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未だに報酬を支払わない世界のシンサニア王国
いったいどんな国なのだろうか
「さぁ、シンサニア王国へ向かうわよ。でも、その前にに着替えないと」
リラサはやる気満々だ。
しかし、着替えるってなにに?
今のリラサは地味な格好、普通の田舎のお嬢さんって感じだ。
ちなみに俺は勇者勇者してる格好。
重い、重すぎる。
「今日は戦うわけじゃないし、別にそのままでいいんじゃないか」
「は?こんな服装じゃなめられるでしょ!」
いや、よく意味がわからん。
服装でなめられるとかあるのか。
「絶対後ろ見ないでよね!」
そう言ってリラサは上着のボタンを外し始めた。
おいおいここで着替えるのかよ。
大胆なのかガサツなのかよく分からない。
サービス展開きたー、ってここで見たらまた強烈な蹴りが飛んでくるから我慢した。
「おまたせ!いいわよ振り向いて」
やれやれいったいどんな服装なんだって振り返ったら、そこにはOLがいた。
そうOLだ、何を言ってるかわからねぇと思うがOLがいた。
黒いスーツを着て、ハイヒールを履いて、メガネ姿のリラサがそこにはいた。
「どう?いいでしょこれ。私の戦闘服」
ああ戦闘服だったのか、それなら納得だわ。
ってできるわけねぇ。
「どういうことだよそれ。理由は?」
これから行く世界よりこっちのが断然気になる。
そもそもOL姿って俺の世界だけじゃなかったのか?
それどこで手に入れたんだ?
「取り立てに行くのに、あんな格好じゃ威圧感が足りないでしょ。この格好ならピシっとして、こいつできる感がでるじゃない」
そう言ってメガネクイッのポーズを決めるリラサ。
俺の勇者ポーズはバカにしたくせに、自分も決めポーズするのかよ。
仕事ができる丸の内にいそうな感じだ。
「うーんそういうもんか?あと、目悪いの?」
視力悪いようには感じなかったけど、実は今までコンタクトだったんだろうか。
「これはダテよダテ!メガネのほうが更に締まるでしょ!」
再びメガネクイッ。
気に入ってるんだなそのポーズ。
可愛いから許すけど。
「んぁあ……そうだね」
俺は無理矢理に納得したように答えた。
どうやら、この娘も俺と同じで変人の気があるな、同じ匂いを感じる。
「なによそのあんまり納得してない感じは!」
リラサがプンプンしている。
可愛いやつだ、ちょっとからかってやるか。
「いや、でも似合ってるよすごく。可愛いし」
見る見るリラサの顔が赤くなっていく。
うーんこのトマト。
「そんなこと聞いてないわよバカ!」
やっぱりまだ中学生ぐらいの少女だな。
リアクションが若くてええのう……。
おっとオッサンみたいな感想になってしまった、いかんいかん。
「で、そろそろシンサニア王国のことについて教えてくれ」
おふざけはこれぐらいにしておこう。
俺には大事な仕事があるんだからな。
「何急に真面目モードになってんのよ。わかったわよもう。じゃあシンサニア王国についてね」
シンサニア王国か、まったく聞いたことがない。
というか異世界の王国のことなんて一つも知らないけど。
「シンサニア王国は、かつて大いなる闇と呼ばれる魔王によって侵略されていたわ」
やっぱり魔王ってどの世界にもいるもんなのかな。
こないだの最初の異世界は大いなる闇とは言ってなかったけど。
「その大いなる闇から守ってもらうために、勇者を召喚したのがシンサニア王国34代目の王であるハルベスク・ジスタリア」
34代目か、ずいぶん歴史のある王国なんだな。
きっと偉大な歴史のある国に違いない。
「シンサニア王国には、普通の王国とは違う特徴があったの。一つあなたに聞くけど、勇者を呼ぶ前に魔王と戦っているのが普通よね?」
「ああ、それが普通だと思う。それでも勝てそうにないから、勇者を呼ぶ?みたいな」
俺が知ってる勇者像というか勇者物語はそんな感じだ。
現に最初の世界でそうだったし。
「そう、それが普通。でもね、シンサニア王国は違ったの。彼らは徹底した非武装中立、非暴力主義だったのよ」
話がおかしいな。
「彼らは、敵と戦うための軍隊、いいえ自国を守るための軍隊すら持っていなかったのよ」
そんな王国あるのか。
きっと平和が永遠のように続く国だったんだろうな。
でも、なんだかそれっていいのか?
