことを先輩に尋ねることにしました。


「それで、他の皆はどうしたんです?」


「おい、勝手に移動させるんじゃない」


「えぇ~、ちょっとぐらいいいじゃないですか。減るものでもないですし」


「よくないし、減るよ時間が」


「えぇ、でもこれはさすがに危なくないですか?」


「この程度じゃそんな心配なんか起きるわけがないさ。それに取るのに時間がかかるだろうが」


「なんかそれ、けち臭いですよ先輩」


「知るかそんなもん」


呆れたように先輩に言ったのですがにべもなく返されてしまいました。


隣の机に移したところで誤差程度の差しかないと思うんですけどね、そんな短い時間を得られて先輩はどうするつもりなんでしょうか。


もしかして、私との時間を作るためだったり......いやそんなわけないですよね、まぁそれはわかりますけど。


たぶん先輩なりに何かしらのこだわりがあるのでしょう。


このことに関しては聞いても答えてくれそうにないでしょうし、脱線しかかっている話を元に戻すとしましょう。


「で、どうしてなんです?」


「用事があるとかで帰っていったよ」


先輩は何でもないことのようにそう答えます。


「先輩をそれを引き留めたんで?」


「いや、特にそんなことはしなかったが、それがどうかしたか」


一応確認のために、尋ねると心底何も思ってないといった感じで逆に聞き返される始末。


やっぱりと思いはしたものの、つい半目で先輩のことを睨みつけてしまいます。


「またですか」


「悪いかよ。やりたくない奴にやらせるよりも、やる気に差がある上に、無駄話に合わそうとしないでいいから作業に集中できるし、それに何より早く済む」


呆れたように私へと告げてくる先輩は持論を語っているためかどこか得意げでいるよう感じました。


ただ、私にはそれが年甲斐もなく駄々をこねているようにしか思えません。


「はぁぁ」


先輩にわからせるために、あからさまに肩をすくめながら言うことを聞かない子供に言い聞かせるように口を開きました。


「先輩、それじゃ駄目ですよ。それじゃ」


「何がだよ」


明らかに苛立っているということが分かるような態度を先輩は取っているがわかりますが、そんなことは無視です、無視。


こういうことはちゃんと言っておかないと先輩のためにはならないのですから。


「そんなことばっかりしてるから便利屋扱いはされていても友達は少ないんですよ。もっと愛嬌を振りむわさなきゃですよ」


「それこそ、ほっとけ。第一俺にはそんなものはいらないんだよ」


煩わそうに手を振り払う先輩は吐き捨てるようにそう言い切りました。


ただ、さすがにその言い分は聞き捨てなりません。


「むっ、そんなこと本当に言っているんですか?」


「その言いぶりだと、なんか問題でもあるっていいたいのか」


「もっちろんですよ」


なぜか苛立ちが増したように感じる先輩を前にしながらも胸を張りながらそう宣言します。


しかし、先輩の対応は辛らつでした。


なんと、興味がないのを如実に表すように受け流すだけだったのです。


「ふぅーん」


「って興味全然ないような声出さないでくださいよ。私しまいには泣きますよ。ガチな方で泣きますからね」


「うるさそうだから他所でやってくれ」


「さすがに、その物言いはひどすぎやしませんか!?」


せっかく、上目遣いで言いすがったというのにその対応はあんまりだと思うのです。


ただ、先輩はいまだに驚きでフリーズしている私に疲れたように語りかけてきました。


「だから、今は忙しいんだ。これをかたずけたらならかまってあげるから少しぐらいまってくれ」


「今、言質取りましたからね。忘れないでくださいよ」


「あぁ、わかったから。静かにしてくれ」


「わっかりました。先輩で遊び倒すため不肖、伏見 美代この試練耐えて見せますとも」


自己採点、満点の敬礼をした私を無視して、先輩は再び書類作業へと戻っていきます。


そのことに不満をいだきつつも約束の通りに何も言わずに、隣へと移し替えていた書類から一枚取りながら私も椅子へと座りました。


