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シンサニア王国へと降り立った勇者とリラサ。

しかしその直後…

「ここがシンサニア王国か」


 俺とリラサは王宮のすぐ外へと到着した。

 俺は緑豊かな王国を想像していたのだが、ここは砂が舞う砂漠に囲まれた地であった。

 照りつける日差しが容赦なく俺たちに照りつける。


 てっきり、到着する場所は王の前かと思っていたのだが、いきなり目の前に現れると無用な混乱を招くとの判断らしい。

 たしかに、いきなり目の前に勇者とOLが登場したらびっくりする。


「なぁリラサ、まずはどうするんだ?」


 リラサは俺の話が聞こえていないようだ。

 なんだかフラフラしている。

 と思ったらバランスを崩し倒れそうになった。


「おいおいどうした!」


 リラサを支えながら聞いた。

 そうすると小さな声で答えた。


「あ……暑い。み……み……ず」


 そう言って気を失ってしまった。

 たしかに暑い。

 でも耐えられない暑さじゃないだろ。

 そうだ、リラサはOLになっていたんだった。

 そう、黒のスーツである。

 この日差しで黒のスーツは自殺行為すぎた。

 一流の社畜リーマンでも着ないレベルの日差しだ。


 俺はひとまず街へ出て、休める場所を探すことにした。

 このまま直行して話を聞きにいくのもありだけど、俺にはちょっとやりたいことがあったのでちょうどよかったのかもしれない。


 リラサを背負い街へ向かった。

 背中に柔らかい感触が、だめだだめだ。

 はやく休めるところを探そう。


 幸い宿屋を見つけることができた。

 ベッドにリラサを寝かせたのだが、すごい熱を持っている。


「リラサ、聞こえるか? 服を脱いで冷やさないと悪化するぞ」


 だがリラサは聞こえていない、というか朦朧としていてとても話を聞ける感じではない。

 困った。

 非常に困った。

 これは緊急事態だからやるしかない。

 さすがにこれならリラサも怒らないはず。

 そう言い聞かせながら俺は服を脱がせることにした。


「リラサさん。決して下心があるわけじゃありません。あなたのためです。だから、服を脱がさせてもらいます」


 そう宣言してから服を脱がしていった。

 Yシャツを脱がせシャツ一枚になった時、リラサが俺の腕を突然掴んだ。


「すいませんでした!!怒らないで蹴らないで!」


 俺は必死に謝ったのだが、どうやら勘違いだったらしい。

 リラサは何か言っている。


「お母さんお父さん……離れたくないよ。どうして私達だ……け」


 涙を流していた。

 何かを思い出したのだろうか。

 俺は、しがみついた腕をそっと外した。

 腕には後がくっきり残っていた。

 この娘も何かを背負っているのだろうか。

 人は誰しも悲しみを抱いている、昔みた刑事ドラマで聞いたそんな言葉を思い出した一瞬だった。


 俺も疲れていたのでそのまま眠ってしまった。



「起きて」


 リラサに起こされた。

 すっかり外は暗くなり、賑やかな声が聞こえる。


 リラサは、顔色も良くなり、すっかり元気になったようだ。

 

「もう大丈夫なの?」


 リラサは恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「大丈夫。側で看病してくれてありがとう」

 

 ペコリと頭を下げた。

 別に大したことはしていないんだけどな。


「あんまり無理しちゃダメだぞ」


 俺はそう言ってリラサの頭をポンっと叩いた。

 やってから気づく俺が悪いのだが、これは殴られると思った。

、でも拳は飛んでこなかった。

 これは予想外。

 ちょっと自分でやっておきながらかなり恥ずかしくなった。

 

「ちょっと外歩いてみないか? この世界を目で見て確かめてみたい」


 俺がすぐ王の元へ行かなかった理由はこれだった。

 この世界の人々がどう生きているのかを知りたかった。

 俺と同じ勇者が命をかけて救った世界。

 人々はどう感じているのか。


「いいわよ。じゃあ行きましょう」


 そう言ってリラサは立ち上がったのだが……。


「あの……服が」


 俺が脱がしたままだった。

 シャツ一枚の姿で夜の街を出歩くのは当然マズイ。

 俺の精神衛生上でもヤバイ。

 リラサは顔を真っ赤にして服を持ってバスルームへ走っていった。

 

