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フィナンス・アレクシール

 リラサの話の全てが納得いったわけじゃないが、説明してくれて助かった。

 少なくとも俺はやることをやれば解放されるってことだ。

 目的がハッキリするのは大事なこと。


 さて、夜飯を食べるか。

 冷蔵庫に俺の世界の食べ物があるって言ってたな。

 何が入ってるんだろうか。


「……カップ麺かよ」


 はい。

 ありがとうございます。

 毎日カップ麺食べていた俺にとっては最高のごちそう。

 しかも俺が好きな「夕焼け醤油ラーメン」じゃねーか。

 これがあればこの世界でも余裕で生きていける、そう確信した。

 ソファーに座り頂く事にしよう。


 お湯を注いで3分。

 いつも、この3分が長い。


 リラサはいったい何者なのだろうか。

 まだ、あどけなさが残る少女じゃないか。

 喋り方も俺の世界と同じような感じだった。

 あの声の主の仲間なのだろうか。

 謎はやはり残る。

 しかし、今はあんまり深く考えても仕方がない。


 そんなこんなしていると3分が経った。


「いただきまーす!」


 風邪が語りかけます、美味い、美味すぎる!

 これだよこれ。

 俺は腹を満たすと同時にホッとした。

 一度の食事でこんなに安心できるのは初めてだ。


 一気に食べ終えてしまった。

 食ったらすぐ横になること、これが良い睡眠の秘訣。

 俺はソファーに横になった。

 まさに至福のとき。

 うとうとしていると、ふと思ったことがあった。


「……名前どうしよ」



 そう名前。

 俺には、朱条 明という名前がもちろんある。

 今まで生きてきてずっと使ってきた名前だ。

 しかし、俺は生まれ変わったのだ。

 しかも異世界でも本名を使い続けるのはいささか不安もある。

 今日行ったような世界でこういう和名は似合わない気もするし。

 新しい名前を考えよう。

 こうして俺は朱条 明という名前を封印した。


 ――――――次の日の朝


 太陽の暖かい光が部屋に差し込む。

 朝日と共に目覚めるなんて何年ぶりだろう。

 爆睡できて体も軽い。


「やっぱり目が覚めても勇者だな」


 当然のことなのだが、やはり夢の可能性もまだ捨てきれていなかった。

 もしかしたら、目が覚めたらいつもの日常が始まるのではないか、そう心の片隅で思っていた。

 でも、やっぱり俺は勇者だった。


「ちょっと!はやく開けなさいよ!」


 ドアノブがガチャガチャ言っている。

 リラサがやってきた。

 朝が早いことで。


「おはようさ~ん」


 俺は鍵を外してやった。

 と同時に、蹴り飛ばされた。


「ちょっとアンタなんて格好してるのよ!」


 え?

 ああ、そういえば俺トランクスいっちょだったわ。


「寝る時は服を着ないタイプなんだよね俺」


 リラサが俺を踏んづける。

 朝っぱらから美少女に踏んづけられる勇者。


「そんなこと聞いてないわよ。はやく勇者らしい格好をしなさい」


 俺は急いで着替えた。

 勇者らしい格好ってガチャガチャして重いから好きじゃないんだけどなぁ。


「待たせたな。勇者の登場だ」


 決めポーズで決めてやった。

 どうだカッコイイだろう。


「いちいちイラつくのよアンタは」


 ケツから蹴られた。

 ちょっと調子乗るぐらいいいじゃん……。


「今日は実戦で色々教えてあげる。取り立てにいくわよ」


 昨日の今日で、俺は借金取りの実戦か……。

 いつも取られてたほうの俺にとってはやっぱり荷が重い。


「ちょっとまって!その前に伝えることがるんだ。俺の名前について」


 リラサが不思議そうな顔で俺を見つめる。


「アンタの名前は アキラ でしょ?」


 え?

 俺教えた覚えないんだけど。


「そうそう、アキラって言いますってなんで知ってるの?」


 リラサがさも当然のように語る。


「アンタのこと前から知らされていたから」


 誰にだよ誰に。

 そうか、あの声の奴だな。

 まぁそれなら知っててもおかしくないか。


「やっぱさぁ、本名で勇者やるってのはちょっとね。だから新しい名前を考えたんだよ。働くときの名前、芸名?みたいなもんだね」


 一晩考えて決定した名前がある。

 勇者っぽくて借金取りっぽいいやつ。


「そんなことどうでもいい気がするけどね。いいからはやく発表しなさいよ」


 もっと期待してくれよ。

 発表のしがいがないだろうが!