「で、なにやってんだお前?」


「ほぇ、書類整理ですけど」


「だから、なぜお前がそんなことえをやってるんだと聞いているんだが?」


「だって、先輩これが終わったら話してくれるんでしょ?だったら手伝うしかないじゃないですか」


「そうか、まぁ理由が何であれ手伝ってくれるんなら助かる」


「すいません先輩よく聞こえなかったんでもう一回お願いできますか?」


「要らんこと言ってないで手伝うならさっさと手を動かせ手を」


「うぅ~、やっぱり冷たいです」


それから、できるだけ私語は慎むようにしながら黙々と作業をこなしていきました。


そこから、いくらかの時間が過ぎたのちにようやく最後の書類をかたずけた私は思いっきり腕を伸ばして凝った体を解します。


「はぁ~終わったー」


「あぁ、終わったな」


その私の声を聞きとがめた先輩はそれに同意するように頷きます。


「はぁ、疲れたー」


それを耳に入れながら、なんとなく窓から外の景色を眺めると綺麗な朱色を見ることができました。



「って!?もう外かなり暗くなってるじゃないですか!?夕焼けがきれいに浮かんでいる時間帯になっちゃっるんですけど!?」


「確かに、もう下校時刻みたいだな」


「みたいだなじゃないですよ。これじゃあ作業を手伝った意味あんまないじゃないですか!?」


先輩の冷静な態度とは正反対に私は愕然と立ち尽くしてしまいました。


「私のさっきまでの努力が泡となって消えましたよ。先輩との楽しいひと時が!甘い時間が!」


「そんな、ものはない」


感情のままに叫ぶと先輩にバッサリと切られてしまいます。


いつもでしたら、それでもある程度余裕があるのですけど、今回は期待していた分ショックもひとしおに来てしまっていたのでいつも以上に胸へと刺さってしまいました。


「そ、そんなぁ......」


「はぁ、もう少し真面目な態度で接してくれたらこっちも覚悟が決まるんだがな......」


「ほぇ?せ、先輩いまなんて言いました?」


「いや、お前はやっぱりうるさいなと思っただけだ」


微塵も表情を変えずに先輩は毒を吐いてきました。


ですが、私はしっかりとさっきの言葉は聞いていました。


むしろ聞き逃すことの方があり得ないというものです。


今のは、先輩の貴重なデレた言葉なのですから。


「嘘ですね、今絶対別のことを言ってましたね!それも好意的なものでした。さぁ本当のことをいってくださいさぁ!!」


何としても、その言葉を聞き出してやろうと尋問官のように問い詰めていきます。


すると、先輩は耐えかねたように肩をふるふると振るわせていきます。


その瞬間、私は少し冷や汗を浮かべてしまいました。


これは、もしかして怒っているのではないでしょうか。


これ以上はさすがにまずいかもと感じた私は追撃を次の言葉を引っ込めると先輩の様子を伺いました。


すると、先輩はたまりにたまった激情を爆発させるように叫びだしました。


「あぁぁぁもう、こうなったらやけだやけ!!」


「せ、先輩?」


もしかしたら壊れてしまったのかと不安になりながら尋ねるのですが先輩は私の問いに答えてはくれませんでした。


ただ、俯いていた顔をゆっくりとあげてきてくれたので、心配は杞憂だったのかと安堵の気持ちに包まれました。


ただ、それは先輩の表情を見るまででした。


「美代!!」


「は、はい」


鬼気迫った様子で私の名前を叫ぶ先輩にびくりと体を跳ねさせながらもこれ以上不服に感じさせてはなるまいと慌てて応えました。


先輩はそれを確認したのかしていないのか、相変わらず真に迫った表情で再び私に告げてきました。


「いいか、一度しか言わないからな」


「わ、わかりました」


「ふぅ~、よし!!」


そして、一度深呼吸をした後、先輩は気合を入れて口を動かして言葉を紡ぎます。


「美代、俺はお前はいつもいつもからかったり邪魔ばかりしてくるし、何度頼んでも聞かないし、いつもふざた行動に振り回されてばかりで、正直何度拒絶しようかとも思った」


「せ、先輩!?」


