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病んDAYS  作者: 森ノ宮金次郎
袋小路小道
5/12

思い込み激しい② 愛憎と毒物

小道メインで行きたいのに、ままならないものですね。

書けば書くほど主人公が羨ましくない。一応、ハーレム系に持っていくんですよね……これ。

 春はあけぼの、清少納言は言いました。ほのぼのと日が昇る、つまり夜明けが一番趣きがあると言う訳です。徹夜明けのわたしは、ぼんやり考えました。

あけぼの……次は春場所だよ。頑張れ。枕草子の頃から期待されてたんだ」


 一人呟きながら船を漕ぎます。朝日をバックに一人の力士が高笑いをしています。こっくり、こっくり。講義にまるで集中できません。なぜこんな目に?そう、理由は明白です。背後に目をやります。わたしがどこに座ろうが背後に座る人物。黙々と教授の言葉を聞き、ノートに文字を書き込んでいます。わたしとは目も合わせません。


 寝不足の原因である友原宮子、その人です。小道との邂逅かいこう後、いえ、違いますね。襲撃後、わたしは無実にも関わらず、夜通し問い詰められたのです。自信をもって冤罪えんざいと言えましょう。罪だとして、何の罪なんでしょう。


 友原さんは決して、ヒステリックに叫ぶ訳ではありません。酷く短く、そして冷淡に問います。いつ、どこで、誰で、何を、どうしたのか。5W1Hを淡々と埋めていきます。電気を消してスタンド照明だけを点灯させます。あら、不思議。自宅が留置場に早変わりです。


 どこで仕入れたのか、友原さんは人形を抱えていました。いわゆる市松人形です。少しでもわたしの話がかんに障ると、バッサリと人形の髪の毛を切り落としました。坊主になってもおかしくない量の毛が床に落ちていましたが、不思議なことに人形の髪の毛は元の状態をキープしておりました。


 今となっては寝不足による錯覚だと思っています。もう半分以上脳は寝ていて、夢うつつの状態でしたから。そして腹話術よろしく、寡黙な友原さんに代わって、人形が雄弁に喋っていたような気がします。ごちゃごちゃ回りくどくて、ほとんど記憶にありませんが。怖いというより、鬱陶しかったですね。まぁ要約すると、友原宮子を幸せにする義務がある、みたいなことだったと思います。


 変な怪奇体験のせいで、昨夜はやけに目が冴えてしまったのです。その反動が今現在、このような結果を生んでいる訳ですが。教授が教壇で教材を揃えて、トントンと音を立てます。同時に生徒たちが席を立ち始めました。


 気付けば講義は終了してしまったようです。自分のノートに視線を落とします。とても見れたもんじゃありません。まるでミミズかナメクジが縦横無尽に蠕動ぜんどうしたかのような有り様です。深くため息を付きました。


 混雑を避けるためのつもりが、寝入ってしまったようです。講義一コマ分丸々寝てしまいました。周りを見るまでも無く、誰もいませんでした。ああ、語弊ごへいがありました。後ろに一人いました。携帯を見ると、メールと着信が何件も入っています。目を向けると、不機嫌そうな感じです。しかし友原さんは何も言いません。


 これまでの付き合いで分かったことが二つあります。まず一つ目。彼女は外でわたしに話しかけることを極端に嫌います。いえ、アパートでもほとんど声を発することはないのですが。まぁ、それでも事務的な会話は生まれます。しかし外ではもっぱらメールでのやり取りです。外での着信も、わたしが出ると同時に切られる程の徹底っぷりです。


 二つ目ですが、肉体的接触を過度に避けます。触れた時の俊敏さは、もう反射の域に達しています。そこから派生して『性』に対して酷く敏感です。潔癖と言ってもいいでしょう。自分自身が嫌悪するのは別にいいのですが、そのとばっちりがこちらにも飛ぶからたまりません。


 一人暮らしの際に、ノートパソコンを購入したのですが、買って二日で大破させられました。それ以後、無尽蔵の妄想力を駆使して自家発電を行う日々です。こっそりトイレでいたすのですが、においでもばれて髪を振り乱して荒れ狂いました。それからは消臭スプレーは必須になっています。


 閑話休題。わたしは昼食のために立ち上がります。もう気分的には朝食なのですが、些細な問題なのです。まだ講義中ということもあり、食堂は閑古鳥かんこどりが鳴く様相を呈していました。食券を買って、定食の乗ったお盆を持ちます。しかしそこで今一番会いたくない人物が座っていました。