 

 宿屋を出て向かったのは市場。

 人々が行き交い、酒を飲み、踊り、楽しんでいた。

 見る限り平和そのものだ。

 俺たちは食事をするために大きな酒場にはいった。

 どうやらこの店の一番人気はハンバーガーらしい。

 いったい何の肉なのかは知らないが、たしかに非常に美味しい。

 リラサは嬉しそうにかぶりついている。

 やっぱりこういう姿を見ると、まだまだ幼い。

 

 俺も一緒に食べながら、周囲の話に耳を傾けていた。

 すると、気になる話が聴こえる。 


「しかし、王国も安泰だな。唯一の脅威であった魔王も何故か消えちまったし」

「ああそうだな。王国はますます潤っている。もはや他国も相手にならんな」

 

 おかしい。

 魔王が消えたのは勇者が倒したからだろう。

 どうして、それを国民が知らないんだ?

  

「現国王のハルベスク様は相当なやり手だって聞くぜ。なにやら裏でやってるって噂も聞く」

「ああ、それは俺も聞いたことがある。資金力にものを言わせて歯向かうものを……」

「おい、やめておけ。どこで密告されるかわかんないぜ」


 どういうことだ。

 俺は平和を愛する心優しき王だと思っていたのだが、この会話からはそれを感じることができない。

 何かがやはりおかしい。

 俺はリラサに聞いた。


「なぁリラサ。前の勇者に王が魔王のことを頼んだ時はどういう状況だったんだ?」


 リラサがハンバーガーを食べるのを止めた。

 いつのまにか4つ目だぞもう。

 思春期の少女の食欲は恐ろしい。


「ふぇ?ああ、えっとちょっとまってね」


 あの手帳を取り出して調べ始めた。


「うーんとね。状況はこう書いてあるわ」


『この国は大いなる闇という魔王によって攻撃を受けている。だが、この国は兵を持たないと王は言った。だから戦うことができないので勇者を呼んだという。私はその言葉を信じ旅立った。王国を救ったあかつきには報酬として、王国の秘宝である火の魔法石を与えるという』


 リラサが手帳を読んで説明してくれた。

 

「こんな感じね。その後の報酬である魔法石はもらってないわ。どうやら『準備ができたら再び呼ぶ』って言ってそのままみたい」


「そうか、ありがとう助かった」


リラサが不思議そうに聞いてくる。


「どうしてそんなことを?何か気になることでもあった?」


 俺の考えすぎかもしれない。

 これだけではなんとも言えないが、国民、民のことが出てきていないのが気になる。

 勇者を呼んだ理由はただ単に『兵を持たないので戦えない』からだったのだろうか。


「いやなんでもないんだ。もう帰ろう」


 まぁ、明日確かめればすべてが分かるだろう。

 こうして俺たちは宿屋へ帰った。

 

「明日は王に会う予定だが、その前に朝からちょっと調べたいことがあるんだ。早起きして付き合ってくれないか?」


 リラサに寝る前にそう伝え了承を得た。

 明日、説明したほうが早いと、理由は伏せておいた。


「ところでベッド一つしかないけどどうする?」


 また悪い癖が出てしまった。

 でもさっきのリアクションを考えるともしかして、もしかして……?


「は?どういう意味よそれ」


 またまたとぼけちゃって。

 

「いやだからベッド一つしかないから一緒でいいよねっていう」


 拳が飛んできた。

 やっぱりな。

 うん、わかっていたんだそれぐらい。

 でも万が一ってこともあるしね?

 可能性が1%でもあればそれにかけるのがギャンブラーだから。

 いや、今回も負けましたけど。


「すいませんでした。調子に乗りすぎました。床で寝ます」


 リラサはちょっと怒った顔だった。


「当然でしょ。バカ。変なこと考えてないでさっさと寝るわよ。明日早いんだから」


 はい。

 姉さん、石でできた床が冷たくて、硬くて、辛いです。

 

 こうして俺はいまいち熟睡できないままシンサニア王国での2日目を迎えた。

 

 

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