5章 少女と勇者
サラマンダーとの戦いでついた傷は癒され、動くことができるようになったセリス。その日から、エドワードとの白魔法特訓が始まった。回復魔法を扱った事のないセリスは、2週間たってもまともに使えなかった。こればかりは、エドワードも苦労しているようだった。『エレメント・マスター』(理攻撃、回復の両方できる理魔導師)の称号を持つエドワードは、自分のできる限りで、セリスに教え込んだ。
「違う!セリス。もっと肩の力を抜いて、そう。それで、傷ついたところの周りの気に集中しろ。傷に集中しない。その気で傷口を包み込むように…」
「…こうか?エドワード」
森で倒れていた(?)小鳥の傷が少し癒えている。エドワードはそれを見ると、何か言いたげの顔をしたけれど、笑ってセリスに言い聞かせた。
「…まぁ、最初に比べてマシになっただろう。よし、今日の練習はここまで!また明日頑張れよ、セリス」
「おぅ!じゃぁなぁ、エドワード――!!」
セリスは、エドワードに向かって大きく手を振った。それを見るなり、エドワードも振りかえした。金色の鍵から声がする。
《やっとあそこまで使えるようになったのね、セリス。最初なんて逆に傷つけちゃったもんね》
「…るっさいゎ、シュー」
口喧嘩をしていると、広場に出た。ここは、前にサラマンダーと戦った場所。まだ、所々直っていない場所がある。その、飛び出た岩の間から栗色の髪をした13歳位の女の子がいた。女の子は、セリスをじっと、見つめている。セリスは、女の子に少し苦笑いして走って、食堂(と、言ってもギルド内の酒場)に向かった。
「なぁ、シュー。さっきの女の子こっち見てたよな?何でだろう…」
《セリスが珍しいのよ。(笑)青い髪の人間なんてそうそういないし》
「まぁ、それも一理か」
セリスが、オレンジジュースを飲んでいると、後ろから肩をトントンっと叩かれた。振り向くと、さっきの女の子だった。
「あの…。お兄さん、精霊師なの?」
いきなりの質問に、セリスはジュースを吹き出しそうになった。
「お兄さん?!俺…そんなに老けてんの?!10代後半に見えんの?!マジかよ…確かにあと一年で半分ですけど…。で、俺に何の用なの?精霊師だけど。」
それを聞くなり、女の子は飛び跳ねて喜んだ。
「本当?!わぁ…かっこいいなぁ…あ、申し遅れました。あたし、『ウィニー』と言います。12歳で一応、光魔導師です。まだ未熟ですけど…」
(光魔導師=対闇魔法の光魔導書を操る者。普段の攻撃威力はあまりないが、クリティカル率が50%以上で、闇魔法相手では、絶大な威力がある。(例外あり)基本的には、聖職者が扱う魔法)
「ふーん、光魔導師か。で、何?ようがないなら…」
「あ、待ってください!!教えてほしいんです。…闇の、黒魔導師ジュラは本当に蘇っているんですか?あたし…」
セリスとシューは息をのんだ。ジュラの復活は世界精霊と、セリスしか知らないはずだった。けれど、目の前の少女がそれを知っていた。彼女はなぜ知っているのだろうか?
「…それ、誰から聞いたんだ」
冷たくあしらうセリス。その顔ときたら、何も寄せ付けないように恐ろしかった。
《セリス、あなた最っ低な顔しているよ?》
「うーるーさーい〜。で、なんで??君は何か知っているの?」
「…いいえ。誰から聞いたわけではありません。あたし、記憶がなくて…何も思い出せないんです。気がつけばこのギルドに来ていて…。それで、何故か、いつも頭に過る言葉があるんです。」
「何がよぎるの?」
「黒魔導師ジュラがジュレンカ帝国を再び再建しようと…そして、愛おしい人を守るためにって…」
顔を見合わせるセリスと、少女ウィニー。セリスは、この不思議な少女から何かを感じた。そう、「禍々(まがまが)しいなにか」を。軽めのためい息をついて、セリスはウィニーに言う。
「別に…俺は何も知らないし。てか、黒魔導師なんていないよ。君も、迷信に惑わされないようにしなよ。じゃ、俺はまだまだ特訓があるから抜けさしてもろうよ〜また会ったら、話しような〜」
彼女の顔を見ないように、後ろ向きに手を振るセリス。ウィニーは、セリスの腕を掴んで、何かを言おうとしたが、何も言わずにその手を放した。
《マスター 正しい 少女 言わなかったの》
サラマンダーが言った。
「ん?あぁ、なんかさ、言いたくなかった。と、言うか…言ったらウィニーって子が、泣くんじゃないかって思ってさ」
《泣く?》
「そう、あの子、何かジュラの事で絶対知ってる…愛おしい人…」
《…ィア》
シューが何かを呟いた。
「何か言ったか?シュー」
《…何でもないわ》
ギルドの外に出ると、空は綺麗な赤色に染まっていた。その空を超えた、大きな森を、セリスは懐かしむように眺めた。
「…ライヒ、元気かなぁ…何も言わないでこのたびに出ちまったしな」
セリスの目には、空が親友、ライヒに見えていた。小さな時からずっと一緒だった親友の顔を思い出すと、泣きそうになる。それを押し殺して、笑いながら言った。
「俺の父さんと、母さんってどんな人だったのかなぁ!」
シューとサラマンダーが、驚いて聞いた。
《マスター 両親 いない?》
「いないんだ。二人とも、俺が小さい時に旅に出たんだと。それっきり、アルテスには帰ってきていない…」
《セリス…無理して言わないで》
「…わりぃ、シュー、サラマンダー。この話は保留って事で♪じゃぁ、夕飯でも食いに行くか!」
「あ、セリス。ちょうどいい所に!」
振り向くと、エドワードがそこにいた。セリスは何か苦いものでも食べたかのように、エドワードを見た。
「…何だよ、その顔」
「何でこんな時にもエドワードの顔見なきゃいけねぇんだよぉ〜スパルタ教師め!」
「…好きなだけ言え!ガキ!!せっかく、白魔法を習得したら、また旅に出してやろうと思ったのによぉ〜」
セリスが驚きと、喜びに満ちた顔で、エドワードを見る。
「マジで?!エドワード!!じゃぁ、俺明日からまじめにやるぜ」
「…お前、今まで半端な気持ちでやってたのかよ…」
「リオ、あの子に間違いないよ?私の勇者様。セリスさんに…分かる。セリスさんなら、『あの人』を殺れるよ…」
《マスター、焦らないでください。彼ではまだ魔力の制御が完璧にできません。『ジャッジメント・アイルト』を使える他の誰かを…》
「いいえ、彼です。セリス=ハウノ、『第二の大唱霊術師』様。…オーロライン=ケイ=ハウノ。大唱霊術師様の息子の彼なら…」