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病んDAYS  作者: 森ノ宮金次郎
袋小路小道
4/12

思い込み激しい① 再開と激白

新キャラはヤンデレ感があまり感じられない……。

ギャグ要員のにおいがして参りました。

 今年も春が訪れました。桜が舞い、緩やかな風で木が揺れる様は、わたしの門出を祝福してくれているかのようです。そう、門出。わたし、木梨勉きなしつとむはこの春大学生になりました。ええ、ありがとうございます。ちょっと取扱注意な女の子のおかげです。


 そんな訳で大学から自転車で五分の所にある、アパートに住んでいます。大学に近いくらいしか利点が無いので、学生寮みたいなものですね。布団をたたみ、朝食を食べます。自動で出てくるんです。わたしを起こすでもなく、起きるまでじっと座っている女性。友原宮子ともはらみやこさんです。

 

 断っておきますが、同棲はしていません。彼女は隣の部屋に住み着いています。四六時中わたしにまとわりついていますので、半同棲になるでしょうか。家政婦扱いと言えば、誰もが羨むことでしょう。ですが一人暮らしがしたいのです。一度来ないように頼んでみたことがあるのですが、メールと着信量が増しただけでした。無視すれば突入されるため、もう考えることを止めた次第です。


 友原さんは当然のようにわたしと同じ大学に通っています。さらに悪い方に成長したようです。ええ、年を重ねるごとに幽霊じみて来たと申しましょうか。前髪で目を隠すのが問題なのだと思います。呪いのDVDに出演して、井戸からい上がってそうな風体ふうていなのです。


 おかげで霊感が無いと言う友人からも「おまえ、霊に取りつかれてね?」と言われる始末です。そして周囲から不気味がられて、孤立していきました。期待に胸を膨らませるほどのキャラではありませんが、何か想像していたのとは違う感じです。あれキャンパスライフとは一体……。


 そんなことを思いつつも、まぁいいかと開き直ります。サークルに所属せず、空いた時間はスーパーのバイトを始めました。品出しとレジ打ちですね。そしてようやく生活が落ち着き、リズムが整って来た矢先のことでした。


 夕方五時過ぎ、チャイムが鳴りました。わたしはおや?と感じました。友原さんはあり得ません、彼女は勝手に合鍵まで作って、問答無用で入ってきますから。となると宗教か新聞の勧誘くらいしか思い当たる節が無いわけです。思わずため息が出ました。

 

 「はい」返事をしながらガチャリとドアを開けます。予想外の人物が立っていました。女の子です。デニムにTシャツとカジュアルな服装です。ショートヘアでおでこを見せるようにピンで留めています。なかなか活発そうな子が訪問されました。待ち合わせた訳でもありませんので、人違いでしょう。


 「あ、間違えました」という言葉を待ちました。ドアノブを掴んだまま固まるわたし、それを見つめ続ける女の子。だんだんと彼女の表情が険しくなっていきます。これはもしや、雲行きが怪しいという奴ではないでしょうか。


「君の名前は木梨勉君!」


 わたしを指差したかと思うと、突然彼女は指名したのです。次に自分に向かって指差します。


「わたしは袋小路小道ふくろこうじこみち!覚えてない?」


 ポンと手を叩きました。名前を聞けば、記憶がよみがえります。小学校まで一緒で近所に住んでいて良く遊んでいました。親の都合で転校していった子ですね。男勝りでよく喧嘩していたのが思い出されます。いわゆる幼馴染ですね。わたしは記憶が濁流となって脳を駆け巡ったせいで、あーあーあーと頷きながら言葉にならない声を出しました。


 わたしが思い出したのを見て、小道は破顔しました。喜色満面の笑みです。じゃあ、と言いながらわたしの手を握ります。


「わたしたち、今日から夫婦だね!」


 予想の遥か斜め上を行く言葉が飛び出しました。出し抜けに何を言っているのでしょう、このお方は。世間体と経済力という文字が、脳を貫通していきました。詳しく事情を聴こうと思い、口を開き掛けた時、ゴトリと背後から物音が聞こえました。いえ、決して忘れていた訳では無いんです。それでも思考の片隅に追いやりたい人物が立っていました。


 リンゴが転がっています。皮むきの最中なのか、皮が付いた状態でした。いつにも増して能面のような顔をされています。内縁の妻狙いの最中に許嫁いいなずけが来た、そんな構図でしょうか。ただ問題はわたし自身、どちらもお断りするつもりなのですが。


 友原さんを認識するやいなや、小道はギラリと目を光らせました。次の瞬間、コアラのごとくわたしに飛び付いたのです。友原さんの髪の毛が逆立っていきます。気付けば果物ナイフも逆手に持っているじゃありませんか。そんな様子を見て、小道はさらに調子に乗ります。


「もう離さない、わたしの白馬様!」


 脳内でヒヒーンと服を着た馬がいななきます。突っ込む気力もありません。それを言うなら白馬の王子様なのです。そんなことよりも友原さんの目が血走っています、髪の毛で隠れているはずなのに。鋭い眼光を放っています。ふふん、小町は完全に勝ち誇って、勝者の笑みを浮かべていました。


「じゃあね、泥棒猫さん。不法侵入は犯罪だよ!」


 捨て台詞を残して小道は帰っていきました。暴風のような女でした。友原さんはぶるぶる震えています。怒髪天どはつてんきながらも、携帯を取り出しました。震える手で操作をし、わたしの携帯が何かを受信します。メールでした。


 「詳しく、話を、聞かせなさい。」


 腹が立ち過ぎて、声を出すのも億劫のようです。読点による強調がまた、事態の深刻さを表しているではありませんか。ここだけ見ればとんだプレイボーイです。わたし自身でさえ、状況を把握できていません。ああ、どうしよう。考えること数秒。うん、なるようになるか。わたしは足元のリンゴを拾い上げ、ゆっくりとかじりました。俗に言う現実逃避になるでしょう。


 

思い込みの激しさもまたヤンデレの要因の一つ。

友原宮子も大概思い込み激しいですが……。嫉妬こそがヤンデレの真骨頂。

血にまみれるか、地にひれ伏すか。どちらにせよ前途多難になること間違いなし。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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