滞納者
「そうたくさんいるわ。でもね、あなたの前の勇者が消えてしまってからそのままになっているの」
俺の前の勇者なんて居たのか。
たしかに俺が初勇者って聞いているわけじゃない。
どんな奴だったのかな。
「前の勇者はどんな奴だったの?」
リラサは深刻な顔をしていた。
今まで一番表情が暗い。
「優しい人だったわ。とてもね。でもその優しさのせいで借りを返さない者たち、つまり滞納者を生み出したの」
優しい人か、まさに勇者!って感じの人だったのかな。
俺とは全然違うタイプってことだ。
「滞納者って言い方は生々しいな」
美少女の口からそういうサラ金用語は似合わないぜ。
俺みたいなクズたちの世界の用語だ。
借りては返さない、そんな奴らのことだからな。
「これを許すわけにはいかないの。かならず回収する。それも、あなたの仕事の一つよ」
ん?
さらっとおかしなこと言ってるよね。
まぁ許さないってのは同意。
回収するってのもわかる。
俺の仕事なのそれ!?
俺がやるのかよ。
「つまり俺って勇者でありながら借金取りでもあるわけ?」
リラサが笑った。
「借金取り! そうよそのとおり! あなたは勇者でありながら借金取りなのよ」
マジかよすげぇ!
ちょっと前代未聞の勇者だって掲示板にスレ建てるわ!
じゃなくてだな。
そんなことまで俺がこれからしなきゃいけないのかよ。
「おいおい、俺は今まで借金する側だぜ? 回収なんてしたことねぇよ」
たしか借金取りって相手を威圧して取れるものは根こそぎ取るって商売だったな。
俺にそんな度胸はない。
「しなければいけないのよ。その仕事もあなたの借りを返すことに加算されるわ」
それを言われちゃおしまいよ。
やるっきゃないモン!
「ならしょうがないな。やるわ、俺」
なんだかあっさりな返事になってしまった。
「意外。もっと反対するかと思った」
きょとんとした顔をしている。
たしかに普通の奴なら「そんなこと勇者がやることじゃない!」って言うかも。
でも俺は普通じゃないし。
元の世界帰りたいし。
「やればやるほど元の世界に帰れる日が近づくんだろ?」
その日のために、俺は決意を固めていた。
「確実に近づくわ。ただしちゃんと勇者業もしなさいよ。あんたはまず勇者なんだからね」
ごめん完全に借金回収だけするつもりになってた。
やっぱり魔王とかと戦わないといけないのね。
きっついわー、それきっついわー。
「も……もちろん!勇者業も頑張るよ」
動揺が完全に伝わってしまった。
「やっぱり忘れてたでしょ。アンタ」
はい、その通りです。
勇者をしつつ借金取りか。
辛いわー辛いわーマジ辛いわー。
おっと弱音弱音。
「まぁ、いいわ。説明はここまで。色々まだ伝えなければいけないことはたくさんあるけど、そんなに一度に伝えてもアンタの頭じゃ大変そうだから」
はい。
正直ここまででパンパンになってます。
「今日はもう休みなさい」
ありがてぇありがてぇ。
お腹も空いたし。
「ああこの家はプレゼントだから。アンタのアジト。あるものは好きなように使って」
太っ腹!
ちょっと古くさいけど助かる。
「マジかよサンクス。で、お腹が空いたんだけど」
腹に手をやりながらリラサに聞いてみる。
「キッチンの冷蔵庫を見なさい。アンタの世界のものが入ってるはずよ」
よかった謎のモンスター肉とかじゃなくて。
一体何が入っているんだろうか。
「じゃあ私は帰るわ。ゆっくり休みなさいよね。明日は実戦で教えてあげる」
去り際に嫌なこと言うなよ。
俺はバイトでさえ出勤日の前の日の夜は憂鬱になり死にそうになる男だぞ。
「え? 一緒に食べないの?」
リラサが俺のケツを蹴っ飛ばす。
「調子に乗るなよ!」
痛い。
すいませんでした。
怒涛の展開だった。
お腹すいた。
読んでいただいてありがとうございます。
書くのが楽しい。
叱咤激励お待ちしております。