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自称:枯れ爺と魔神

作者: 島村 りさ

拙い作品ですが、よろしくお願います。誤字や脱字、アドバイスがあればよろしくお願いします。

 麗らかな午後。お昼のTVをぼんやりと眺めていると「本格派カレー特集」と称して、おしゃれなお店で女子アナが激辛カレーを食べたり、お家で作れる本格派インドカレーのお料理コーナーが流れている。

「美味しそうですねぇ」

 そうつぶやいたところで答える者はいない。―――いや、愛犬が「きゃん」と同意するように一声鳴いた。

「ふふ・・まだまだ日も高いですし、時間に余裕はあります。ちょっと買い揃えてきましょうかね」

 よいしょっと立ち上がると、犬の散歩がてら商店街まで歩くことにした。



「えぇと・・チャツネにガラムマサラっと」

 食材メモを片手に、店先で待たせている愛犬を気にしつつ、買い物を急いだ。まだまだ暑いというのに、すでに秋の食材がちらほら見え始める店内は誘惑が多過ぎる。

 恐らく今回しか使いようのないスパイスの山を見て、一瞬購入をためらったが、それがどうした。やりたいことをやると決めたのだ。この残暑をカレーで乗り切るつもりでいればなんとか消費出来よう。

「私には“おすそ分け”という最終手段があるのだよ」

 どこぞの悪役よろしく、そう口にすれば、怖いものなんて何もない。犬用のお菓子を一つ購入すると、馴染みのレジを通る。

「今日もポチちゃんはいい子だね」スーパーの入口から、白い毛玉が見える。

「ええ、自慢の子です」


「お待たせしました」

 ご褒美目当てか御主人目当てか、小さな尻尾をちぎれそうにふる愛犬をひとなでし、家路に着く。と、商店街の一角、普段は気にもとめない古物商の前を通りかかった。

「―――そう言えば、カレー入れは家にありませんでしたね」

 銀色のカレー入れ。本格派カレーを作るなら、是非とも入手したいアイテムだ。さっきのスーパーには無かったはずだし、金物屋にでも行けば手に入るだろうか。

「確か食器や小物を取り扱っていましたよね」

 入口からは高そうなティーセットや腕時計が見える。もしかしたら―――あるかもしれない。愛犬に目線を合わせると、つぶらな瞳はじっとこちらを見据えた。

「ポチくん、ちょっと留守を頼みますね」

「きゃん!」


 中は思っていたよりもリサイクルショップに近く、手前のものは若者向けのフィギュアが数点並んでいた。奥には天球儀や望遠鏡などの玄人向けの骨董品や異国情緒溢れる品があり、なんとも混沌としていた。

「色々ありますねぇ」

 時間を忘れるくらい眺めていたかったが、あいにく相方を待たせている。食器コーナーだけで我慢しましょう。


「やはり無いものですね」そもそも需要が少ないのだろう。ネット通販では見つかるだろうが、私は今日使いたいのだ。

 妖しく光る古めかしい品々を横目に出口へ踵を返す。と、鈍色が視界の隅に入った。壺などと一緒にされて気付かなかったが、これぞまさしく求めていた形状だった。

 細かな装飾、丸みを帯びた注ぎ口、手に馴染む大きさ。蓋も綺麗にはまり、歪みはない。なかなかの保存状態だ。値段はカレーの材料費よりも高くつくが、そもそも適正価格が分からない。高い気もするが、ここまで自分好みのものに出会えるとも限らない。決断は早かった。


「さ~てポチくん、今夜はカレーですよ」分かっているのかいないのか、愛犬がひと鳴きする。玉ねぎは禁忌だが、個別に鶏肉と野菜を取り分けて、料理を分かち合おう。

 元来の手先の器用さを発揮し、難なく調理は進んでいく。肉はやわらかくなるように漬け込んだほうが日本人好みだとあったが、時間もないし、このままで行こう。あとは煮詰めるだけ、と言うところで食器の準備を忘れていた事に気付く。

 保存状態は良かったが、きちんと洗わなくては。食器用洗剤で丁寧に洗っていく。見れば見るほど綺麗な器だ。

「インテリアにしても良さそうなくらいです」しかし、和風の家では少々浮いてしまうかもしれない。細かな装飾を傷つけないように柔らかなタオルで拭いていると、愛犬が不思議そうな顔でこちらを見上げていた。