「あ~~~、おーい、べん(勉)ちゃん、こっちこっち!」


 デートの待ち合わせよろしく、大きく手を振ってアピールしてきます。寝不足における諸悪の根源です。わたしは硬直しました。周囲の視線が気になるのです。注目の的は勘弁してください。上着の襟を立て、寒さをしのぐように首を引っ込めて遠い席に着席しました。


 ちなみにべんちゃんと言うの、はわたしの遠い過去のあだ名です。すなわち別人であると言っても過言ではありません。弁才天のことかも知れませんし、ええ。だとしたら完全に幻覚を視ているので、関わらないのが吉―――


「もうっ、どうして無視するの。べんちゃん!」


 わたしの思考は分断されました。はい、どうも、べんちゃんです。クリクリした瞳で頬を膨らませる様はまるでリスのよう。スタイルは小動物というよりも、ホルスタインに近いのですが。俗物的なことを考えつつも、まるで関心が無いように味噌汁をすすります。


「はい、これ!やっぱり夫婦と言ったらこれだよ」


 わたしの挙動などお構いなし。さらっと新妻気取りです。目の前のランチなど歯牙にもかけないのです。女の子らしいザ・お弁当が渡されます。わたしは一旦おはしを置きました。静かに言います。


「結構です」


「そう、結構なボリュームあるんだよこれ!自信作なんだー」


 まるでかみ合いません。ゲームに登場するNPCのように役割を演じているようです。あまつさえ、自分でお弁当の包みを解いていきます。はらりとハンカチから覗いたそれを見て、息を飲みました。


「……えぇ?」


 まず目に飛び込んだのがタッパーです。驚くべきはその中身。なんと形容すれば良いのでしょうか。まず液体と固体の境界線の物体です。ホルマリン漬けされた内臓みたいなものでした。一言で言うなればそう、ダークマター。潮が引くような感覚で血液が遠ざかっていきます。心臓の弱い方なら、見ただけで失神しそうです。


「う、ぬ、ぬ……」


 怖いものみたさで、タッパーを開いてからも強烈です。激臭です。この世の終わりが凝縮された、その見た目に相応しいにおいです。思わずのけ反りました。


「精のつく食べ物を詰め合わせてみましたっ!」


 ウナギ、レバー、山芋、チーズ、梅干し、トカゲのしっぽ―――トカゲの尻尾?!黒魔術における悪魔への生贄か何かですか、これは。わたしはわなわなと震えました。小道は目を輝かせながらこちらを伺っています。いつの間にか防臭マスクを装着しています。……おい、人体実験じゃないんですよね?


「え~っと、今日はこれ、あるから」


 これの部分で眼前の定食を指差します。すると小道は途端に柳眉りゅうびを逆立てて、怒り出しました。昔と変わらず直情的です。


「駄目だよ、顔色も悪そうなのに!しっかり食べなさい」


 出来の悪い子を叱る親のような態度です。ずいっ、タッパーをこちらに押し出して来ます。たったそれだけの動作。微々たる風圧による余波が意識を刈り取ろうとします。何という殺傷能力。本音を言えば、この料理を見てから具合が悪くなったのですが、その指摘は火に油を注ぐようなものです。煮え切らない態度のわたしに小道のボルテージはどんどん上がります。


「一生懸命作ったのに酷いよ!食べてみないと分からないじゃない!意気地なし!」


 そんな未知数な物を食べさせるなよ。どう見ても毒物に見えます。完全に毒見です。ここで手をこまねいている間にも人がぞろぞろと集まってきました。大食いに挑戦するチャレンジャーのように人目を引いています。中には立ちくらみをする人も続出して、見物するだけでも大変そうでした。


 わたしはオーディエンスが増えるにつれて、どんどん目が回ります。視線というオノマトペがわたしの心臓を的確に打ち抜くのです。すでに正常な判断など、とうに失われておりました。一心不乱に定食の方を平らげ、体力を付けます。いわゆるオードブル、余興であり、前菜です。


 メインディッシュの愛妻弁当。レバーと思われる赤黒い塊を掴みあげます。凄まじい粘り気で、山芋と納豆とのコラボが強烈です。口元に運んだだけで、嘔吐感が襲います。わたしは目をつぶりました。カッと目を開き一気に口に突っ込みます。わたしは薄れゆく視界の中で盛大な拍手を耳にしたのでした。


 余談になりますが大学の救急室で目が覚めた際、これまでにないほど勃起しておりました。

見切り発車の投稿なので、キャラが微妙に安定していないのは気にしないでください。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

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