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乗船

何かのモーター音がすると思ったら

どうも船が甲板をたたみ変形をしているようだった。

その様子が目の前にある大型パネルに映し出されている。

まるで潜水艦のようなスタイルになるや、海を潜り始めた。


俺の操舵はもうきかない。


「ちょっとこれ!自動操縦になってるけど、どこへ行くんだ。」


「潜ります。」


「そりゃ見れば分かる!

深度計がどんどん下がってるぞ。どこまで潜るんだ!」



100メートルから一気に1000メートルまで降下、さらに潜り続けている。

2000メートル、3000メートル。

自分自身が水圧に押しつぶされそうな感覚と

どこにも逃げ場の無い密閉状態に生きた心地がしない。


すると4000m手前で潜水艦は水平を保ち、

巨大な円盤状の物体をサーチライトで映し出した。

薄暗いので色まではわからないがほのかに光っている。


「大きい・・・・」


潜水艦は巨大なその上を進んでいった。

側面にさっき俺が読んだ象形文字が刻まれている。


イゼルファー号?


言葉が浮かんだところで思い出した。

この物体は紛れもなく人類が未確認飛行物体と呼ぶ宇宙船だということを。


「あれは、君がディッツと呼ぶ星の宇宙船だ。」


そこまで思い出せた。俺の頭の中には1万光年ほど離れたディッツ星という地球に良く似た星の文明や技術の記憶が今、徐々に蘇ってきている。


そこ星には地球と同じように月が存在し、海の中から生命が誕生した。

その生命体の頂点に立つのがディッツ星人だが、

俺の記憶によると人間とはまったく違う進化を遂げた生命体であり、

どちらかというと哺乳類種でありながら両生類のような生き物だと言えた。


「ちょちょちょっと待てよ。君は人間だろ?

ディッツ星人はあの中にいるのか?」


「はい。ギギ様がいらっしゃいます。それに心外ですねその言い方は。私たちも姿は違えどディッツです。」


ディッツ星の記憶を有する者ならたとえ人間であろうともディッツ星人だと薫子は言っているのだろう。


「しかし、ディッツの棲む海域に生身の人間は住めないぞ。

船の環境はどうなってるんだ。」


ディッツ星人は普段海の中で暮らす。

それならば、宇宙船の中は海水で満たされているはずだ。


「良く思い出してください。行ってみれば分かりますよ。」


「そんなこと言たって。」


ここまで連れて来られた以上、行くしかないのだろう。

逃げるにしてもここは深海だし、地上へ戻るすべをしらないのだから。


それから俺は、宇宙人の姿を想像した。

人類よりも背が高く、目が八つもあるのだ。

手と足にはひれがついている。来たるべきランデブーに向けて恐怖を覚えた。


「着艦します。」


薫子の声に我にかえると

宇宙船からレーザービームが射出されていた。

潜水艦はそこへ誘導されハッチの中へ収容されていく。



怖い。だがもうどうしようもない。



もう、ここは宇宙船の中なのだ。


ゴウンと大きな音がして隔壁が閉まる。

それは二層構造になっていて、ドックの海水を排出し始めた。

代わりに空気が注入されていく。そうモニターに表示された。


「ディッツは海底から地上へ進出し文明を築いた種なんです。」


傍に立つ薫子が言った。


「ディッツの居住区は海水ですが、

作業区画は地上と同じ空気を充填しています。

ディッツの寝床は海水域、

作業場は地上と思ってい頂けるとよろしいかと。」


「どうぞ船内へ。」


薫子に連れられて、潜水艦を降りた。

降りてから気がついたが、広いドックには潜水艦があと2隻係留されている。


「大きいな。」


俺は周りをぐるっと見上げてみた。

陰気さはなく、船内は白銀の壁で美しかった。

装飾などは、どことなくアールヌーボーを思わせる。


「どうぞこちらに。」


隔壁を出ると、通路になっていた。

通路も広い。車が一台通れる程の幅があった。


100メートル程歩いた場所にあった扉の前で薫子がとまった。


「機械を直す前にこちらが和泉さんのお部屋です。

ご自由にお使いください。

それに今日はもう遅いですからお泊まりください。

着替えはこの中に、トイレとシャワーはこちらです。」


自動式のドアを開け中に入ると、薫子が説明を始めた。

8畳ほどの部屋に、ベッドと机、その上には何かの操作パネル、

それと冷蔵庫が置かれている。



いや、誰が泊まるって!