「これはですね、先ほどの骨董品屋さんで買ってきたんですよ」

 目の前に差し出すと、おっかなびっくり臭いを嗅いでいる。可愛らしいなぁと思っていると、装飾に使われていた赤い石が妖しく輝いた。途端、愛犬が激しく吠えた。

「え?」急にランプから煙が立ちこめ、辺りを包む。それが逆再生を見ているかのように徐々に人の形へと変わっていく。


 目の前には精悍な顔つきのたくましい青年の姿があった。


 思わず周りを見渡し「ドッキリ?・・・いや夢?」と呟いている家の主に対し、青年が落ち着いた声で話し始める。

「俺は見ての通りランプの精、魔神だ」

 ここでやっとカレー入れ(正式名称はソースポットやグレイビーボートと言うらしい)ではなくランプを買ってしまったのだと理解した。が、魔法のランプを買ったつもりはないし、状況が理解できたわけではない。

「誓約と契約により汝の願いを三つ叶えよう」

「・・・・」唸り声をあげる愛犬を抱き寄せ、麻痺した頭を懸命に動かす。

「あの、願いを100個に増やすというのは?」

「却下だ」

「ですよねー」思わず口をついたのは不法侵入!でも不審者!でもなく、子供の頃に夢想した内容だった。

「契約書に記してあるが、叶えられない願いというものがある」

「へぇ?」

 自称ランプの精は空中に手をかざすと紙・・と言うより羊皮紙?に記されたような古めかしい文書が現れた。

 空中に浮かんだ一覧を見ると、怪しげな文字がぐにゃりと歪んで日本語になる。

「おお!?」

「読めないか?見た者が理解出来るように魔法がかけられているはずなんだが」

「自動多言語対応とは夢の技術ですか?」思わず声が大きくなる。

「は?」

「ふむ・・随分と細かいんですね」

 突然現れたことやこの状況についての質問よりも、この摩訶不思議文書の方に気が取られてしまう。―――願いの請求権はランプで呼び出した者に限る。富みは属する周辺地域の生涯年収×〇〇まで、病気の治癒は〇〇まで、肉体の一部を取り出すことは可能。不死は不可能・・どれだけ無理難題を申されてきたのかご苦労が偲ばれます。

「それで、願いは決まったか?」

「そうですねぇ・・・」いつの間にか愛犬は腕の中で尻尾を巻いて鼻を鳴らしている。縮こまった体をほぐすようになで上げるとわずかに尻尾が揺れた。

「私一人とペットが不自由なく暮らす程度の蓄えと収入はありますし、今のところは健康ですし、差し迫った問題もありませんし・・」ならば思いつくのはアレしかない。決めた。


「では、“世界平和”で」


 柔らかく微笑む主人とは裏腹に、ランプの精は目を見張った。

「・・・それがお前の願いか?」

「はい」透き通った真摯な瞳は冗談ではないことを告げている。

「・・・・・残念ながら願いの範疇を超えているから叶えることができない。他にはないのか?」目の前の人間が何を言っているのか信じられないという目のまま話を続ける。

「う~~ん・・では“お願い”です。私に叶えられる願いの範疇を詳しく説明していただけますか」そう言って人差し指をあげた。

「ああいいぞ・・?」それに違和感を覚えながら了承する。

「契約書にも書かれている通り、なんでも叶えられる訳ではない。不老不死は却下だ」

「そのようですね、では次に“お願い”です。どうして貴方が――」中指を更にあげる。

「ちょっと待て」惚けていた顔が厳しいものになる。

「はい?」

「まさかその質問だけで3つの願いを使う気か?」

「・・・バレちゃいましたか?」えへ

「却下だ却下!そんな姑息な真似出来るか!!」

 ランプの魔神は親切でした。ブラック企業に爪の垢を煎じて飲ませたいです。

「なんでそんなに欲がないんだ!?大切に使おうとして最後の3つ目で逡巡するのは予想していたが、最初の願いすら叶えられないとは想定外だ」

 あらあらまあまあ。そんなことを言われても、思いつくものはないのだし、魔人を引き止めるのもよくないと思ったからなのだが。

 ことこと

はっ

「あぁそうだ、カレー作っていたんでした!!」

 台所へ駆け寄ると、カレーが焦げ付いていないか確認する。どうやら大丈夫そうだ。下手にアレンジせず、レシピ通りに作った2~3人前のカレーは食べ頃だ。

「・・ちょっと質問なんですが」

「願いには含ませないぞ」すかさず魔神が視線を尖らせる。

「えぇ分かっていますよ(笑)魔神さんって食事はするんですか?」

「栄養補給はする」

「人間の食べ物を召し上がったりは?」

「可能だ。そういう場合もある」

「では、良ければ食べて行きませんか?魔神さん」

 大皿を2枚用意すると、そう言って微笑んだ。

「・・・・こいつは一筋縄じゃいかなさそうだ」ぼそっ


 画して、自称世捨て人と魔神の奇妙な関係が始まったのである。

2015年3月くらいに思いついて箇条書きにしていたものに肉付けをし、テンポが悪くなってしまいましたorz

前半の意味ありげな無意味なボリュームと後半のあっさりさは、私の集中力とやる気の差です。

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