うーん。
そんな国が存在するなんて思いもしなかったから悩んでしまった。
俺のいた世界でも、中立国や戦争をしない国はあった。でも自国を守るための力すら持たないってのはちょっと行き過ぎじゃないか。
でも、最終的に理想なのはそういう世界なのか?
「ずいぶん悩んでるわね。あなたには分からない方針ってことね」
リラサはお見通しだった。
ズバリその通りなんだが。
「だけど、結局は勇者を呼んだんだろ?そこらへんの考え方がわからないんだ」
リラサも頷いた。
これは気になる話だ。
「あなたの疑問はそのとおりだと思うわ。私も同意見。だからハルベスク・ジスタリアにその話を聞いてみましょう」
たしかに二人で悩んでもしょうがない。
王にまずはこのことを聞こう。
取り立ての前にそこらへんはハッキリさせておきたい。
「Eランクってことは魔王自体は大したことなかったの?」
俺でも余裕で倒せるレベルがFランクだし、今回のもそんなに強くなさそうだ。
「勘違いしないで。世界のランクは魔王の強さだけで決まるわけではないの。その世界の存続している長さや、秘めている力の量など色々なことで決まるわ」
そうなのか。
てっきり魔王だけで判断しているのかとおもった。
色々って他にはいったい何があるんだろうか。
そこは後日聞くとして。
「じゃあ、ランクだけで油断しちゃいけないってことだな」
良かった聞いておいて、勘違いしたままだったら超強い魔王にいきなり突っ込んで殺されそうだし。
「そう、アンタが力を貸す時は気をつけなさいよ」
人は見かけによらず、異世界はランクによらずってか。
「あとはなにか聞きたいことある?」
リラサが手帳を見ながら聞いてきた。
あと聞きたいこと、なんだろう。
ああそうだこれがあった。
「そんな考えの王が、未だに勇者に報酬を払い終わってないってことだよな?それっておかしくないか」
そんなたいそうご立派な主義の国がきっちり払わないとは、ちょっと考えにくい。
何か重大な理由があるに違いないと思った。
「そうね。おかしいわね。その理由も今回問いたださなければいけないわね」
やっぱりリラサも全てを知ってるわけじゃないんだな。
しょうがない、会って腹を割って話してもらうか。
「質問は以上ね。じゃあ行くわよ」
そう言ってリラサは指で空中に魔法陣を描き始めた。
魔法陣を描き終えると、何やら唱え始めた。
「存在を司る者よ、我は命じる。望みし世界へ、望みし時へ旅立つことを」
俺たちは大きくなった魔法陣の中に入った。
「いざゆかん、シンサニア王国へ!」
その瞬間俺は光に包まれた。
体が消えていく。
ああ、また異世界に行くのか。
この感覚にもすっかり慣れてしまったわけで。
人間ってすごいわ。
――――――――――――その頃、シンサニア王国では
「勇者が戻ってくるぞー!!」
王宮は慌ただしくなっていた。
明らかに勇者を迎えるためではない。
兵や神官の顔には異様な気を感じる。
「陛下、勇者が戻ってまいります。あのことではないでしょうか」
家臣らしき者が34代目の王ハルベスク・ジスタリアに耳打ちしている。
王は明らかに不敵な笑みを浮かべていた。
「わかった。手はず通りに事を進めよう。勇者はお人好しだった。どうせ今回もうまくいく」
やはりこの王も勇者を歓迎するつもりはないらしい。
非武装中立、非暴力主義を掲げるシンサニア王国・
彼らは何をしようとしているのか。