まず、宇宙船に乗ってしまった自分に驚いているが、

その前に今日は俺の誕生日だ。とにかく帰りたい。

それにそうだ!


「待ってよ。俺、宇宙船の機械なんて直せないぞ。」


薫子は俺の方をみるとため息をついた。


「直せますよ。そのために百年も待ったんですから。

それと道具一式をお渡ししますディオフラニア。」


机に置かれたのは、


腕輪、ステッキ、キーボードのようなものの三つだった。


おそるおそる受け取ると、

やはり不思議と使い方が分かる。


腕輪をつけてキーボードを操作すると、

目の前に画像を映し出す映像パネルが出現した。


検索;故障箇所。


どこの機械が壊れているのか検索してみた。

船内の故障箇所を示すマーカーが表示される。

エンジンルームと艦橋の故障が著しい。

この船はこれらの故障が原因で地球に墜落したのだと分かった。

今でも飛び立てずにいる。



「いいよ。もう。」


俺が一日で直せるような代物でないことだけはわかった。

だが、直すことは出来る。

直せないという心とは矛盾するようにディッツの機械を操作する度

記憶とともに勘がとりもどりつつある。

まだ何をどう修理するかは分からないが不思議と確信が湧き上がってきた。



「君の本当の名前は?」


ディッツ星には、各職業によって名前が決まっていることを、

俺は、はたと思い出した。

名前に何の職業名があるので、

それによって付き合い方も変わってくることを。


あの鈴木 薫子は偽名のはずだ。



「申し送れました、フィレナリア・ゼゼ・ディッツと申します。」


「フィレナリア?君は王家の執事か?」


「はい。」


キーボードを操作する。

搭乗員名簿にはフィレナリア・ゼゼ・ディッツともう一人しかいない。



「そうすると、乗っているのはギギ・ディッツ。

ギギ・ディッツ?王妃?王女じゃないか!!!

この船には二人しか乗っていないのか?」


職業名がなくディッツと名乗るものは王家しかいない。性別は女性となっていた。


「はい。ギギ様は王女であらせられます。」


ディッツ星の王女がディッツ星人として

たったひとりこの難破船に乗っている。


「機械を直さない限り、俺を地上に帰えす気はないんだろう?」


「はい。」


口調は強く威圧的だった。



だが俺に選択肢はない。それに壊れた機械をほっておくわけにもいかない。

俺の機械を見捨てられない悪い性癖が出始めていた。



「今日は泊まるよ。たださ、俺の寝るところに、お前いてくれないか?」


「何ででしょう?」


怖いからに決まってるだろ!とは言えず。


「なんででも。」


俺はそのままベッドへもぐりこんだ。


「分かりました。」


ゼゼは、床に座りベッドを背にして体育座りをしている。


俺は王女に会う事があるのだろうか?

いや、身分の低い俺が会うわけがないが、

ディッツ星人の恐ろしい姿を想像して身震いがした。


出来れば会いたくない。俺はこれからどうなるんだろうか?


それもはっきりいって考えたくない。


「あのさ。何で佐藤さんは俺がこんな目にあうのを知ってて

嘘をついてまで芝居をうったのか?」


「いいえ、あなたが携帯で話した相手は人工知能のロティです。

貴方がお生まれになった日から長い間、

あなたの日常の生活を監視させて頂いていましたので。

人間関係に至るまで。」


「なるほどね。そういうこと。」


「もう、何があっても驚かないよ。」


この部屋はいい香りがする。

ああ、ゼゼつけている香水なのだろう。グレープフルーツの香り。


香りが眠りを誘い、うとうとしているうちに絶対絶命の状況下の中、

俺は、不覚にも眠ってしまった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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