「俺は、勇者フィナンス・アレクシール!」


 どうだまいったか!

 ぐうの音も出ない勇者っぽい名前だろ。


「ダッサ」


 俺の誇り高き心を破壊するにはいささか少ない言葉数であったが、威力は十分であった。

 俺の心をえぐり、むしり、ちぎり、跡形も無く粉々にする一撃であった。


「オブラートに包めよ!ちなみに、フィナンスは金融って意味でアレクシールってのは俺が昔好きだったヒーローの名前な!」


 ちゃんと説明すれば分かってくれるだろ。


「だから何よ。ダッサ。私は呼ぶならアキラって呼ぶわ。アンタは勝手に名乗ってなさいよ」


 ああああああ!!!!

 あああ!!

 おれははっきょうした。


「うるせーチビ!わかったわ勝手に名乗るわ!俺は勇者フィナンス・アレクシール!」


 リラサは無視して部屋の奥に歩いて行った。

 無視されるのが人間一番辛いんだよ?わかるかなお嬢さん。


「これから取り立てにランクEの異世界へ向かうわ」


 リラサの目はさっきと一転して真剣そのものだ。

 これは真面目モードの話だな。

 俺も真面目に聞かなければ。


「向かうのはシンサニア王国と呼ばれる場所よ」


 当然のことだが聞いたことがない。

 ここはかつて勇者によって魔王が封印されて救われた世界。

 今は悪も存在せず平和を謳歌しているはずよ。

 そんな世界に取り立てに行くのか……なんだか気が進まないなぁ。


「で、どれくらい残ってるの?滞納は」


 借金って行っても少し残ってるとかそのレベルだろうと思っていた。


「この世界は、まったく勇者に対し報酬を支払っていないわ」


 おいおいマジかよ。

 俺だっていつも少しは返していたぞ。


「完全に踏み倒そうとしてるってことか?どういうことだよそれ。何で前の勇者は何もしてこなかったんだよ」


 普通いくらかはもらって残りは今度とかになるだろ。


「だから言ったでしょ、前の勇者は優しすぎたって。それに返す返すって言っていたのよ、この世界の王と呼ばれている人は」


 優しすぎだろ前の勇者。

 やっぱり俺とは大違いだな。


「じゃあかなり悪質だな。今回の取り立てで完全に回収するのか?」


 リラサは強い口調で言った。


「そうよ、利息含めて完全に回収するわ。たとえなにが起こっても、何をしてでもね」


 怖い。

 本気の目だ。

 最後の「何をしてでも」ってとこがとくに怖い。


「何をしてでもって……何をするんだよ」


 リラサが笑った。


「それはあなたが考えるのよ。回収はあくまであなたの仕事。私はアドバイザーよ」


 俺が本交渉までやるのかよ。

 ずぶの素人の俺が。


「分かった。アドバイスよろしく頼む。で、その異世界に向かう方法は?」


 部屋に見た限りゲートらしきものはない。

 魔法陣みたいなものもないようだが。


「これよこれ」


 リラサが指さしたその先にはなんと……!!

 黒電話。

 そう黒電話、あの黒電話である。

 今の子供は恐らく知らないであろう電話のおばあちゃん。

 くるくる回してかけるんだぜ!

 俺はかろうじて知ってるレベル。


「あのさ。それはギャグで言ってるのか?これはタダの電話だぞ」


 俺は冷静に聞いてみた。


「ギャグじゃないわよ。これで異世界への扉を開けるわ。今から言う番号にかけてみて」


 リラサが手帳を取り出した。

 何やらびっしり書いてあるようだ。


「番号?電話をかければいいのか?なんだその仕組み」


 リラサはさも当然のように続けた。


「463-2585-321。かけてみて」


 言われるがままに俺は電話をかけた。

 そしたら受話器から声が聞こえた。


「なにやつ!?」


 爺さんっぽい声だ。

 明らかに驚いている声。


「こう伝えて。「もしもし勇者だが、借りを返しにもらいにいく。準備をしておけ」ってね。ちゃんとどドスを効かせなさいよ」


 こいつ、できる!

 俺は、今まで怖いオジサンから自分にやられていたことを思い出した。

 今度は俺がやる番か。


「もしもし!俺だぁ勇者だ!今から借りを返しにもらいにそっちへ行く。準備しておけよ」


 さぁ、覚悟しろ。


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