ただ、その言葉が私への不満の羅列であったため、さっきの安堵は間違いであったと確信してしまいました。


これは、間違いなく怒っている。


そのことに、戸惑いを覚えながらもその拒絶しようとしたという内容に体が悲しみにとらわれ、鉛のように重くなってしまったように感じてしまいました。


「ただ、ただ、だ!それでも、その無邪気さで接してくれたことで口下手だった俺も前よりもクラスに溶け込むことができたし、救われたことも何度もあった。何より美代と一緒にいると自然と笑えることも増えたし、正直言ってそんな日々はとても楽しいと思えた」


「せ、先輩」


続けて告げられた、言葉に体が弛緩していくのを感じながらも私はただより一層戸惑ってしまいます。


いつもなら、嬉しいはずのその言葉でも、これから言われるであろうことがわかっていくたびに、自分の感情が制御できなくなってしまっていたのです。


でも、先輩はそんな私の様子に気づく余裕がないのか、言葉を続けていきました。


「それでも、俺はいまだにこんなだしこれが直るとは思えない。ただ、それでも美代と一緒にいたいし、そのために変えようとは思っている。だから、まぁそのなんだ......美代、俺はお前のことが好きだ。だから俺と付き合って欲しい」


しばらくの間、私と先輩の間にはの沈黙が流れました。


先輩はこの時間に耐え切れなかったのか不安げに私へと声をかけてきました。


「お、おい」


でも、今の私にはそれに応える余裕はありませんでした。


なぜなら、


「デレた、今先輩がデレましたよ!やっぱり、先輩はツンデレでしたね!!」


「あぁもううるさい」


「でっれた、でっれた。先輩が私にでれった。いえぇぇぇぇ!!」


「その変な歌をやめろ」


そんなこと言われてもできないんですから、仕方ないじゃないですか。


だって今はこうやってふざけていないとどんな恥ずかしいことを言ってしまうかわからないんですから。


先輩のせいで今の私は、この抑えられない気持ちをどうにかして押しとどめないといけないんですから


「ふべしっ!?」


ただ、それを受けた先輩はたまったもんじゃななかったみたいですね。


顔を真っ赤にして、私に向かって攻撃をしてきました。


私にとってはそれは好都合です。


ですので、それを使わしてもらいましょう。


「今、グーでしたよね!?明らかにグーでやりましたよね!?女の子に向かってそれは駄目じゃないですかね!?」


「知るか、こんなことまで彼女に遠慮なんかしてたらこれから一緒になんか過ごせねぇだろうが」


「ほぇ?せ、先輩今のって」


だから、今そういうことを言わないでほしいんですけれど。


また、顔が赤くなってしまうじゃないですか。


「ほ、ほら、仕事も終わったんだからさっさと帰るぞ」


先輩はぎこちないながらも憮然とした態度で手を私へと差し出してきました。


でも、顔はしっかりと取り繕えていないので丸わかりなんですけど。


でも、流石にこれは突かないほうがいいんでしょうか。


さっきの言葉を取り消されたりしたら溜まったものじゃないですし。


「はい!!」


そもそも、私にだってそんなに余裕があるってわけでもないんですから。


今だって普通に喋れているのが不思議なぐらい心臓バクバクしてるんですから。


顔がにやけかけるのを、笑みで誤魔化している状況なんですよ。


でも、先輩にバレてしまうのはなんとなく癪というものです。


なので、いつも以上に陽気さを出す感じで先輩に体ごと腕にくっつきました。


「で、先輩、帰りはもちろん寄り道オッケーですよね」


「好きにしろ」


「わっかりました。好きにさせてもらいます」


相変わらずぶっきらぼうなその姿。


けれどもそれが何よりも愛おしい先輩がする親しい人にだけの敬語じゃない砕けた言葉。


お礼の気持ちを込めてより強く抱きつきながら私は先輩と教室を後にしました。


これからの、帰り道に思いを馳せて先輩と戯れながら。

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